退魔士の別れ
ドアを蹴破り家の中に入るともぬけの空だった。
「何もないな。本当に人が住んでるのか?」
唯一、生活の痕跡があるとすれば便利屋が食材を置いていくプラスチックの籠くらいだ。
(対象者は二階に住んでるんだよな。一気に攻め混むか)
靴を履いたまま階段を駈上る。
一階と違い二階は物で溢れ返っていた。
仏像や神像、悪魔を型どった像を始め様々な宗教の祭祀や呪術で使われる道具が所狭しと置かれている。
廊下に置かれた本棚には経典、聖書、宗教関連の本が隙間なく入っていた。
(壁にはお経に魔方陣、呪言まで書いてるとはね…何をしたいんだ?)
廊下を置くに進んでいくと礼拝堂と書かれた部屋が見えてきた。
ドアの隙間からは抵抗力のない人なら発狂しかねない濃さの霊気が溢れだしていた。
「どうぞ、入って下さい。鍵は掛かっていませんから」
部屋の中から聞こえてきたのは、涼やかな男声。
声の言う通り、ドアには鍵は掛かっておらず音もなく開いた。
部屋の中にいたのは黒縁眼鏡を掛けた細身の男。
「ようこそ、私の礼拝堂へ。生きた信者を始めですね」
部屋には様々な霊がいた、幼い少年、少女に女学生、体格のいい中年男性もいるし成熟した女性もいた。
「貴方の目的は何なんですか?御仏を操って何がしたいんだ?」
「勘違いをされていませんか?私は霊の手助けをしているだけですよ。生前叶えられなかった怨みを晴らすお手伝いをしてるだけですよ。そして彼等はそんな私を神と崇めるんです」
男の目には迷いがなく平然と自分は神だと言い切る。
「あんな霊の塊を作る奴が神だと」
「あれは究極の救いです。男も女も子供も大人も金持ちも貧乏人も全ての人が一つとなる。そこには寂しさも差別もない。そして彼等は私の救済の手助けをしてくれているんです」
男のは己の言動に酔っているのか恍惚と言っていい表情になっていた。
「怨みや怒りで繋がっても救いにはならない。今すぐ、霊を解放しろ」
「議論にも値しませんね。お願いします」
男の呼び掛けに応えて現れたのは見知った二人。
「し、篠崎さんに文夫さん?二人とも成仏したんじゃ?」
「女性は私の力の範囲にいましたし男性はお札を使いましたから呼び戻すなんて造作もない事です…そうだ、その女性が私に奉仕する所を見せてあげましょう」
男はニヤリと笑い篠崎さんを手招く。
八木に見せていた笑顔と違い無非常なまま男の膝元に膝まずいた。
(八木泣いてたよな…彼女が出来たって嬉しそうに笑ってた癖に)
「おい、こら!!いい加減にしとけよ。テメエをぶん殴れるなら悪鬼になるぜ。 我金剛夜叉明王様、お力を貸して下さい。オン バザラヤキシャ ウン 」
「なんだ?この霊気は?みんな掛かれっ」
男の命令で部屋の霊が動き始めるが、俺には近づけないでいる。
「残念だな。俺には本物の神様からもらったお守りがあるんだよ…気絶させて部屋から引き摺りだしてやんよ」
椅子に座ったままの男を思いっきりぶん殴る。
「痛いっ!!神に何をするんだ!?」
「言ったろ?気絶させて部屋から引き摺りだすって」
「このままじゃ僕の王国が滅びる。そうだ!!みんな掛かれっ。窓の外を見てみろっ、このままじゃお前の仲間は全滅するよ」
見ると霊が塊のまま、互助会のみんなに突っ込んでいく。
「ちっ!!ロキ神様お力をお貸し下さい」
携帯を取り出して霊の塊に投げつける。
「これでお前は無防備だな。掛かってください」
男の合図で部屋の霊が一気に蠢き始た。
「間に合え!!金剛夜叉明王呪 オン バザラヤキシャ ウン」
男を殴ったの同時に俺の意識は闇に沈んでいった。
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私とプリムが現場に着くとシンと静まり返っていた。
「サエッタさん、山っちはどこにいるんですか?」
無言のサエッタさんが指差す先には眠った様に身動き一つしない山っちがいる。
「大ちゃん、大勢の霊に取り憑かれちゃって」
「山っち?私だよ!!麗奈だよ…ねぇ山っち起きてよ!!」
「生意気女無理だよ。マスターの意識は闇に沈んでいるんだ…心に負担が掛かりすぎて意識を手放しんだ。マスターはもう起きれないかもしれない」
…嫌だ…そんな…嫌だ。
明日で終わるかも?




