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退魔師の里帰り、帰郷家族と退魔の訳

作者の家は農家じゃありませんが親戚には農家が多くきつい話を聞きます

 弘前駅の裏口は信じられないぐらいに閑散としていた。


「山っち、ここ駅だよね。タクシーどころか人もまばらじゃん」


「東京と一緒にするな、人口が違うんだよ。迎えの車が来たから行くぞ」

私が何気に楽しみにしていたのは、山っちの家族がどんな人達なのかだ。

 山っちと似たゴツい系なのか、予想外に草食系かもしれない…あっ、山っちも中味だけは草食系か。


「大、変わらねしてらな。(大、変わりはないか。)それでなのおなごはどれよ?(それでお前の彼女はどの人だ?)…いねべな(いないじゃないか)」

 予想の斜め上が来た、まさかのジャズーニズ系イケメン…山っち、遺伝子違い過ぎじゃん。


「お兄ちゃん、そさいるべな(そこにいるだろ)」

 お、お兄ちゃん!?あの山っちがお兄ちゃん?


「わがっちゃね、(分かってるよ)大がめごいおなご連れて来たのが嬉しぐてよ(大が可愛い彼女を連れて来たのが嬉しくてな)。君が藤川さん?弘前は寒いでしょ?さっ、車に乗って」

 山っちのお兄さんの車は大きめのワゴン車。


「お兄ちゃん、お父さん達は?」

 私の前だと親父とか言う癖にお父さん?

 山っち、私をそんなに萌えさせたいのか?


「おめが、おなご連れて来たのが嬉しぐて近所の人と飲んでらね(お前が彼女を連れて来たのが嬉しいみたいで近所の人と酒を飲んでるよ)」

 お兄さんは明るく笑いながら前を向いた。

 山っちの視線は何故かバックミラーに釘付けになっている。

 バックミラーの中のお兄さんの顔は暗く沈んでいた。


(山っち、お兄さん…お兄ちゃん何があったの?)


(お前わざと言い直したろ…こないだお兄ちゃんの幼馴染みが自殺したんだよ。それが今回の退魔だ。気づかない振りをしてくれ。お客様に落ち込んだ顔は見せたくないんだよ)


(はーい、どっちも意地っ張りで似た者兄弟なんだね)

 

(意地っ張りじゃなくじょっぱりなんだよ)



 情張り、頑固者とか意固地な性格を言うらしく弘前にはじょっぱりな人が多いらしい。 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 渋滞はしていないのに車のスピードはゆっくりだ。


「山っち、大丈夫なの?全然前が見えないし車滑ってるじゃん」

 外は物凄い吹雪で視界がかなり悪い。


「これぐらいなら大丈夫だよ。お兄ちゃん遠回りして良い道を選んでくれてるんだぜ」


「ところで山っち弘前の街ってまだ?メインストリートみたいなところはないの?でかいヨーカドーしかなかったじゃん」

 ちなみに弘前のヨーカドーは7階建てらしい。

 次の瞬間、車内がシンと静まりかえった。


「さっき、通った所がそうだよ。見えないかもしれないが、駅の正面からヨーカドーに抜けていく道がメインストリートになっている」


「まじっ?ありえなくねっ!?ヨーカドー以外なんもないじゃん」


「そうだよ、弘前は何もない田舎だよっ。でも空気は綺麗だし食い物がうまい、津軽美人って言葉もあるんだぞ」


「あー、あー、彼女の前で故郷の美人自慢したなっ!!ありえねー」

 私にしてみれば何時もの山っちとのやり取り。


「ぷっ、あっはっはっ!!いや、まさか大とこれだけ話してくれる女の子がいるとはなっ。大、おめ藤川さんを逃がへばまねや(大、お前藤川さんを逃がしたら駄目だぞ)」


「言われねしても、わがってらね(言われなくても、分かってるよ)。わが麗奈を離すわげねえべな(俺が麗奈を離す訳ないだろっ)」

 おうおう、何を言ったか分からないけど顔を赤くしちゃってー。


「藤川さん、大が藤川さんを離す訳ないだろだってさー」


「お、お兄ちゃん!!何言っちゃうんずよ(何言ってんだよ)」

 私はこの時まだ知らなかった、このやり取りが辛い気持ちを見せない為に兄弟でじょっぱりをしていた事を。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 山っちの実家は駅から30分ぐらい行った所にあった、あったんだけど。


