ダンスと僧と呪い
出てくる歌詞はにつっこまないで下さい
韻を踏むのが難しい
「山田、次はmiyabiの番、麗奈ちゃんのダンスが見れるんだぜ、くぅー、生きてて良かったー!!」
感極まったのか、八木がステージに向かって叫んでいる。
「ったく、お前は大げさなんだよ」
「お前は麗奈ちゃんのダンスを見た事がないから、そんな風に言えるんだZE。セクシーで色っぽくエロい、それが麗奈ちゃんのダン…な、殴るなYO−!」
「お前は色眼鏡じゃなくエロ眼鏡で見過ぎなんだよ」
何か分からないが八木の言葉にムカついてしまい、思わず手が出ちまったんだが。
「男の焼き餅はみっともないZE。ほら始まるZE」
あれが本当に、あの小生意気な麗奈なんだろうか。
別人に思えるぐらいにダンスをしている時の麗奈は輝いている。
大人びた表情にしなやかな動きを魅せる手足、素早い動きでもぶれない体勢。
気付いたら俺は踊る麗奈が踊り終わるまで視線を外せないでいた。
「山田さん、麗奈に声掛けに行きませんか?山田さんに誉められたら麗奈喜びますよ」
「美保、麗奈達がいるところって一般客ははいれないんじゃないのか?」
クラブ来ている客の中にはmiyabi目当てらしい人もいたから一気に訪ねていったらパニックになりかねない。
「私miyabiには顔パスだから大丈夫ですよ。こっちです」
美保に着いて行く俺に八木が小声で話し掛けてくる。
(なあなあ山田、美保ちゃん紹介してくんね?いやむしろmiyabiとの合コンを頼むー)
(遊びじゃないなら協力してやるよ。遊びで美保に近づくんなら実力で排除するからな)
(お前酷くねっ?調査が現場に勝てる訳ねーじゃん)
(だから真面目に美保を幸せにしたいなら協力してやる。ほら着いたみたいだぞ)
「麗奈お疲れー。今日のダンス良かったじゃん、あっ山田さんも来てるよ」
美保のねぎらいの言葉が終わらないうちに麗奈が俺の前に駆け寄ってきた。
「山っちー、へっへー。私のダンスに見ほれていたよね?お主惚れたな?いや麗奈ちゃんに惚れ直しただろ?」
先までの大人びた表情はどこえやら、俺の前に来た時には何時もの悪戯っぽい笑顔を浮かべている麗奈に戻っていた。
「ああ、麗奈のダンスが魅力的で驚いたよ。お疲れさん」
「ねー、山っち。ダンスをするとお腹が空くんだよねー。私、焼き肉食べたいな」
ここで仕事を終えてしまえば五穀断ちの必要もなくなる。
「ったく、分かったよ。たまには食べ放題じゃない店に行くか?」
「うわっ!!マジ?いまさら無しは駄目だかんね」
麗奈と何時も通りの会話を楽しんでいると
「あら?あらららー?麗奈ちゃんてー男の趣味が変わったんですかー?リリスちゃんびっくりですー」
麗奈に声を掛けてきたのは青白いメークをした小柄な女性、青白い顔とは対照的に服はフリルがついたまっ黒なドレスを着ている。
(山田、あれが今回の対象者の黒宮萌華。見た感想はどうだ)
何時ものチャラさを潜めて八木が話し掛けてきた。
(八木、前もあんなに憑いてたなか?)
黒宮萌華にはざっと見ただけでも5人の霊が取り憑いていた、しかも全て怨霊や悪霊と化している。
全身が焼けただれた女性、飢えて痩せこけた少年、首に紐が巻き付いている老婆、グチャリと頭が潰れている男性、手首から血が流れ続けている少女。
黒宮萌華の守護霊は力が弱まっているのか姿をみせていない。
(いや、前見た時は2人しかいなかった。山田、あの中に呪いの要因はいるか?)
