俺と麗奈とお経
山田の学年を2年から1年に変えました。
あと話の中にある人物が出てきます。
「山っち、一生のお願いがあるんだけど、いいかな」
バイトの終わり際、麗奈が片目をつぶりながら手を合わせてきた。
「ったく、お前の一生のお願いは何回あるんだ?この間はダンスの大会に出たいからバイトを代わって欲しいじゃなかったっけ?」
麗奈と知り合って数ヶ月になるが、その間たけで一体何回の一生のお願いがをしてきた事か。
「いーじゃん。山っちにしかこんな事言わないんだよっ」
プッーと頬を膨らませて麗奈が怒った振りをする。
「はいはい。それで今度はいつのバイトを代わればいいんだ?」
「バイトじゃなくってさ、病院まで送って欲しいんだ。ダチが骨折で入院したんだけど郊外の病院でさ」
どうやら俺のスクーターに乗った記憶は麗奈の中に残っているらしい。
「それでいつがいいんだ?流石に今からじゃ不味いだろ」
今の時間は夜の7時、今から郊外の病院まで行くと面会時間は僅かしかない。
「それなら次の日曜日は駄目かな?ねっ山っち一生のお願い」
麗奈はまた手を合わせて今度は頭も下げてくる。
「その一生のお願いってのを止めろ。できる範囲の頼みなら聞いてやるから」
昔似た様な経験をした時にある後輩が"ちゃんと、できる範囲と聞くだけって逃げ道をつけとけばいいんすよ"とアドバイスをしてくれたのを思い出す。
それに流石にこれ位の言葉には言霊は宿らないと思うが、麗奈の今後の為もある。
「さっすが山っち話せるー。じゃお礼に家でご飯食べてかない?」
生憎、俺は年下のバイト仲間の家でご飯を平気でご馳走になる厚かましさは持ち合わせていない。
「素直に家まで乗せてちょうだいって言えばいいだろ?まったく一回乗せたら癖にしやがって。彼氏とか好きな男に誤解されても知らないからな?」
「ブッブー、私には彼氏はいませーん。ねっ山っち安心した?麗奈ちゃんは今フリーなんだよ」
「はいはい、ダンスを踊れて服のセンスが良くなってから喜ぶ事にするよ」
「分かんないよー。山っちがうまく口説いてくれたらなびいちゃうかもよ」
麗奈が俺に腕をからませて上目遣いで見つめてくる、でもこの小悪魔をなびかせるには、まだまだ努力を要すると思うんだよな。
――――――――――
「山っち、上がってきなよー」
「あのな、知らない男がいきなりお邪魔したら親御さんにご迷惑だろ?」
麗奈の家の前で、そんなやり取りをしていたら、ドアが開いた。
「麗奈、玄関先で騒いでどうしたの?あら、そちらの方は?」
玄関から出て来た中年の女性は麗奈の母親だろう。
「初めまして私は藤川さんと同じバイトをしている山田と言う者です」
メットを小脇に抱えて麗奈の母親に頭を下げる。
「うわっ、山っちかたっ。ママ山っちに家まで送ってもらったんだ」
「あー、貴方が噂の山田さん。お話は何時も娘から聞いています」
麗奈の母親がニヤニヤしているのを見る限り手放しで喜ぶ噂ではないと思う。
「いえ、こちらこそ藤川さんにはお世話になってばかりで」
麗奈が母親に笑顔でピースをしているけども、半分は社交辞令なんだけど。
「この子は迷惑を掛けてばかりでしょ?でも麗奈はアルバイトをする様になってから親でも驚くぐらいに代わったんですよ」
「ママ止めてよ。私は山っちから影響なんて受けてないし」
「誰も山田さんの影響なんて言ってないでしょ?山田さん大した物はありませんが夕飯を食べて言って下さい」
「ありがたいんですけどももう時間も遅いですから。今度お邪魔した時にご馳走になります」
俺が頭を下げて帰ろうとすると、白髪の女性が声を掛けてきた。
「へー麗奈の連れて来た男にしちゃ礼儀をわきまえてるじゃないか。でも坊主、目上の人間からの誘いに素直に応じるのも礼儀だよ」
「お婆ちゃん!山っちとはそんなんじゃないんだから、それに山っちは坊主頭だけどもお坊さんじゃないよ」
「麗奈もう少し勉強しな。この場合の坊主って言うのは男の子って意味だよ。…そういや爺さんの命日がもう少しだったね。でも寺のくそ坊主に頼むのは癪だから今年は我慢してもらうか」
麗奈のお婆さんが寂しげに呟く。
"退魔師である前に御仏にお仕えする僧侶であれ"それが俺の師の教えである。
「あのご宗旨は違うかも知れませんが経をあげさせてもらっても良いでしょうか?俺の実家は寺でして僧侶の資格も持っていますから」
最も修行をしたのは実家ではないんだけど。
読経を終え、話を聞くとお寺で住職が代替わりをしたらしいが、お婆さん新しい住職をあまり好きじゃないらしい。
「山っちって本当にお坊さんだったんだ。あれ?でも山っち教育学部だよね」
「実家は兄貴が継ぐから住職資格はいらないんだよ。それに教職は俺の夢だしな」
「あんた若いが良い声しているね、爺さんも喜んだと思うよ。これで飯を食わせなかったら爺さんに怒られちまうよ」
「山っち決まりだね!!それに山っちのお経は温かくて私好きだよ」
ここでご飯をご馳走になったら、その為に経をあげたみたいで卑しく思えてしまう。
「ありがたいのですが私はまだ僧侶として半人前の身です、それに僧侶として遇されたからには肉食は避けたいので」
その流れのまま会釈をして麗奈の家から出る。
「もう山っち、次はちゃんとご飯食べて行ってよ。…山っちお祓いとかもできるの?」
「それはその修行をした人がするんだよ。それじゃあな」
その修行をしたのが俺なんだけども。
――――――――――
山っちを見送っていると、お婆ちゃんが話し掛けてきた。
「麗奈、面白い坊主じゃないか。逃がすんじゃないよ!!」
「お婆ちゃん!だから山っちとは、そんなんじゃないの!」
「それならそれで良いよ。あれだけの男なら嫁を泣かさないだろうからね、親戚で独身の娘は…」
お婆ちゃん山っちにお見合いをさせる気だ。
「絶対に駄目!!山っちにお見合いなんてまだ早い」
自分でも理解できない苛立ちから大声を上げてしまう。
お婆ちゃんは意味ありげな笑いをあげて
「麗奈がいくら反対してもあれだけの度量がある男に惚れる女がいても不思議じゃないよ。ダンスとか見た目とかに拘って大きな魚を横取りされても私は知らないからね」
山っちを好きになる人か、分からない苛立ちはさらに強くなった。
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その頃、山田の部屋では
「マスター遅いのです!!僕のお腹はペコペコなのですっ」
帰りが遅くなった主を待つ使い魔がほえていた。
この小説だけとか、この小説から読んだって人はいるんでしょうか