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退魔師の帰郷、退魔師の決意

 朝起きてカーテンを開けてみると、雪が止んで澄んだ青空が見えていた。

 庭の片隅を見るとお兄さんのワゴン車が雪に埋もれている…弘前ぱねぇ。

 時計の時間は朝の7時、でも家の前は既に雪が片付けられて道が出来ている…動くの早すぎだって。

 私が茫然としていると、ドアがノックされた。


「麗奈、起きてるか? もう少しで朝飯になるから顔を洗って来い」


「山っち、部屋に入って来くればいいじゃん。 麗奈ちゃんの可愛いパジャマ姿を見たくないの?」

 本当はスエットなんだけど。


「良いから早く着替えて起きて来い。飯を食ったらちょっと出掛けるぞ」


「分かったー、今行くねー」


 山っちとの何気ないやり取りが嬉しくて堪らない、私が山田大明の彼女ですって、窓を開けて大声で自慢をしたくなる。


 台所ではお義母さんとシャルロットさんが忙しそうに朝御飯の支度をしていた。

「おはようございます。おかげで夕べは良く眠れました」

 目指せ、好印象娘。

 都会の娘は、言葉遣いが悪いなんて思わせてたまるか。


「麗奈ちゃんおはよう。シャル、お父さんと大清を呼んできて」

 どうやらお兄さんの名前は大清らしい。

 お父さん達も来て朝御飯になった、どうやら山田家は家族揃ってご飯を食べる派らしい。


「今日の朝飯は卵味噌か。それに蜆の味噌汁とほうれん草のお浸し。麗奈、朝はパンの方が良いか?」

 何だろう、あの親子丼の玉子だけみたいな物は。


「山っちと一緒にする…山っち、やっぱりそれはご飯にかけるんだ」


「玉子味噌はうまいんだぞ。これがあれば軽く3杯は食える。麗奈も食べてみるか?」

 

「うん…やばっ、美味しい!!」

 玉子味噌は優しくて素朴な味がした、トロトロの玉子に味噌が溶けていて熱々のご飯にピッタリ!!

