退魔士と七不思議1
久しぶりの山田さんです
理事長室から退室した俺を待ち構えていた人がいた。
「藤川さん、もう下校時間は過ぎてますよ」
流石に理事長室で生徒を呼び捨てにするのは常識で考えたら駄目だろう。
「山っち、その藤川さんは止めてよね。キモくて寒気がするよ」
(場所を考えてくれ。ここは理事長室の前だぞ)
「うわっ、今度は小声で話すんだ!!大丈夫だよ、理事長先生は婆ちゃんのダチなんだから」
そう言えば麗奈のお婆さんはやたらと顔が広いらしい。
「誰ですか?理事長室の前で騒いでるのは!!あらっ麗奈ちゃんじゃない、どうしたの?」
「この鈍感教育実習生を迎えに来ました。理事長先生、山っちの事よろしくね。それと婆ちゃんがまた飲みに行こうだって」
「そう、菊ちゃんによろしく言っておいてね。麗奈ちゃんは山田先生とお知り合いなの?」
菊ちゃんの言い方からすると、麗奈のお婆さんと理事長先生は子供の頃からの知り合いかもしれない。
「バイト先が同じなんだ。実習期間中は私が山っちの事をきっちり監視しておくから」
その言葉を聞くと理事長先生は意味ありげな目で俺を見始めた。
「そう貴男が菊ちゃんが言っていたお坊さんなのね。もしかして麗奈ちゃんと仲良くなったのは去年の6月ぐらいからしら?」
「そうですが、なぜですか?」
確かに麗奈と話す様になったのは去年の6月辺りだ。
「山田先生、覚えておきなさい。麗奈ちゃんぐらいの年の娘は良い意味でも悪い意味でも周りの影響を受けるんですよ。麗奈ちゃんはその頃から挨拶、授業態度、校内活動への姿勢が変わってきたんですよ」
「山っち見直した?私は結構真面目に授業を受けてるんだよ。さっ、部活見学にしゅっぱーつ」
女生徒に落胆の溜め息で迎えられた教育実習生は学園でも有名な美少女に連行されて姿を消していった。
―――――――――
「麗奈、お前は今回の依頼に関わらなくても良いんだぞ」
「そんな事言っても良いの?新しく来た不細工な教育実習生が1人でぶつぶつ呟いていたらますます警戒されちゃうよ」
確かに一般の生徒には霊が見えないから話し掛けている姿はあまり見られたくない。
「麗奈、良いのか?遅くなるぞ」
何だかんだで8時は過ぎるだろう。
「何を今更言ってんの。どうしても気になるんなら今日の晩御飯は山っちの手料理が良いな」
「そうか、それなら進学科、スポーツ科の体育館、屋上、渡り廊下の順番で案内してくれ」
「任せときなって。まずは進学科だと夜に物を書く音が聞こえるって話だよね。なんで山っちは興味を持ったの?」
「進学科で物を書く音だから勉強に対して悔いが残ってると思うんだよ。可能性として高いのは卒業生の生き霊だな。あの時もっと勉強していれば違う未来が待っていたって思いが妄念となり教室に現れたんだと思う」
誰でもあの時こうしていればって悔いる時がある、多分、同級生との格差に納得出来てない人だと思う。
「生き霊って厄介なの?」
「いや、よほど強い思いじゃない限り強引に戻しても大丈夫だよ。強ければ組織に頼んで本人を特定して誰かに動いてもらうさ」
今回は1階から移動する事になった。
「なあ、麗奈この部屋は何の部屋なんだ?」
部屋の中からは淀んだ空気を感じる。
「ここは文化部棟なんだよ。それでここは確かオカ研じゃなかったかな」
オカ研、オカルト研究会って奴だよな。
学校絡みの依頼の何割かにオカルト研究会が絡んでいる事が多い。
「オカルト研究会は何をしてるか分かるか?」
「去年の学際は占いをやったんじゃなかったかな。後は内緒でコックリさんをしてるみたいだけど。本物を見た人間としてはわざわざ喚んでまで関わるのはありえないよね。山っちコックリさんってマジどうなの?」
「コックリさん、エンジェルさん、最近の1人隠れん坊も含まれる。名前は何種類もあるけど、厄介な点は力のない人間が正式な儀式もせずに行う降霊術をする事なんだよ」
「降霊術って簡単に出来るの?」
「本来の降霊術は依り代となる憑依体質の霊能者と喚んだ霊を戻す霊能者、結界を張る霊能者が揃ってなきゃ安全には出来ない。ましてや不特定多数の霊を喚んで来るのは話を聞いてもらいたいだけの霊や悪戯をしたい霊が殆どだけど中にはとんでもない悪霊が来たりする」
霊にしてみれば喚ばれたから来ただけであり説得には骨が折れる。
「山っち、オカ研の連中に注意しなくても良いの?」
「大丈夫だよ。こういう事にはうってつけの奴がいるから」
たまには使い魔らしい事をしてもらわなきゃプリムのコストパフォーマンスが昔のアメ車より悪くなってしまう。
「たまには虫にも仕事させないとね。山っちそこの階段を上がれば進学科だよ」
麗奈に言われた階段を登るとそれは直ぐに確認できた、教室の一番前の席に霊が座り必死に勉強をしている。
予想通り彼女は生き霊だった、幸い妄念が薄く札を張るだけで元に戻ってもらう事が出来た。
「次はスポーツ科の体育館でバドミントンの音がするってやつだよね。なんかお約束過ぎて怪しくね?」
「普通はバスケットボールの音なんだよ。あれはドリブルの音で直ぐにバスケだって分かるからな。でもバドミントンのシャトルを打つ音では普通は分からないと思うんだよ」
「つまりバドミントンにまつわる何かがあった可能性が高いって事?」
そう、音を聞いた人がバドミントンを連想してしまう事件があった可能性が高い。
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