退魔士と修行と
「麗奈、今から力を流すから目を閉じてくれ」
息を整えて麗奈のうなじに手を当てゆっくりと霊力を流し込んでいく。
「麗奈、体に力が流れ込んでくるのが分かるか?」
「なんかお日様みたいにポカポカしたのが体中を回ってるけど、この暖かいのが霊力なの?」
麗奈の体に負担が掛からない様にゆっくりゆっくりと、経絡を通して全身に回る様に流し込んでいく。
「ああ、そうだ。まっ、それは俺が癒しの霊力を流したからだよ。麗奈、ゆっくりと目を開けてみろ」
「うん、わかった。……いや――!!血まみれの人がいるー!こっちの人は首が折れてるよー」
目を開けた途端に麗奈が騒ぎだした。
「麗奈、大丈夫だよ。ここにいる人は無害な霊だけだから」
「山っちのバカ!!何が見えるのか先に言ってくれればいいじゃん!!このドS」
麗奈が涙目になりながら詰め寄ってきた。
「ホラー映画をよく見るって言うから平気だと思ったんだけどな」
「バカっち!!作り物と本物じゃ大違いなの!!」
麗奈はグズりながら俺の体を叩いている。
「こーら大ちゃん!!女の子を泣かせちゃメッでしょ」
いつの間にか来たのかサエ姉さんが頬を膨らませながら注意してきた。
「サエ姉さん、泣かすつもりはなかったんですけど」
その麗奈はようやく泣き止んだ様だが、まだ俺をにらみつけている。
「なかったけど麗奈ちゃんが泣いちゃったじゃない。これは大ちゃんにもお仕置きが必要だね」
ちなみにサエ姉さんのお仕置きは洒落にならないぐらいにきついん。
「姉さん、にもって?そういやプリムはどうしたんですか?」
「大ちゃん、退魔士にとって使い魔はペットやお友達じゃなく戦いのパートナーだってお姉ちゃん教えたよね。とりあえず早く霊力を流して回復してあげて」
サエ姉さんはそう言うと、何か黒くすすけたモノを俺に手渡したてきた。
「プ、プリム!!おい、生きてるか?息は…してるな」
それは黒くすすけたと言うより若干焦げてたプリムだった、とりあえず息はしているしブツブツ呟いているから意識はあるらしい。
「山っち、これってあの虫のなれの果てなの?黒こげでゴキみたいになってるよ…虫だけに虫の息になってるし」
次の瞬間
「だーれがゴキだってー!!この可愛くてプリティーでちょっぴりドジでセクシーなプリムちゃんをゴキなんかと一緒にするな!!」
プリムが麗奈の声に反応してムクリと起き上がってきた。
「うわっ、しぶとさはゴキ並じゃん。早く山っちに暖かい霊力を流してもらいな」
「ゴキ言うな!!それに何でお前がマスターが霊力を流せる事を知ってるんだよ。しかも暖かい霊力って僕だってたまにしか流してもらえないんだぞ」
「当たり前じゃん。ろくに働かないで遊び呆けている虫とバイトを頑張ってる私が同じ扱いになる訳ないし。…あー、ゴキじゃなくキリギリスか」
「えこひいきだー!!それにキリギリスって、僕に冬に凍死しろって言うのか?残念ながらマスターの部屋にはコタツがあるんだよ!!さあ、マスター可愛い使い魔に霊力をプリーズなのです!!」
必要なさそうなんだがプリムに霊力を流すと今度は大声で泣き出した。
「マスター、あの女は精霊の皮をかぶった悪魔です、鬼畜です、鬼軍曹です、チートなPKです、重課金ユーザーなんです」
「あらあらあらー。妖精さんも復帰したみたいだから退魔士と使い魔のコンビで訓練にしますねー」
サエ姉さんがお茶にしますねーぐらいの気軽さで訓練を提供してくる。
「無理です!!マスター今すぐ僕を一時送還して下さい。そうだ!!今日は従姉妹の旦那さんの近所のおばさんが誕生日なんですよ。すぐにお祝いにいかなきゃ」
「使い魔がマスターを見捨てるなんてもってのほか!!女の子を泣かせた大ちゃんと一緒に根性を鍛え直してあげるわねー」
サエ姉さんは、そう言うと楽しそうに準備を始めた。
――――――――――
これCGじゃないよね。
雷が意志を持ってるみたいに山っちと虫に襲いかかっている。
「ほーら大ちゃん。当たれば痛いわよー。金剛夜叉明王様の雷を上手に使うには雷になれるのが一番なんだから」
「あのサエさんですよね。山っちは大丈夫なんですか?」
黒こげになっても平気だった虫と違い山っちが雷に撃たれて怪我でもしたら大変だ。
「麗奈ちゃん大丈夫だよ。ちゃんと当たったら痛いぐらいに加減してあるから。それより大ちゃんを許してあげてね、あの子小さい頃から幽霊が見えてみたいだから怖さが分からないのよ」
「山っちって何歳ぐらいから幽霊が見えてたんですか?」
山っちに聞いてもはぐかされるだけだし。
「物心ついた時には見えてみたいよ。小さい頃はまだなんとなく見えるくらいだから問題がなかったみたいなんだけど、小学生になると力も強くなって"寺のお化け"っていじめられたりしたんだって」
「それで小学3年生から修行に来て、中学からここに住んでたんですよね」
「大ちゃんは実家がお寺の所為なのか生まれつきの性格なのか昔から真面目でね。誕生日もクリスマスも関係なく修行修行の毎日。その頃は私と茜ちゃん以外には滅多に笑顔なんて見せなかったわね」
いつもニコニコしている今の山っちからは想像も出来ない過去だ。
「山っちって彼女とかいたんですか?」
これはかなり重要な質問。
「いないない。退魔士に恋は必要ありませんとか言って年中ムスっとしてたからね。レイちゃんも扱いに苦労したみたいよ」
レイちゃんってReijiの事だよね。
「なんか今の山っちからは想像出来ませんね」
恋愛話はともかく今の山っちは老若男女問わずに愛想が良い。
特に美保や夏希や孝子姉ちゃんや桜先輩には愛想が良い感じがする…。
でも私に一番笑いかけてくれる気がするんだよな。
「その大ちゃんがどうして変わったのかは本人から聞いてみて。でもあの大ちゃんがヤキモチか、成長したわねー。麗奈ちゃん大ちゃんをよろしくね、堅物でお世辞にもハンサムじゃないけども優しい良い子だから」
私はゆっくりと頷いた。
今更ながらだけど、私は山っちが好きだ。
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