 何よりもご飯自体が美味しい。


「大明、今日はどさ行くんだ?」


「加藤さんの家に水あげに行ってくる(加藤さんの家に水をあげに行ってくる)。詳しく話聞かねば何も出来ねはんで(詳しい話を聞かないと何も出来ないから)」

 お義母さんの話に山っちが真剣な表情で答える、加藤さんが今回の退魔の対象なんだろう。


「んだが、大丈夫なんだべ?怪我とかせばまねや(そう、大丈夫なの?怪我とかしたら駄目よ)」


「それだば分がんね(それは分からないよ)。麗奈はどうする?」


「うーん、山っちに着いてくよ。茜に山っちから離れるなって言われたし」

 とりあえずご飯を食べたら、山っちから詳しい話を聞いておこう。


――――――――――――――


「はぁ!?なにそれ?そいつらムカつく!!」

 山っちの話によると、加藤さんのネット販売はエセ動物愛護団体に散々叩かれて閉鎖に追い込まれたみたい。


「本当はそいつらに謝ってもらうのが一番なんだけど、正義感で動いてるから厄介なんだよな。泥田坊になってるみたいだから最悪魂を消すしかないんだよ」

 加藤さんは山っちと親しい仲だったみたいだ。

 そんな人の魂を消したら、山っちはまた心を傷つけてしまう。


「山っち、泥田坊って?」


「先祖伝来の田んぼが子孫の放蕩で失われた時に現れるって言われている妖だ。田畑を無くして無念のうちに亡くなった方の亡霊だよ」

 加藤さんは何も悪くない、動物愛護を勘違いした奴等の自己満足の標的にされただけ。


「その大学生は今も普通に生活しているんでしょ?人の生活を壊しておいておかしいよ」


「どっかの電気会社の人は他人の生活を壊しておいてボーナスもらおうとしたんだぜ。自分で自分を悪いって言うのは病人ぐらいだよ」

 加藤さんの家は山っちの家から歩いて10分ぐらいの所にあるそうだ。


「ちょっ、山っち待ってよ。山っちの大切な彼女は雪道を歩き慣れてないんだからねっ。彼女には優しくしろっ」

 歩道には雪が積もっているから車道の脇を歩かなきゃいけないんだけど、ツルツルに凍っていて歩きにくい。


「麗奈、大声でそんな事を言うな。ご近所さんに聞かれたら恥ずかしいだろ」


「私が彼女だと恥ずかしいのか?」


「この辺りの人は餓鬼の頃から世話になってるから照れ臭いんだって。お前は自慢の彼女だよ」

 山っちの顔が真っ赤だ。


「山っちー、寒いのに顔を赤くしてどうしたのー?」


「お前、分かって言ってるだろ!!良いから行くぞ。今日は晴れてるから岩木山が綺麗に見えてるな」

 山っちの視線の先には真っ白な山が佇んでいた。


「綺麗な山だね。岩木山って演歌に良く出てくる山でしょ」


「良く知ってるな。去年、お前と美保達が何本も食べたトウモロコシはあそこで取れるんだよ。(だけ)キミって名前なんだぜ」


「あー、あれ甘くてヤバいぐらいうまかったよね。虫はあの体で1本食べちゃうし」

 私は山っちの彼女なんだから、虫の生活をきちんとただしてやろう。


「家に嶽キミのアイスがあるんだよ。名前がキミだけをアイスって言うんだけど食べてみるか?」

 

「山っち、もう一回アイスの名前を教えて」


「だから、キミだけをアイス…麗奈、スマホをだして何してんだ?」 


「別にー、ほらっ歩く、歩く」

 ボイスレコーダーで録音完了。


――――――――――――――


 文夫さんの家には兄貴連れられて何回か遊びに来た事があったから直ぐに分かった。

 分かったけど…


「山っち、何か空気が沈んでるね…当たり前だよね」

 麗奈の言う通り文夫さんの家は暗く沈んでいる。

 玄関にあるポストからは手紙の類いが溢れだしていた。


「麗奈行くぞ…すいません、大清の弟の大明です」


「大明君大きくなったわね。大清君から話は聞いてるよ、今回はお休みの日にわざわざごめんね。さっ、あがって」

 文夫さんのお母さんが無理に笑っているのが分かって辛い。


「お邪魔します、先に水を上げたいんですけど良いですか?」

 ふと見ると電話の線が抜かれていた。

 きっと、これは。

 おばさんの話では愛護団体のホームページに加藤さんの家の電話や住所が載せられて抗議の電話や手紙が酷かったらしい。

 警察に相談して削除してもらって直ぐに掲載のいたちごっこ。

 ちなみに例の愛護団の大学生を訴えても逮捕出来る程の罪には問えないらしいし、おばさんはそんな気力は残っていないって悲しそうに笑った。


「山っち、なんとかならないの?」


「このままじゃな。向こうが、ずる賢いんなら、もっとずる賢い奴の知恵を借りるよ」

 ザコに相談すれば何か知恵を貸してくれるだろう。

 俺は文夫さんと向き合ってみせる。


玉子味噌の簡単レシピ

鍋に濃いめの具なし味噌汁を作る。量は味噌汁1人前の3分の1ぐらいが目安。(味見してしょっぱいぐらいが良い)

玉子を荒く溶いておく、かき混ぜすぎないのがこつ。

味噌汁もどき沸いたらた玉子を入れて火を止めて鍋に蓋をして蒸らす。

出来上がりっ。

本来は貝焼き味噌って言ってホタテを入れますが作者は具なしが好き。

ちなみに家庭料理なので作り方は色々あるかと、いつもはかって作らないので分量はお好みで。

熱々のご飯にあいます

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