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坊主の義務

久しぶりの更新です

 シスター・アーミーのテントに現れた中年女性はガリガリに痩せ薄汚れた長い髪を振り乱していた。

そして手には、一体のフランス人形を大事そうに抱えている。


(フランス人形か…少女の人形だけれども、憑いているのは中年の男。それに嫌な笑みを浮かべてやがる、ありゃ悪霊化している。女は完璧に取り憑かれているな)


「山っち、なんかあの人形ヤバいよ。キモいぐらいに怖いし」

何時も通り強気な発言をする麗奈だったが、その顔は青ざめていた。


「大丈夫だ。俺の後ろに隠れてろ、あの程度なら問題はねえよ」

しかし麗奈でも感じるぐらい濃い霊気がテントの中を満たしていく。


「早く球を、この子に球を…ハヤク…は・やく球よこしやがれ!!」

中年女性の声が低い男の声に変わっていく。


「山っち、あのおばさん人変な声を出してどうしたの?」

麗奈は俺の背中にへばりつきながら震えていた。


「人形に憑いていた男の霊が、今度は女性に憑いたんだ。ったくあんな球をホイホイ売るから悪霊が強くなるんだよ」

女は両手をだらりと下げよだれを垂れ流しながらシスター・アーミーに近づいていっている。


「山っち悪霊ってなに、やめてよ!!あの人白目むいちゃってるし。もうやだー!!」


「お客様、あまり無茶を言うならご退席をお願いしますよ。…ふぐっ」


「退席?お客様に向かって何言ってんだ?けっ!!最近のガキは礼儀を知らねえよな」

女性を止めようとしたガードマンが壁際まで吹き飛ばされた。

体格差で考えれば到底不可能な事、男の霊が女性の体の負担を考えずに酷使している所為だ。


(やばいな。このままじゃ女の人の体に負担が掛かり過ぎる。それに…)


肝心のシスター・アーミーは顔面蒼白となり恐怖からか逃げる事も出来ずにいる。

シスター・アーミーは、ある程度の霊能力があるみたいだから女にどんな異変が起きたのかは分かっているに違いない。


(分かっているが対処の仕方が分からないんだな。あれ以上力をつけられても面倒だから祓っちまうか)


「麗奈、ここで待ってろ。」

麗奈を巻き込んで怪我をさせる訳にはいかない。


「ちょ、山っち待ってよ。あんなのとケンカして怪我したら馬鹿らしいだけだよ。それに山っちが行く必要ないじゃん」


「必要じゃなく義務なんだよ。目の前で起きた自分が対応出来る霊のトラブルを解決すらのが俺の義務なんだ。心配するな、あれ位なら直ぐに終わらせるよ」


そう、あれは御仏の救いの手を払いのけて悪霊となった存在。

悪鬼を喰らう金剛夜叉明王様と結縁させて頂いている俺が見逃す訳にはいかない。



―――――――――


 山っちはゆっくりと、おばさんに近付いていった。

初めて見る筈の山っちのケンカだけど、前にどっかで見た事がある感じがする。


「さてと、おいオッサン。早くその人の体から出て行け。今なら生臭さ坊主がきっちり地獄へ案内してやるよ」

言葉遣いも変わった山っちがおばさんに近付いていく。


「ああん?何だ坊主かよ?悪いが俺にありがたいお経なんて無駄だぜ。生きてる時で説教は聞き飽きてるんだよ」


「オッサン、勘違いするなよ。説教は御仏の教えを説く事。馬の耳に念仏のお前には必要ないよ。まっ、馬ってより馬鹿だろうけどな」

山っちがおばさんを馬鹿にした様に笑う。


(嫌だ、あんなの山っちじゃない。私の好きな山っちは過ぎるくらいに優しいのに)


「お経を唱えなきゃどうするんだ?この女の体は傷つけれないだろ?何しろこいつはゴミ捨て場で人形を拾っただけなんだからよ」


「だからお前は馬鹿だって言ったんだよ。お経は優しい物だけじゃないんだぜ。あえて鬼になる事で悪を糺す。金剛夜叉明王呪、しっかりと聞きな」

山っちは、そう言うと大きく息を吸って一瞬で真剣な表情に変わる。


「オン・バザラ・ヤキシャ・ウン」

手を変に組んだ山っちがお経を唱えるとおばさんが苦しみだした。

前にお爺ちゃんに供えてくれた山っちそのものの暖かいお経とは違って、今のお経は荘厳な感じがする。


「さて生臭さ坊主がきちんと地獄に導いてやる。しっかりと地獄で罪を洗い流してこい」

山っちは、そう言うと懐から変な形をした木の棒を取り出して女の人の額につける。

山っちがもう一度お経を唱えるとおばさんはその場に崩れ落ちるように倒れ込んだ。



――――――――――


 何とか女性の体に支障をきたさずに祓えたが、麗奈が怯えているのが分かる。


「さてと、シスター・アーミーさんでしたよね。なんでこんな事になったか分かります?」

怯える麗奈を見るのが辛くて、俺はつい目を逸らす。


「ちょっと山っち、普通はデートの相手を先に心配するもんでしょ?ありえなくね?」


「ありえなくねって、麗奈この流れ見たら分かるだろ?」


「うわっ!!山っちお坊さんになった途端にお説教?坊主で先生って山っちは説教マニアなの?」


「説教マニアってなんだよ。…麗奈、俺が怖くないのか?」


「山っちは山っちでしょ?でも私は何時ものお人好しな山っちの方が好きだな…ねっ山っち、今の萌えたでしょ?」


こいつなら麗奈なら俺に着いて来てくれるのかも知れない。

いや、俺は麗奈と一緒に歩きたいんだと思う。

こいつの軽口を聞いてれば俺の悩みが解消されていく気がした。

次回からはようやく組織編。

東京で得た物を織り込んでいきます

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