蹂躙②
如月 夕日。
その名に男は聞き覚えがあった。
覚えがあったからこそ、男は"如月 夕日"に恐怖を覚える。
「しつもん。するよ?」
「……っ」
息を飲む、男。
その顔を見上げ、夕日は続ける。
「瑠璃ちゃんのことをいたぶってどんな気分だったのかな? きっと瑠璃ちゃんはいたいっいたいって泣き叫んでいたと思うんだ。だって、瑠璃ちゃんはとても強そうに見えて実はとってもか弱い夕日のお友達だもん」
響く声に、感情はない。
だが、それが逆に男の畏れを更に駆り立てる。
滲む汗。
しかし、男はそれを拭うことはおろか指一本さえ動かせない程に、夕日によって自由を支配されていた。
震え黙りこむ、男。
その姿に夕日はーー
「こたえろ、ゴミ」
そう吐き捨て。
闇をまとった拳。
それを男の腹へと叩き込む。
刹那。
男の内に響く、途方もない衝撃。
内臓全てが悲鳴をあげ、男は声にならぬ呻きをもらす。
倒れそうになるが、夕日によって自由を奪われている為それすらもできない。
そこに追い討ちをかける、夕日。
「んーとね。もうひとつ、しつもん」
にこやかに声を発し、再び拳を固める夕日。
「瑠璃ちゃんを何回ぶったのかな? 3つ数える内に答えないと……夕日の気が済むまで、なぐり続ける」
瞳孔を開き。
夕日は更に濃く、己の拳に闇を凝縮させていく。
「はい。いーち」
「さ……っ。3発だ!!」
痛みをこらえ叫び、涙目になる男。
だが、夕日のカウントは止まらない。
「はい。にーぃ」
「じゅっ十発だ!! そッ、それ以上は覚えてねぇ!!」
「はい。さーん」
「な……っ」
絶望に落ちた、男。
その愚かな姿を、夕日は嗤う。
そしてーー
「ざんねんでした。夕日は最初からあなたを好きだけ殴ると決めてたの」
そう呟き。
有無を言わせず、夕日は男へと拳を叩き込む。
「がは……っ」
「もっといい声で鳴け」
返り血を拭い。赤城 瑠璃の痛みを思い。
夕日は男に"憎悪"をのせた拳をぶつけていく。
べきっ。ごき。
骨が砕け、内臓が破裂し。
「ぁ……ぐっ」
男は完全に如月 夕日の玩具と為る。
その光景はまるで。
"「もっといい声で鳴けねぇのか、クソ餓鬼」"
"「……っ」"
台の上に拘束された赤城 瑠璃。
その腹に馬乗りになり、悪態をつきながら拳を振りおろしていた光景とそっくりだった。
かかる、夕日の足払い。
転倒する、男。
そして、夕日はその男の腹に座り馬乗りの体勢になる。
微笑み。
躊躇いなく、拳を振り上げる夕日。
その姿に、男は抗いようのないナニかを感じる。
"きらさぎ ゆうひ"
夕日の名。
それを男が、畏れに満ちた自身の心の内で呟いた瞬間。
夕日の闇に染まった拳。
それが、男の顔面へとーー
容赦なく振り下ろされた。




