退魔師と昼休み
昼休みの中庭では大勢の生徒が弁当を食べていた。
その中でも一際目立つ集団がある。
「池谷先生ー、私のお弁当食べて下さい」
「池君、今日の唐揚げうまく出来たんだよ」
「池ちゃん、私のおにぎりちょーうまいんだよ」
同じ実習生の池谷が大勢の女子生徒に囲まれていた。
それに引き換え
「山っち、唐揚げが足りないー。美保あんた卵焼きそれで3つめじゃん」
「兄貴、タコさんウインナーは後ないの?」
「麗奈、1人で食べ過ぎ!!少しは遠慮しなさいよ」
「山っちの弁当を期待して今日は弁当持ってきてないから無理だっつーの」
麗奈達は俺が作って来た(正確には作らされた)弁当に食らいついている。
「麗奈達いーな。先生、私にも分けてよ」
「てか普通、実習生にお重を作らせるか。麗奈って山田先生に遠慮がないよね」
「みんな気を付けなー。山田先生に近づくと麗奈が恐いよー」
麗奈達の食いっぷりに興味が湧いたのかクラスの女子が寄ってきた。
「うっさい!!そんな事言ったらお弁当分けてあげないんだからね」
どうやら弁当の所有権は俺から麗奈に強制移行したらしい。
そんな賑やかな中庭に似つかわしくない暗い気が漂ってきた。
妬み、怨み、嫉み…そんな暗い負の感情、気を探ると1人の女子生徒に辿り着いた。
その生徒は木の陰から池谷達を恨めしそうに見つめている。
「山っちー、なによそ見してんの!!どうせ女子を見てたんでしょ?このセクハラ実習生!!」
どうやら麗奈は俺の視線に気づいたらしく頬を膨らませて怒っている。
「うわっ!!夏希、麗奈って焼きもち酷くね?」
「酷いどころじゃないよ。僕が兄貴と30分以上電話したら不機嫌になるんだから」
「ありえねー。男子には愛想の欠片もない癖に」
池谷の所以上にここも賑やかになるが、例の生徒は相変わらず池谷達を恨めしそうに見つめている。
(つまり騒がしいのが妬ましいとかじゃないと…しかし、あれはやばいな)
俺は麗奈だけに聞こえる様に小声で話し掛ける。
幸い、他の生徒は自分達の恋の話に夢中になっていた。
「麗奈、あの木の陰から池谷達を見ている生徒が誰か分かるか?」
「こんなに女子に囲まれてるのに不満なの?…ちょっ、山っちあれやばくね?」
麗奈を修行をしたから濃い負の感情には気づく。
「かなりやばいな。あれは霊に取り憑かれねないぞ」
「でも自業自得かもね。彼奴は陽本明、オカ研でヤバい事ばかりしてたんだよ」
名前とは裏腹に陽本明は長い髪が顔に垂れ掛かり顔に影が出来ている。
「麗奈、池谷と仲が良い生徒に色々な話を聞いてくれ…手遅れになるとまずいしな」
「りょーかい。お代は明日のお弁当でいいよ」
麗か奈か俺にむかってウインクしてみせる。
「山田先生、明日は私達の分もお願いしますー」
「兄貴、明日はオムライスが良いな。僕は和風で」
「山田さん、私はピリ辛でお願いします」
…どうやら今日の倍は弁当を作る必用があるみたいだ。
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