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唯一奇談――外典「天視の住むところ」 出題編

作者: 百紙千代鶴
掲載日:2026/11/07

 T県S市サカイ荘には幽霊が出るという噂がある。


 所謂《いわゆる》、デマの類ではない。

 街角で聞き込みを行うと、実際に「見た」という人が何人もいる。

 また、S市近隣の住宅街の電信柱や掲示板には、いつも同じカラー刷りのポスターが貼られている。特定の人物に向けた警告文や、掲示される特徴の変わらない「不審者情報」の文字列が並んでいる。



『2015年4月6日(月)、午後5時頃、S市3丁目付近、酒井荘前の路上で、小学生(女の子)が下校途中、女性に声をかけられました。


■声かけの内容

・「視えていますか?」

・「聞こえませんか?」


■不審者の特徴

・10代後半〜20代前半くらいの女性。

・身長160センチくらい。

・細身。

・緑色パーカーのようなもの、緑色スカート。

・アニメキャラクターのようなお面、白髪。


【地図】

(近辺の地図が掲載)


「こわい」と思ったときは、迷わず防犯ブザーを鳴らす、もしくはこども110ばんの家にいくようにするなど、お子様に指導してください』



 目撃情報はいずれも同じ特徴を備えた人物に関するものである。

 既に十年以上掲載され、インクの褪色《たいしょく》したポスターの情報と同じ、緑色の衣服、奇妙なお面をつけた少女が、ほとんど同じ地点で目撃されているのだという。


 その場所というのが、酒井《サカイ》荘である。


   ◆


 サカイ荘は「荘」という字に対する一般的なイメージと違い、鉄筋コンクリートからなる巨大な建造物、すなわち団地である。元は、今よりずっと狭い敷地に、古い木造のアパートが建っていたらしい。前の土地所有者の男性はそのアパートにサカイ荘という名を付けていたのだが、その子供に土地が相続された際、アパートは取り壊され同名の団地ができたという話である。

 建て替えた直後は、子供の成育にいいというので子育て世帯が多く集まり、団地は盛況だった。ファミリー向けの建築の代表として、地元のテレビに取り上げられたこともあったという。もっとも、住人たちは幽霊の噂が囁かれるようになってから次第に越していき、今では団地はその戸数に対して、僅か十分の一ほどの世帯数しか抱えていないとのことだ。


「……まさか、本気で幽霊なんかを信じて越していったわけじゃないと思うんですよ」


 現在の土地所有者である■■さんは語る。

 彼は現在、64歳。サカイ荘の空いた一室で暮らしている。


「ただ、外聞が悪かったんじゃねぇかな――ほら、幽霊が出るなんて聞こえが悪いでしょう――事故物件なのかとか、何か怪しいことをしてるんじゃないかって疑われます」


 インシュウ村ってやつですわな、と彼は朗らかに笑う。

 実際に、彼自身はサカイ荘で暮らしている上で、幽霊らしきものを視たことは一度もないという。

 現在の■■さんは不動産で稼ぐのは諦めて、ほとんど息子さんに養ってもらっている状態だという。息子さんは現在独り身の■■さんに同棲を言い出したが、■■さんはそれを断った。所有する建物があるのだから、それに住めば家賃はタダ、というのが彼の持論である。


「事故なんてあったこともありません。ありませんし、寧ろ、清廉潔白すぎるのが売りなくらいです」


 そう云って、新聞に載ったという記事を見せてくれた。

 幾分、写真は古いが、概ね彼の発言と合致する内容である。


「あいつ(息子)にも、こっちに来て住むよう言ったんですけどね。断るんですよ、幽霊が出るって。たぶん子供の教育に悪いって思ったんじゃねぇかなとは」


 息子さんは、娘が二人と息子が一人の子沢山なのだという。

 孫全員を甘やかしたい■■さんは、三人分のお年玉や、プレゼントの準備に苦労するとか。


「まぁ、かえって良かったとは思ってますよ。ほら、孫なんかと暮らしてたら俺は孫バカなんで一日で財布がすっからかんになりますね。うん」


 このように、■■さんは幽霊の噂について全く信じておらず、また、残った住人にも信じているものはいないだろうと語っていた。確認も兼ねて、他の住人に聞き取りを行ったところ、いくつか興味深い発言が飛び出した。



