退魔士へのアドバイス
「ったく、俺にどうしろって言うんだ?」
八木から届いた調査報告書を読み終えて俺の口から最初に出たのは愚痴だった。
「マスター、この間の調査が終わったんですね。僕にも教えて下さい」
プリムは使い魔としとの使命感からか興味本位なのか今回の依頼に積極的に関わろうとしている。
「日山優太の奥さん日山幸子は箱入り娘だったらしい。日山優太とは会社の先輩後輩として出会ったんだとよ」
「お嬢様が一目惚れして親に頼んで結婚、そして不倫の王道パターンですね?"仕事より大切な愛があるって君と出会って気づいたんだ"ってやつですか」
プリムは最近昼ドラにもはまっているらしい。
「その頃日山幸子旧姓山岸幸子には彼氏がいたんだとよ。相手は幼馴染み、日山優太はそれを分かっていて山岸幸子を口説き落としたらしい」
「略奪愛をしておいて今度は不倫ですか?日山優太は優しそうな顔をしていたんですけどね」
人の見た目は当てにならない、この世界で生きていると実感する。
「日山優太の評判は社内でも近所でも上々なんだとさ。仕事もバリバリこなして子供も可愛がる理想の旦那様だとさ」
「そんな人がなんで不倫をしたんですかね?」
「そんなのは若い娘とやりたくなったしかないだろ?愛だ恋だって言っても俺に言わせりゃただの言い訳だよ」
「マ、マスターなんか怖いですよ」
「俺は愛だ恋だってぬかせば自分のした事が正当化されるって思っている奴が大嫌いなんだよ」
ドラマと違って現実は主人公だけが幸せになれば、それでハッピーエンドになる訳がないんだから。
「それは分かりましたけど、どうするんですか?」
それを考えたから溜息がでた訳で
「一番確実なのは姫宮さんんが違う男に興味をもってくれる事なんだけど、話を聞く限りまず無理だと思う。大学は女子大だから知り合う切っ掛けがないしな」
「マスターが姫宮さんを口説くのは無理ですよね。見た目も女性の扱いも勝ち目がないですし」
それが出来たらどんなに楽かと思う。
でも目的の為に女性を口説くなんて出来ないし、する気もない。
「そんな事をしたら除霊も出来なくなるさ。生き霊ってのは厄介なんだぞ」
生き霊の厄介な点は、日々恨みがまして強力になっていく事だ。
ましてや日山幸子は被害者と言ってもいい立場だ。
除霊をして体に害をあたえる訳にはいかないし、最悪のパターンで子供から母親を奪う事になったら俺は自分を許せないだろう。
「藤川さんに説得してもらうってのはどうですか?」
「ロミオとジュリエット効果ってのがあってな、恋愛中は周りから反対されればされる程にのめり込んでいくらしい」
当然、俺なんかが姫宮さんに"不倫は止めた方が良いですよ"なんて言っても聞く耳を持たれないだろう。
「それなら日山優太をなんとかするしかないんですか?」
「考えられるのは組織の弁護士を接触させるか、ハニートラップを仕掛けるか、でもそれだと問題を先延ばしにするだけなんだよな」
法的には不倫をしたからって罪になる訳じゃないし、ハニートラップを仕掛けても姫宮さんが許したら終わりだ。
「うーん奥さんに日山優太を嫌いなってもらうのはどうでしょうか?嫌いな相手なら浮気しても恨まないんじゃないでしょうか?」
「そうしたら娘さんが大好きなパパを失う事になっちゃうだろ?」
俺にこんな愛憎劇がうまくさばける訳がないんだって。
なんとか姫宮さんの気持ちを醒ます事が出来たら良いんだけど。
「なんかマスターの依頼って生々しいのばっかりですね。マスター自身は悲しくなる位に清い生活を送られているのに」
「ほっとけ、世間なんてのは生々しくて当たり前。俺達退魔士は汚れた泥の中に埋まらなきゃ仕事にならないんだよ」
清い場所に身を置いていたら、どうして世間の泥に埋もれた人を救う事が出来ようか、師匠に散々教えられた言葉だ。
「そう言えば、この間渡したお札は何のお札だったんですか?」
「あれには気持ちを落ち着かせる効果があるんだよ。落ち着いて自分のしている事に気づいてもらえると有り難いんだけどな」
でも、そううまく行く訳がないし。
あいつに相談してみるか。
――――――――――
「マスターの後輩さんって何者なんですか?普通こんな事を思いつきませんよ」
ある後輩に相談をしたらこう言われた。
"それなら日山優太に霊が見える様にしたらどうっすか?ついでに無害な幽霊さん達に協力してもらうんすよ、後は山田さんが日山とお話し合いをすれば良いんすよ"
「元は普通の奴だよ。2年前にかなり特殊な経験をしてから変わったけどな」「でもそんなにうまくいくんですか?」
「霊魂は街中に沢山いるからな。俺達も普段は力を抑えて見えない様にしているし」
「何でわざわざ見えない様にしているんですか?」
「霊は基本的に見える人に救いを求めてくるんだよ。まして力があると分かったら昼夜問わずに来るからな」
そんな事になったらこっちの体がもたない。
「えっ!!それじゃ日山優太は」
プリムは結果が想像出来たらしく顔を青ざめさせていた。
山田さんしか読んでない人はいないかもしれませんが、発想主は例の人です