広がる呪い
麗奈がいつもダンスの練習をしている公園に着くと、チームのメンバーは既にたむろしていた。
「おっつー、まだ練習しないの?」
「麗奈、練習どころじゃないんだって。今度は愛華が怪我したんだよ」
「うそっ、愛華大丈夫なの?」
「体育の授業でバスケしてる時に靴紐が切れたらしくてさ。愛華こけて骨を折ったらしいよ。本人はドジったって苦笑いしてたけど」
運動神経が良いのが自慢な愛華がバスケでこけて骨折をするなんて、ちょっと信じられないんだけど。
「桜先輩に続いて愛華も怪我したんだ。なんかヤバくね?」
「とりあえず今日は練習休みにしよ。私達はカラオケ行くけど麗奈はどうする?」
流石にダチが骨を折った日にカラオケで騒ぐ気にはなれないって。
さすがにそれを言ったら角が立つと思う。
「うーん、今日はパス。今月ちょっと厳しくて」
この判断が運命の別れ道に繋がる事を、このときの私は予想もしてなかったんだんよね。
――――――――――
「ただいまー」
「麗奈、今日はダンスの練習じゃなかったのかい?まさかサボりじゃないだろうね?」
「違うって。今日は中止になったの!お婆ちゃんこそ今日はボランティアの日じゃなかったっけ?」
活動的なお婆ちゃんは週に1回仲間同士で近くの施設でボランティアをしている。
お婆ちゃんは高校生の私よりも確実にポジティブでパワフルだと思う。
「今日は大事な用ができたからの。ところで麗奈、お前はお坊さんにお礼はしたのかい?」
「馬鹿にしないでよ。きちんとお礼は言いました」
「お礼の言葉を誇ってどうする?ガソリン代も出さないのなら手料理をご馳走するとかいう発想はないのかい」
「えーなしなし、彼女じゃないんだから。それに山っちの方が私より料理うまいし」
「随分と情けない事を言うの。この間のお経のお礼に箱菓子を買って置いたから届けてくれないかい?ついでにこれも渡しといておくれ」
そう言ってお婆ちゃんが手渡して来たのは、馴染みの和菓子屋の箱と
「お婆ちゃん、これってお見合い写真じゃん。マジで山っちにお見合いをさせる気なの?」
「本気で悪いかい?私の見る目に狂いはないからね、頼まれていた縁談の中でお坊さんに合いそうな娘を選んどいたんだよ」
こっのお見合い婆め!!なんて用意周到なのよ。
山っちのお見合い相手なんか気にならないんだけれども、興味はあるから写真をチェックしてみる。
「これって孝子姉ちゃんの写真じゃない?山っちのお見合い相手って孝子姉ちゃんなの?山っちなんか相手にされないって」
孝子姉ちゃんは私の従姉で女子大に通っている。
美人な上に今時あり得ない大和撫子を地でいく人。
孝子姉ちゃんならイケメンな医者や弁護士でも引く手あまただと思うんだけど。
「それはお前が見た目や収入で判断をしてるからじゃよ。場合によってはお坊さんに仏教大学に通い直してもらうさ」
孝子姉ちゃんに会ったら山っちなんて直ぐに夢中になるに違いない。
きっと無惨に振られるに違いないけど
「お菓子だけ預かってく。それと今日は山っちの家でご飯を食べるから晩ご飯はいらないから!!」
麗奈の祖母は勢いよく家から飛び出した孫の背中をニヤリと笑っていた。
―――――――――
マスターの携帯が鳴り響く。
マスターの趣味と間逆な騒がしい歌は、可愛らしい妖精の僕を虫扱いした礼儀知らず女からだ。
「マスター、礼儀知らず女は何の用事ですか?まさかまたマスターをタクシー代わりにするつもりじゃないでしょうね?僕は反対ですよ」
マスターはお人好し良すぎると思う。
「珍しい事にお礼をしたいから飯を作りに来てくれるんだとさ。悪いけどプリムは隠れていてくれ」
「マスター、変な物を食べさせられてお腹を壊さないで下さいよ」
あんなチャラチャラした女がまともに料理なんて出来る筈がない。
まる焦げになった料理を陰で笑ってやるんだ。
「山っちー、優しい麗奈ちゃんが寂しい山っちの為に手料理を作りに来てあげたぞー」
お礼をしに来たのに上から目線って馬鹿じゃないの?
きっとマスターも呆れているに違いない。
「おい、麗奈そこに座れ」
でも何故かマスターの目が厳しい物になっていた。
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麗奈の足にまとわりついているのは、この間の久保田さんと同じ呪いのオーラ。
「山っち、いきなりどうしたの?」
「麗奈、最近変わった事はなかったか?」
「変わった事?あー今日は同じチームの娘も骨折っちゃったんだよねー。桜先輩に続いて愛華も骨折なんてやばくね?うちのチーム呪われてたりして」
3人共同じ呪いに掛かっていると思う、共通点は同じダンスチームに所属している事。
これは、やばいな。
「まっ、気休めにしかならいけど呪いを防ぐお札を渡しておくよ。普段から身につけておけば大丈夫だから」
原因が分からない呪いを解呪するのは無理だけども、素人の呪いを防ぐのなら簡単だ。
「山っちのお札?本当に効くの?でも、もらっといてあげる」
そんな話をしていると麗奈の携帯が鳴る。
「えっ!マジ?…わかった。うん、それじゃ」
麗奈の顔が見る見る青ざめていった。
「山っち、やばいよ。チームの何人かがカラオケの帰りに地下鉄の階段でこけて足の骨を折ったんだって。ねっ、あのお札あと何枚あるの?」
やばいな、柘植さんに連絡して調査をしてもらうか。
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