・301号室 鈴木(仮名)さん。


「事故ならありましたよ」

「■■さんは知らないと思います。その当時、ここは満員に近い状態でしたし、あの人は自分の家を持っていて、それに住んでいましたから」

「――正確には、敷地内で起こった事件じゃないんです。サカイ荘の前に横断歩道がありますよね? あの、反対側に小学校のあるところです」

「当時は、小学校にも駅にも近いしで、それもあって人気が加速したんです。俺なんかはこう、独り身なんでたまたま最初の方に入居しただけです」

「あぁ、はい。仕事はIT系を……オンラインでもできるので、それならいっそこういう場所でもいいかと」

「それに昔は子供も結構いたんで、何か変なことを考えるわけじゃないけど、それだけで癒やされたんです」

「勿論、うるさい時もありますけどね。けど、こういう暮らしをしていると何もかも荒んでくるので」

「あぁはい、事件についてですね。簡単に言っちゃえば、その横断歩道のあたりで交通事故があったんですよ。自動車に児童が轢かれたっていう、よくあるけれど痛ましい事故でした」

「当時は、ここの反対側の小学校がずいぶん非難されましてね。随分、ひどいことをするなと思ったもんです。小学生ですよ? 何をするかもわからない、大人がちょっと指示するだけじゃ鼻もひっかけない年頃です」

「確か、亡くなったのは低学年の小学生男児でした。親御さんには気の毒な話だと思います。当時、俺も電柱とかの下にぽんと置かれた花束とか缶ジュースを見るたび、やるせない気分になったもんです」

「それが問題視されてきた――といっても、主には子供たちの間ですが――のが、その男の子と同学年だった子たちが卒業したくらいの頃でした」

「警察の発表では、亡くなった男の子はボールか何かを追いかけていて自分が大型車両の前に飛び出したんだろうっていうんですね」

「少し遠いけど、近くに公園もあったし、球技に興じていたところ注意散漫になっていたのだろうって。轢いてしまった運転手の証言なんかも参考にして、出てきた推測なんだと思います」

「ところが、子供たちがいうにはその男の子はボールを追っかけてたんじゃなくて『逃げてた』んだっていうんですね」

「何か、怖ろしいものから逃げていて、そのせいで迫ってくる車両に気づかなかったんだろうって、噂されてるんです。それは例の幽霊かもしれないし、もっと怖ろしい何かがこちら側――横断歩道から見たサカイ荘の側ですね、にあるのかもしれない」

「勿論、子供たちの噂と警察の発表のどっちが正確かって言ったら後者でしょうし、そもそもどちらも推測、憶測の類ですから正しいことはわかりません」

「ただ俺は、あの事件の原因は間違いなくサカイ荘にあったと思っています」

「そう考えるなら何故越さないのか? ……うん、そりゃまぁ、そこまでして逃げ出す理由を今のところ思いつけないだけです」


■近隣小学校の七不思議

・学校にいるとき、知らない声に呼ばれてしまうと死ぬ。

・死を回避するには、目をつぶったまま校門を出なければならない。

 →該当の噂はさらなる交通事故に繋がるとして、教員はその流布、拡散を禁止しています。



・107号室 石田(仮名)さん。


「テンシを視たんです」

「ぼくは結構ね、思い悩む方でして……ほら、クレッチマーだったかな、が太ってると鬱になりやすいとかいってるらしいじゃないですか、うん。ぼくは的を射た意見だと思うなぁ、かなりそう思います」

「こういう体型してると、結構やけ食いとかしちゃうんでね。そんなことしても贅肉がつくばっかりだから、かえって身も心も荒れちゃったりするもんですよね。寧ろ健康的……うーん、そうは言い難いんじゃないかな」

「まぁ、とにかく。ぼくは結構悩んだり、壁にぶつかったりする方で、鬱っぽかったり希死念慮に駆られるような時期もあったりするんです。ちょうどここに越してきた……五年くらい前がそうでした」

「あぁ、そうですね。噂話なんて一々気にする方じゃないんでほら、顔見たらわかるかなって、あんまり迷信深い感じじゃないでしょう。ぼく、割と現実生きてる感じって人にいわれたりするんです」

「現実に向き合いすぎて疲れちゃうんでしょうねぇ。ほら、ぼくは根が真面目なんで。何でも深刻に受け取りすぎちゃうきらいがあるんですね。悪癖だな。やめたいなって思うときもありますけど、そういうのって中々治りません」

「それで。幽霊……というか、テンシを視たのはさっき言った通り、五年くらい前のことでした。前の職場でイジメられてたんで、嫌になって退職代行とか使ってやめたんです。ほら、ネットでよくやってるじゃないですか。仕事をどうやってやめるのがいいとか、良くないとか。ぼくもその時は先人の知恵の知恵を借りることにして、そうしてみたんです」

