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退魔士と使い魔の別れ

 現実は物語の様に上手くはいかない。

 どれだけ努力をしても、それを嘲笑うかの様な現実が立ちはだかる時がある。

 その日、互助会の本部には互助会の全会員が集まっていた。

 師匠や俺の属する現場班、柘植さんや八木が属している事前調査班、秋川さんが所属する事後処理班、マルコ神父が属している修行場勤務者、サエ姉さん達精霊 や使い魔、そして地域支部の人達。


「互助会の会員全員で一気に攻め滅ぼすKA。嫌なやり方だNE。でも、それ以上にムカつくのは御仏の悲しみに付け込む奴等DA。それだけじゃなく、彼奴等は…」

 隣に座っている八木が怒りの余り歯噛みをしている。


「薫ちゃん…薫ちゃんも戦うの?」

 篠崎さんにしてみれば事前調査班の八木が戦うのが、不安なんだと思う。


「俺も退魔士の端くれだからな。山田、俺は修行場に行ってギリギリまで修行をしてくる。愚僧なれど、御仏をお救いする為に迷いはない」

 そこにいるのは、普段のチャラい八木ではなく一心に仏道に生きようとする一人の僧侶。

 

「そうか、俺はサエ姉さんに用事があるから次に会うのは当日になるな」

 俺は麗奈に待ち合わせのメールを出して席を立った。

 きっと無理をしている親友の覚悟が揺らがない様に、振り返らずに歩みを進める。


―――――――――――――


 待ち合わせ場所に着くと、そこには山っちとサエッタさんがいた。


「山っち、お待たせ。サエッタさんお久しぶりです。山っち、突然どうしたの?」


「ちょっとな、ここじゃ話し難いからカラオケに行くぞ」

 何時になく思い詰めた感じの山っちと、悲し気な表情のサエッタさん。

 箱に入るなり、山っちが呟く様に話し出した。


「プリムとの契約を解除して元の世界に帰。そして、サエ姉さんに霊力を集中させる。解除は帰ったら直ぐにするから、プリムと何か話す事があれば時間を作るよ」


「はぁ!?山っち、何言ってんの?マジ、意味分かんない」

 今更、あの虫を帰す必要なんてないのに。


「例のお札の犯人が分かったんだよ。準備が整い次第、互助会員全員で一気に攻め込む。プリムに使う霊力も無駄に出来ないんだよ」

  

「ちょっと待って。芹香はどうなるの?」

 芹香の問題は全然解決してないのに。


「お札以上に禄でもない物が出て来たんだよ。元を絶てば高城さんの問題も解決する…一時間いや一分も無駄に出来ない状況になったんだ」

 山っちはそう言ってスマホを取り出した。

 スマホに写っていたのは、黒くて丸い薬みたいな物。


「何、これ?」


「その丸薬には呪術が掛かっていて飲むと苦しまずに死ねるらしい。死亡原因は心臓麻痺とかの突然死になる。謳い文句は大切な家族を悲しませずに、保険も減額されません、だそうだ。悩み苦しんでる人にしてみれば悪魔の囁きだよな」

 …山っちの話を聞いて、言い様のない嫌悪感に襲われた。


「あり得ねえ。私のダチにお父さんが自殺して何年も苦しんでる奴がいるんだよ。それに、それじゃその人の魂はじょうぶ…まさか?」


「ああ、この丸薬を飲めば霊の集団に呼び寄せられるんだよ。だから、一刻の猶予も失敗も許されない」

 狂っている、絶対にまともな考えじゃない。


「山っち、私はどうしたら良いの?やっぱり、虫は還さなきゃ駄目?」


「妖精の特徴は遊びと悪戯が大好き。一説には幼くして亡くなった子供の霊だとも言われている。早い話が良くも悪くも影響を受け易いんだ」

 確かに、虫は遊び好きで影響を受け易い。


「悲しい想いも受け易いんだ…」

 山っちは力なく頷いた。


―――――――――――――


 山っちか買って来たお土産に虫はご満悦だ。


「プリム、話があるんだ」

「マスター、これでも僕は使い魔ですよ。言わなくても分かります。おい、生意気女!!マスターを裏切ったり、哀しませたら許さないからな。マスター、マスターはもう少しズルくなって下さい。真面目、お役目ばかりじゃ生意気女に捨てられちゃいますよ…それと楽しかったです、僕みたいな役立たずな妖精を解約しないでくれてありがとうございました…」

 私のケンカ友達は泣きながら異世界に戻って行った。

 ううん、気付いたら私も山っちも泣いていた。

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