「山っち、周りなんもなくね?」


「良く見ろ、リンゴ畑と田んぼがある」


 お寺という事もあり、山っちの実家は周りから少し離れた場所に建っていた。


「暗いし雪が積もっていて見えないつーの!!周りなんもないから真っ暗じゃん」

 暗闇に浮かぶお寺は彼氏の実家とは言え迫力がある。

 だけど、そのお寺からは賑やか過ぎる笑い声が響いている。


「さて、藤川さん疲れてるところ悪いけど顔をだけ出して欲しいんだ。主役が来なきゃ意味がないからね…大、暗いはんでって庭で襲えばまねや(大、暗いからって庭で襲ったら駄目だぞ)」

 山っちのお兄さんは笑い声を残して闇に消えていった。


「笑うのも辛い癖に無理しやがって…麗奈、今回の退魔には無理に関わらなく良いぞ」


「着いて来て欲しいからいってるんでしょ?山っち、今さらそんなのはなしだよ。さっ、行こっ」

 山田家を舐めていた、予想の斜め上の連発だ。


「いらっしゃいませ、貴方が麗奈ちゃん?遠い所良く来てくれたわね…大、おめ他所様の娘さんにバガな事してねえべな(大、あんた他所様の娘さんに馬鹿な事してないでしょうね)」

 山っちのお母さんの見た目は…怖いの一言。

(ご、極妻!?目付きが鋭ど過ぎっ)

 美人なんだけれど目付きが鋭く和服を着てキリッとした感じの義母さんはお坊さんの奥さんってより怖い人の奥さんに見えてしまう。


「ふ、藤川麗奈でしゅ。何時も大明さんにお世話になって、これつまらない物ですが」

 緊張のあまり噛んでしまう、つうか、あり得ない人がいた。


「ありがとうございます。レイナ、私の名前は山田シャルロット、よろしくねっ」

 山っちの兄嫁はヨーロッパ系の外国人だった。

 山田家ぱねえ。

 ちなみにお義父さんは山っちに髭を生やした感じの豪快なお坊さんだった。

 お義母さんの輪郭プラスお義父さんの目で山っちのお兄さん。

 お義父さんの輪郭プラスお義母さんの目で山っち、そんな感じがする。

 挨拶を終えた私は旅の疲れと違う疲れが重なり眠りに落ちていった。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 泥田坊になったのは加藤文夫さん、兄貴の幼馴染みで俺も小さい頃は可愛がってもらった。


「お兄ちゃん、文夫さんさ何あったんず(文夫さんに何があったの?)」


「あれ親父さんの畑ばついだばってながながめぐいがねえでよ(あいつ、親父さんの畑を継いだけれど中々うまくいかなかったんだよ)。それでも仲間うちでネットさホームページ作ったり頑張っちゃんだね(それでもネットにホームページを作ったりして頑張っていたんだ)。今年の夏にあれの畑さアライグマ住み着いてわや被害受けたんだね(今年の夏にあいつの畑にアライグマが住み着いて凄い被害が出たんだよ))」

 ここ数年、青森にもアライグマが住み着いて繁殖をしている。


「駆除さねがったのな(駆除しなかったの?)」


「アライグマを駆除するには資格いるんだね(アライグマを駆除するには資格がいるんだよ)。文夫もその資格ばとって罠しがけだんばって(文夫もその資格をとって罠を仕掛けたんだけど)」

 お兄ちゃんはそう言うと目を伏せた。


「上から来た動物保護の活動しちゅ大学生達さ目つけられてネットで叩かれてホームページ閉鎖になっんだね(東京から来た動物保護のや活動をしている大学生に目をつけられてネットで叩かれてホームページが閉鎖になったんたよ)」


「本当にな?」 


「それさ今年の大雪でハウス潰れでまって(それに今年の大雪でビニールハウスが潰れてしまって)。借金返せねえし仲間さも申し訳ないってあのバガ首釣ったんだね(借金返せないし、仲間に申し訳ないって、あの馬鹿首を釣ったんだよ)。わさ、何も言わねでよ(俺に何も言わないで)」

 俺は文夫さんを退魔出来るんだろうか?

 いや、して良いんだろうか。




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