「といっても、次の仕事が見つかるまでは貯金をきり崩して……なんて悠長なことはしてられなかったんで、ここに越してきた翌日にはもう仕事探しに明け暮れてました。大変でしたよ。ぼくは自分があんまり器量のよくないことはわかってるんで、とにかく数を当たろうと思って」

「そしたらなんか鬱になっちゃって、辛いな死にたいなって思うし、仕事探しなんかも到底続けられなくて、どうしようもないから学生でもないのに親を頼って仕送りしてもらって……うん、優しい両親なんです。頭も結構よくて、色々できて……どうして、ぼくみたいのが生まれちゃったのかな」

「えっと、それである日の夜でした」

「その日は朝から妙に元気で、朝食なんかも作れちゃって、何でもできるぞ! よし、死のうって思ったんです。躁状態ってやつだったのかな。たぶん、そうだと思う。自分が何でもできるような気がしたから、一番やりたかったことをやろうと思ったんです」

「でも、死ぬって決めたって、実行するのは結構大変です。覚悟とかじゃなくて、手段とかが中々決まらないんですね。例えば、線路に飛び込んだら電車を止めちゃうし、首吊りは部屋が汚れちゃう。だからといって溺死みたいに苦しいのは嫌だし、今でさえこんななのにブヨブヨに膨れた水死体になっちゃうのって嫌じゃないですか」

「それで、とりあえずここ、サカイ荘の屋上から飛び降りることに決めました。とはいえ小学生に見せちゃったらかわいそうだし、誰かにぶつかって巻き込んだりとかもひどい話じゃないですか。だから、極力誰かの迷惑にならないようなるべく人通りの少ない地点を選んだんです」

「屋上は封鎖されてたので、一階下の階段の横側から侵入しました。一階でも上に行って、なるべく生き残ってしまう確率を減らしたかったんです。屋上には、太ってるぼくでも簡単に侵入できて、自分って結構運動神経いいんじゃない? ってその時は思いましたけど、たぶん警備がガラ空きすぎただけですね。柵なんかも、ぼくの胸のあたりくらいしかありませんでしたし。誰かが侵入しようなんて欠片も想定されてないんです。自殺者に優しい――いや、寧ろ背中を押してしまうわけだから厳しいのかな? アパートだなって思いました」

「それで屋上にやってきて、地面を見下ろすと流石に身が竦みましたね。うん、高所恐怖症ではないんだけど、高層タワーのガラス窓から下を見ると、一瞬びっくりするじゃないですか。あっ、自分いまとんでもないところにいるんだなって。まぁ、ぼくはとんでもないじゃなくて飛んでしまう側なんですけど……えっと、へへ」

「とにかく、多少は悩みましたが、ゴールは決まっていたので、ぼくは飛んでみることにしたんです。せーの、とか、ヨーイドンって勢いをつけて、徒競走形式なら何も考えないで進めるじゃないですか。だから、そうやって」

「テンシを視たのはその時です」

「足が動かなくなりました……というより、動かしてるのに視界がそれに合ってくれないんです。ぐにゃぐにゃ歪んで、ねじ曲がって、気づけばゴンッ! 頭を打って倒れてしまいました」

「ぼくはもうびっくりして、不治の病だったらどうしようって――これから死ぬのに、病も何もないと思うんだけど――考えたりして、怖くなってもう早く飛んでしまおうとしました」

「でも、それは叶わなかった。何度やっても、視界が変になってしまうんです。地面と空の違いさえ分からない……目を瞑ると、自分が普段いかに視覚情報に頼って生きているのかわかりますよね。そんな感じで、しかもぼくの目に映る景色はちっとも現実基準になってくれないんです」

「ぼくはイレギュラーって苦手なんです。緊急事態を前にすると頭がわーっ! となって何も考えられなくなる。それで、その時も頭が熱っぽくなって、視界がちかちかして、その時、彼女の存在に気づいたんです」

「最初に視たとき、テンシだって思いました。女の子の縦長のシルエットを垂直に割るみたいに左右に翼が生えてるんです。白い、いかにも鳥って感じの。服はたぶん緑色で、髪は……たぶん銀髪だったな。アニメとかに出てくるみたいな、あっ、でも! 実写とかの不自然に染めた感じじゃなくって。すごく自然な髪色なんです」

