蹂躙①
日が昇り、白の光に包まれる街。
眼を覚まし、人々は今日という日をいつもと同じように何事もなく過ごそうとしていた。
変わり映えのない日常。
しかしそれは、何物にも変えがたい平穏の象徴。
「……」
その光景。
それを如月 夕日は、じっと見下ろしていた。
闇を纏い、浮遊し。
その瞳に、"憎悪"を揺らしながら。
夕日の胸の内。
そこにこだまするのは、破壊・殺戮・蹂躙といった負の感情だけだった。
瞼を閉じ、夕日は人々の声を聞く。
"魔女が死んでほんとに良かったな"
"そうね。見た目はただの少女ってのがタチが悪い"
"知ってるか? そういや、この街に赤城 瑠璃に正義を下したお偉いさんが住んでるらしいぜ"
"えっ、マジ? はじめて知った"
"あそこに見える、でかい屋敷。そこがーー"
瞼を開け。
「さくせん名、瑠璃ちゃんの仇。たーげっとはあのお屋敷に住むえらい人」
そう淡々と呟き、ペロリと舌舐めずりをする夕日。
その夕日の姿。
それはまるで餌を見定めた、飢えた獣のよう。
"「わたしはさ、難しいことはよくわからない。でもさ……その、大切なモノを守るのに理由なんていらないって思うんだ」"
仄かに頬を染め、気恥ずかしそうに。
赤城 瑠璃は魔法少女になることを決意した。
放課後の誰も居ない教室。
そこで、瑠璃は夕日の手のひらを優しく握りしめながら。
"「これからよろしくね。足手まといになるかもだけど」"
ちいさな拳。
それを握りしめ、夕日は闇をたぎらせる。
そしてーー
「はじまり。はじまり」
そう無機質に声を溢し、聳える屋敷に意識を固定した。
~~~
豪奢な屋敷。
その中でも一際豪華な大広間。
そこに、権力者たちは集っていた。
赤城 瑠璃。
その少女を虐め弄び、そして殺した張本人たち。
朝から酒を交わし、笑う男たち。
「それにしても、実に愉快な最後であったな」
「うむ。あのようなクソ餓鬼ほど、虐め殺し甲斐があるものです」
「名前は確か……"赤城 瑠璃"といったか? 最後の最後までほんとにいい声で鳴いてくれた」
抉り。剥ぎ取り。刺し。
赤城 瑠璃の身体を玩具のように弄び、あがる悲鳴を"甘美"と評し、たのしんでいた者たち。
「魔女に人権など不要。あやつらの命など小石ほどの価値もない」
「まっ、最期に。我らの嗜虐を満たすことができ、赤城 瑠璃も喜んでおるだろ。己の無価値な命が価値ある命に昇華されたことにな」
「ははは。うまいことを仰る」
盛り上がり、再び互いに酒を酌み交わそうとする面々。
だがそれを、響いた悲鳴が遮った。
~~~
屋敷の入り口。
そこに、闇を抑え一人のか弱い少女として如月 夕日は訪れていた。
「なんの用だ、餓鬼」
「あのねー。わたし、まいごなの」
「迷子? 舐めてんのか? 俺は餓鬼にでも容赦はしねぇぞ」
男は鼻で笑い、顔を伏せた少女を小馬鹿にする。
そして自慢気に、言葉を続けた。
「俺はな。あの"赤城 瑠璃"を口も聞けねぇほどにいたぶってやったんだぜ?」
「……」
「餓鬼が大嫌いなんだよ。特にてめぇみたいな……っとーー」
言葉を止め、男はまじまじと少女の姿を見つめる。
顔は見えない。
だが、なぜか男の嗜虐心がくすぐられてしまう。
そしてーー
「おい、餓鬼」
「なーに?」
「どうだ? この屋敷で保護してやろうか?」
「わーい。うれしい」
これだから餓鬼は。
男は内心でほくそ笑む。
「名前はなんて言うんだ?」
「なまえ?」
「それ以外になにがあるんだ、餓鬼」
「わたしのなまえはーー」
顔をあげ、夕日はにっこりと微笑む。
「きさらぎ ゆうひ」
刹那。
男の身体。
その自由が完全に奪われる。
「な……っ」
「瑠璃ちゃんの仇をとる為に。夕日はここにきたの」
「くっ。くそ……っ」
微笑み、夕日は自身の拳に闇を纏わせていく。
しかしその目は一切、笑っていない。




