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決戦と別れ

 端から見たら異様な光景だと思う。

 夜の廃工場を、大勢の僧侶や巫女、神父が取り囲んでいるのだから。


「札の出所が潰れた印刷工場とは思いませんでしたよ。しかし辺鄙(へんぴ)な場所に建てましたね」

 廃工場の周囲には民家もなく周囲は閑散を通り越して荒寂としている。

 

「調査班の話だとーここ何年かで、周辺の土地が買い占められたみたいよー。しかも、印刷工場が潰れてからのお話なんだって」 

 俺の問い掛けにグレーの戦闘服を着たサエ姉さんが答えてくれた。

  元は住居に隣接された小さな印刷工場だったが、不況の煽りを受けて倒産。

 経営者夫婦は自殺しているらしい。

 

「潰れたのに土地を買う金があったんですか?」


「土地を買ったのは社長夫婦の息子。今、家に住んでいるのもその息子だけなんだってー」

 何でも、社長夫婦の息子は当事引きこもりで親の葬式にも出なかったらしい。

 最初は親の遺産を食い潰していたが、ある日を境に金回りが良くなったそうだ。

 そして同時期に周辺で幽霊騒動が起きた上に、かなりの額で土地を買いたいと息子の代理人から話があり、周りの住人は直ぐにいなくなったらしい。


「引きこもりですか…今は違うんですよね」


「ううん、町の便利屋に頼んで日用品を買ってもらったりゴミを捨ててもらってるんだってー。便利屋とのやり取りはメールのみ。気合いの入った引きこもりだよねー。そう言えばレイナちゃんはー?もしかしたら、振られちゃったとか」

 何を勘違いしたのか、気まずそうな顔になるサエ姉さん。

 

「残念ながら振られてませんよ。麗奈は本部で万知様を支えてもらうんで」

 霊的感受能力が高過ぎる万知様が何百と言う悪霊と対峙したら精神が壊れてし

まう。

 それでも影響を受ける可能性が高いので、麗奈に側にいてもらっている。


「そっかー、茜ちゃん親友が出来たって言ってたもんねー。大ちゃん…始まるよ」


「ええ、分かっています」

 手筈では今からネット回線を切断して、家に侵入し対象者を確保する。

 少しの静寂の後、携帯に作戦開始のメールが届いた。

 その直後、一帯に異様な声が響き渡った

 その声は少女かと思うと老爺に変わり、次の瞬間には成熟した女性の物に変わっている。

 共通点は怨みや憎しみ、哀しみ、そして狂気に彩られている事。


「出ました、読経、祝詞、詠唱始めて下さい」


「流石の私でもあれはキツイわね」

 工場の屋根の上に現れたのは、何百体もの霊が絡み合ったどす黒い塊。

 どの霊もおぞましい笑顔を浮かべている。

 もし、麗奈がここにいたら精神を保てなかったろう。


「良いですか、無理に攻撃をせずに襲ってきた霊を複数で消滅させて下さい。辛くなったら結界を張ってあるバスで休んで下さい…来ます!!」

 塊の一分が剥がれ落ちたかと思うと何百もの霊が襲ってきた。


「オン バザラヤキシャ ウン」

 もう何回真言を唱えて霊を消滅させたか分からない。

 それでも霊は減る様子すら見せない。

 その所為で体力や霊力が尽きてへばってる会員も出て来ていた。


「薫ちゃん、薫ちゃんしっかりして」


「雪菜、格好つけたかったけど、やっぱり駄目だわ。二人で天国に行くか」

 篠崎さんの悲痛な叫び声がしたので、見ると八木が倒れ込んでいた。


「八木、気を弱めると憑かれちまうぞ…ちっ、間に合わないかっ!!」

 倒れた八木に何体もの霊が襲いかかる。


「させない…薫ちゃんは私が守る!!薫ちゃんがどれだけ苦労して調査をしてるか知ってるの?あんた達みたいに傷を舐めあってるだけの人達を薫ちゃんに憑かせてたまるかっ」

 篠崎さんの身体が強く発光し始める…あれは霊力を燃やし尽くして相討ちする気だ。


「雪菜、止めろっ。止めてくれー、頼むから居なくならないでよー、ずっと側にいるって約束したじゃないか」

 八木は動かない体を無理矢理動かして絶叫する。


「薫ちゃん、私は薫ちゃんに会えなかったらちゃんと成仏も出来なかったんだよ。でも、薫ちゃんと知り合って恋をする事が出来て…大好きな薫ちゃんを守って笑いながら逝けるんだから泣かないで…薫ちゃん、大好きだよ」

 篠崎さんはそう言って八木にキスをすると虚空に消えた。


「ちっ…サエ姉さん、八木を頼みます。俺は家に侵入して直接対象者を叩きます」


「大ちゃん、無理だよ。家の中には強力な霊が何体もいるんだよ」


「でも、このままじゃじり貧になって全滅しかねません。それに俺には強力な御守りがあるんで」

 さっきから霊は俺に取り憑こうとしない、それは携帯に着いている神の力が込められストラップ(りゅうのうろこ)のお陰。


―――――――――――――――


 本部にある部屋で茜は泣き崩れていた。

 良く知る互助会員が次々に倒れているのを感じているからだ。


「駄目っ!!大君行っちゃ駄目!!」


「茜、山っちがどうかしたの?」


「このままじゃ大君かが…麗奈今から現場に向かって!!麗奈が居ればなんとかなるよ」

 山っちを助けたいけど、私はただの足手まといにしかならない。


「ちょっと待って…万を知る万知の名に応えよ!!出でよ!!異界の友」

 茜の言葉に応じて淡い光が弾け飛んだ。


「こーら、礼儀知らず女。このプリム様が着いていってやるから、少しは気合いを見せろっ!!」


「む、虫!?分かった!!行こっ」

 プリムを胸ポケットにしまい走り出す。


「麗奈、車を手配しておいたから、大君をお兄ちゃんをお願い!!」

 親友の言葉を背中に受けて私は部屋を飛び出した。

思い付きで始めた優しい退魔士もあと少しです。

本当は妖怪退治物にする予定だったんですが、気づけば一つ一つに向き合う地味な物語になっていました。

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