「とにかく、そんな女の子がぼくをじっと視てたんです。ぼくはびっくりしたし、恥ずかしいしでその場から逃げ出そうとしたんです。そしたら、そのテンシの彼女がいった」

「『もう少しだけ、生きてみてくれませんか?』」

「ぼくはもう訳がわからなくて、でもとにかくその子に気遣われてるんだってことは理解できたので、感情が沸騰したみたいになりました。それで、涙がポロポロこぼれてきて、必死に頷いていました。それが止んだ頃にはもう希死念慮なんてありませんでした」

「それから、ぼくは定職にも就いて、社会生活に何とか復帰して……でも、たまに思うんです。今もあの屋上から、テンシがぼくを視てくれてるのかなって」

「そう考えると、また少しだけ力が戻ってきて、もう少しは耐え凌げる気がしてきます」

「それがぼくが今も生きている理由で、ここを引っ越さないでいる理由です」


 石田氏の証言と関係するかもしれない話がある。

 サカイ荘の隣には、二十年ほど前から「いわながの里」という老人ホームが建っている。建築当初はお世辞にも環境がいいとはいえない状況で、人手もサービスの質も何もかも足りなかった。自殺を図ろうとする入居者もそれなりにいたとかで、グーグルマップの口コミは元入居者の家族の罵詈雑言で埋め尽くされていたようである。その老人ホームが六年前からぐんぐんと評価を上げて、今では入居者の満足度が高い老人ホーム100選とかいう記事に載るほどになったらしい。

 その入居者たちに関して奇妙なことがあるという。

 介護職員の多くは、入居者の老人たちと頻繁にコミュニケーションを取ることで彼らの状態を把握している。日々の会話。その傾聴による信頼関係の向上。また、健康状態の把握。カウンセリングと呼べる程でなくとも、入居者のメンタルケアは職務の一つである。だが、その老人ホームには職員以外にもそういった職務を請け負っている存在がいるのだという。


「■川さんがね、娘が訪ねてきたっていうんです」


 ■川さんは82歳の男性で、この前50歳になったばかりの娘がいる。その職員(仮にAとしよう)は彼の言葉を聞き、その娘がやってきたのだと想像した……のだが、話を聞いてみると何か妙なのだ。


「訪ねてきた娘というのが、何度話を聞いても高校生くらいの女の子なんですよ」


 孫ではないのか、と言葉を選んで尋ねてみたが、それを聞いた■川さんが激昂してしまったのでその件はうやむやになった。また、Aが後に調べてみると、■川さんの親族の訪問記録はなかったという。だが、入居者の親族でない誰かが部屋を訪ねているのは事実らしい。

 彼の他にも「彼女」が訪れている部屋があるとAが気づいたのは一ヶ月ほどしてだった。

 彼女が、何気なくその時のことを話題にしたところ、同僚たちから予想外の反響があったのだ。

 詳しく聞いてみると、他にも「娘」や「孫」という形で入居者の部屋を訪問して回っている謎の人物がいるのだという。

 訪問者は必ず、入居者の親族という形をとり、彼らと歓談して帰る。何かを食べて帰ることもあるという。入居者がそのように証言したとき、実際に、彼らが通常食べる量を超えて、食料が消費された痕跡が確認された。


「私たちは彼女のことをビジターさんと呼ぶことにしました」


 以来、その老人ホームに変わった慣例ができた。

 入居者の個室に入る前、ドアを二、三度ノックし、入居者に確認をとる。


 ――コン、コン、コン。


 それは人間に対する者として、当然の礼儀だが、いわながの里ではもう一手順付け加えることになった。呼びかけに入居者からの反応が返ってくると、一言足す。


「ビジターさんはいらっしゃいますか?」


 この問いかけに返答がなければ、ビジターさんはいない。

 入っていいというわけだ。


 なお、この呼びかけには返事がかえってくることもあるという。

 少女特有の高い声で「入ってますよ」と、聴こえるそうだ。

 勿論、部屋には入居者の他には誰もいない。


   ◆


 興味深いのは、いわながの里の「ビジターさん」は必ずしも特定の形をとらないという点である。

 ■川さんや他の入居者が視たという存在は、皆、彼らの親族という話だった。

 しかし、石田さんの場合。

 彼の見た「テンシ」は親族や知人の誰かといった彼自身に関係のある人物ではない。その容姿は定まりきっている。緑色の衣服に銀髪――或いは白髪。銀を白と読みかえることで、この「テンシ」と『不審者情報』のチラシの因果関係も見えてくる。


 とすると、少なくともサカイ荘には何かがいる。


 それが幽霊なのか。

 或いは全く別の存在か。

 例えば、石田さんがいうようなテンシなのか。


 神か。妖怪か。

 悪魔か。魔女か。

 その善性や、悪性は。また、目的は何なのか。

 疑問や対応する仮定はいくらでも生じ得る。


 重要なのは真実のみ。さて、彼女は何者だろうか?