(…いないな、あれは救いを求めて憑いたんだろ)
死や呪い、そんな言葉は霊を呼び寄せてしまう。
「別に私が誰と仲良くしようと関係ないでしょ?それにアンタの周りにいる男に比べたら山っちの方が何倍もマシなんだからね」
「怖ーい、でもリリスちゃんにそんな事を言ったら呪い殺してやるんだからー。アハハッ、アハハハッ」
あれだな。
黒宮が呪い殺すと言った瞬間、黒宮の肩から黒い手が麗奈に向かって伸びてきた。
俺は麗奈と手の間に立ち、黒い手を払いのける。
「黒宮さんですよね。呪いとかリリスとか軽々しく言わない方が良いですよ。人を呪えば穴2つですから」
「なに貴方きもーい。それナンパ?リリスちゃんは強い堕天使だから平気なの」
堕天使ね、黒川萌華は意味を分かって使っているんだろうか。
「山っちはこいつに何言っても聞かないって。黒宮、山っちはお坊さんなんだからね、ちゃんと話を聞いた方が身の為だと思うよ」
「お坊さん?リリスちゃんは堕天使なんだから関係ありませーん。それじゃみんなリリスちゃんの歌を聞いてねー」
実際にリリスなんて神話クラスの存在が降りてきていたら俺なんか無事では済まないだけどな。
「山っち、なんかゴメンね。あっ、メンバーと反省会があるから終わったらメールするよ。逃げたら山っちの可愛い麗奈ちゃんが泣いちゃうからねー」
「焼き肉が食えなくなる泣くんだろ?ったく普通自分で可愛いとか言うか?それでは皆さんお疲れの所お邪魔しました」
――――――――――
「八木、舞台裏にはどこから行けるんだ?」
これ以上長く憑かれたら黒宮が引きずり込まれる可能性が高い。
「あのな、舞台裏なんて関係者じゃなきゃいけないんだYO−」
「そこを何とかするのが事前調査班の仕事だろ?仕方ねえ、読経をしても人目につかない場所はないか?」
「相変わらず注文が多いNE−。それなこっちに来ちゃいな」
八木に連れて来られたのは職員の休憩室。
「ちゃんと許可はもらったんだろうな。こんな所にいたら泥棒だと思われるぞ」
「だーいじょーぶ、ダチがここでバイトしてるんだYO−。さっき連れが具合を悪くしたから休ませて欲しいって頼んでおいた。さっ俺が結界を張るから早く片を付けてくれ」
俺は床に座り結加趺坐を組み印を結ぶ。
先ずは黒川萌華に憑いている霊に1人ずつ来てもらい話を聞いて経をあげさせてもらう。
「山田って、御仏に経をあげている時と退魔をする時のギャップが激しいよな」
「まっ、お前の結界がきちんとしているから安心して経を供える事ができるんだよ。でなきゃ退魔どころじゃなくなるからな」
経を供えて欲しい仏様は少なくなく結界を張らずに読経をすると次々に姿を現して退魔どころじゃなくなる事もある。
「本当なら全ての御仏に経をお供えしなきゃ駄目なんだけどな。それは理想論かもな…山田、黒宮の歌が始まったぞ」
普段はチャラチャラしているが、御仏に対する時の八木は人一倍と言ってもいいぐらい真面目な僧侶となる。
「…こりゃ随分な内容の歌だな」
"可愛い私が掛ける呪い、醜い天使は死んじゃいな"
「あれでもファンは大勢いるんだぜ。ほらっ膨れ上がってきたぞ」
八木の言う通りステージの熱狂に合わせて呪の力も増えていく。
呪いや死と言う負の言葉に捕らわれた黒川萌華はシャーマン状態になっていんだろう。
「黒川萌華自信には何も喚ぶ力はないがファンの熱狂が後押しをしているってとこか」
「たちの悪い事に本人は喚んだ自覚すらないみたいだぜ。呪は跳ね返りが一番怖いんだよな…山田!!降りて来たぞ」
同時にステージ暗く黒い力が溢れ始める。
「あれは小鬼か。厄介な奴が喚ばれたな」
小鬼、妖精の一種で世界中に伝説があり家鳴りやゴブリンとも呼ばれている存在。
本来は子供程度の力を持つ妖怪に過ぎないが。
「山田、あいつ負の感情をかなり吸い込んでるぜ。大丈夫か?」
小鬼種の特徴として人の感情や瘴気を取り込める所がある。
故に同じ小鬼種でも仕事を手伝ってくれる友好的な存在もいれば人に害をなす存在にもいる。
「俺が結縁させていただいているのは金剛夜叉明王様だ。小鬼に負ける訳がないだろ」
金剛夜叉明王様は元々は古代インドで夜叉と呼ばれた悪神・悪鬼、それが大日如来様の御威徳により仏敵を滅ぼす明王となられた存在、もっとも俺はただの人に過ぎないから小鬼と戦って無傷でいれる保証は全くないんだけども。
そして俺に気付いたららしく、それは現れた。
身長は140㎝くらい、禍々しい瘴気をまといギャッギャッギャッと涎を垂れ流しながら不快な笑い声をあげている。
(動きが早いな。黒宮の歌が終われば逃げる可能性が高い)
小鬼には黒宮や観客の負の感情が絶え間なく注がれている、逆に言えば歌が終わってしまえば力の供給が途切れるから一目散に逃げる可能性が高い。
ケリをつけるなら歌が終わるまで。
それなら…
薄汚れた爪を振りかざして飛びかかってきた子鬼を体で受け止める。
小鬼の爪が俺の頬を切り裂く。
「山田、血が出てんぞ。大丈夫か?」
八木へ返事をする代わりに印を結び金剛夜叉明王の真言を唱える。
「オン・バザラ・ヤキシャ・ウン」
俺は真言により動きを封じられた小鬼を封印具に閉じこめた。
「ふぃー、八木これを柘植さんに渡せば呪いのを解析をしてくれるだろ」
「俺が報告がてら届けに行ってくるよ。お前は麗奈ちゃんとデートだろ?」
「デートじゃなくおごらされるんだよ。八木、絆創膏持ってないか?」
――――――――――
山っちがまた頬に怪我していた。
私は何かを忘れている、大事な何かを。
そして黒宮と会った時に見せた山っちの厳しい目つき、初めて見た筈なのに、でもどこかで見た気がしてならないんだよね。
でも今はとりあえず
「山っち、特上カルビ追加頼んでいい?」
うん、山っちは笑顔の方が似合う、それが苦笑いでもね。
黒宮や八木の再登場はどうしよう。
最初は派手な退魔を考えていたんですけども地味になってる感じがします