【補記】

 1999年、ノストラダムスの大予言によって日本中は震撼させられた。


 これは決して、大袈裟な話ではない。 

 70年代、90年代はどちらもオカルトブームの年であり、例え面白半分であれ、その手の神秘が多く取り沙汰された。オカルトとはラテン語で「秘匿されたもの」を語源に持つ言葉であるが、1990年代にバブル崩壊を迎え、1995年には大震災と空前絶後のテロ。そこに相乗効果で付け加えられた1999年という終末は、目に見えない巨大な力を否応なく人々に意識させたことだろう。


 さて、同年(この場合は99年)7月に恐怖の大王が訪れる。

 これは、ノストラダムスの大予言の実際の内容だが、この文言に感化されていくらかの事件が起きたことは想像に難くない。具体的な話をすると、国立科学博物館からいくらかの装飾品が盗難された。


 ところで、古代の飛行機、或いはスペースシャトルについて知っているだろうか?

 それは黄金の紡錘形に、人工物めいた羽をつけた代物である。発掘地等を鑑みて、インカ文明にまつわるものとされており、また、その構造が航空力学にかなったものであるために、古代に発達した科学技術が存在した証拠――すなわちオーパーツとされている。

 ナスカの地上絵やピラミッド等も、その精緻なつくりから一種のオーパーツとして扱われることがある。これがもし、現代の科学技術に負けず劣らずの出来、くらいの意味で使われているとすれば、例えば伊能忠敬の日本地図だってオーパーツのようなものだろう。では、その装飾品に使用されている科学技術が現在のものを超えていたなら? 

 前述した黄金のスペースシャトルは、古代に宇宙進出を試みた証左として一定の注目を集めた。

 もっとも、宇宙旅行程(・)度(・)ならば、現在の技術で比肩できない理由はない。


 だが、1999年。

 前述した盗難事件で盗まれた装飾品の場合、それに施された技術はまるで現代の体系のものと違っており、かつ現人類が再現し得ないだろう特殊な技術を備えていた。

 謂わば、真正のオーパーツである。

 それらの装飾品は、合わせて五つ、表面上はただの宝石のような振る舞いを見せるが特定の――簡単に言ってしまえば「適性のある」人間が触れたとき、特別な効果をもたらした。


 また、これら装飾品の盗難はある組織主導の大掛かりなフェイクであり、容疑者も、事件も、全くのでっち上げであった。装飾品はノストラダムスの大予言を盲信した、しかし、その立場は報道のものと丸っきり違う政府の官僚の手で秘密裏に押収され、ある実験に用いられた。

 では、実際の装飾品《ほうせき》がどのような効果を持つのか? 



 曰く、それは神(・)を(・)降(・)ろ(・)す(・)ことができるのだという。



 神。それは科学全盛のこの時代にまるで不釣り合いな言葉の象徴であり、だが、完全に消すことはできない神秘性の最たるものである。その宝石が実際に用いられ、ある被験者に適合を見せたとき、彼或いは彼女の肉体は完全な変質を見せ、そこには神通力としか呼べないような奇妙な力が備わった。

 組織はこれを『マギガール・プロジェクト』と名付け、これを主導した官僚に全責任を委託し、仮想的「恐怖の大王」を打倒するという任務を彼ら、彼女らに与えた。つまるところ、これがこの世界における魔法少女の誕生であり、一つのパラダイム・シフトである。


   ◆


 ところで、この実験の過程で、世界から完全な消失を確認された被験者と装飾品があるという。


 その宝石は翡翠。糸魚川産、ドーナツ型の耳飾り。

 表面には菱形、或いは、トランプにおけるダイヤのスートに似た模様が刻まれていた。

 被験者の名は■■■■。降ろした神の名前は■■■■■■■■。なお、この名前は公式記録には残されていない。

簡単に言っちゃえば、神の名前当てクイズです。

解答編は出来次第、投稿する予定です。


雰囲気で読むミステリ的な展開が好きなので(インデックスとか)こうなりました。正直当てられるとは思っていませんが、もし当てられたらびっくりします。

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