如月夕日①
「もうちょっとで魔女の家だな」
「そうね。まっ、正確には"魔女の家があった場所"なんだけど」
「おい。そろそろだぜ」
「これで再生回数10万回は下らないな」
カメラを持つ青年。
それを先頭に、数人の若い男女が"如月 夕日"の家の跡地へと向かっていた。
時は既に深夜。
周囲はシンと静まり返り、光源といえば寂しく佇む街灯のみ。
「この角を曲がれば、あの有名な如月家」
「準備はいいか?」
興奮する、二人の青年。
対照的に冷静なのは二人の若い女性。
「準備もなにもどうせなにもないでしょ?」
「とりつくされたネタだよね、これ。魔女たちの処刑映像並みのインパクトがあれば一気に有名になれるのに」
女性は溜め息すら漏らす始末。
だが、青年たちはあえて興奮する演技をし、勢いよく角からその身を乗り出した。
瞬間。
「……っ」
「あ、あれ……なんだ?」
固まる、二人の青年。
それを女性たちは演技だと勘違いし、「ちょっと、もう。ふざけないで」と声を荒げ、自らも身を乗り出そうとする。
もう一人の女性は呆れ、「ねぇ、はやく帰ろうよ」と愚痴をこぼし、ポケットからスマホをとりだし弄り始めてしまう。
だが、その余裕は数秒で崩れ去る。
吹き抜ける、冷たい風。
思わず髪をおさえ、女性は視線を横に向けた。
その、刹那。
ぐしゃり。
というなにかが潰れる音共に、生温かいナニカが女性の顔面へと付着する。
「えっ?」
声をあげ、女性は視た。
首が無くなり、ゆっくりとその場に崩れ落ちる青年の姿を。
そして、聞いた。
いや、聞こえてきた。
「ゆるさない」
という、直接脳内に響く幼い声を。
「……っ」
スマホを落とし、崩れ落ちる女性。
それを横目に。
「お、おいッ。なんだよアレッ!!」
「にッ、逃げようよ!! このままじゃーーッ」
半狂乱になり、二人は我先に逃げ出そうとする。
だが、そうやって駆け出そうとした二人の眼前。
そこに、その存在は現れた。
「……」
はためく漆黒のローブ。
紅く濡れた瞳。
白く透き通った肌。
そして、一切の生気も躊躇いも宿っていない表情。
「きさらぎ ゆうひ」
仮面のような笑み。
それをたたえ、夕日は名前を述べた。
「このせかいを絶望に落とす。それがわたしの使命なの」
「き……っ」
悲鳴をあげようとする、女性。
だが、夕日はそれを赦さない。
ぱちりと。
瞬きをし、夕日は女性の喉を潰す。
そして、流れるように「しね」と吐き捨てる。
目から光を無くし、崩れ落ちる女性。
その様はまるで、糸を切られた操り人形のように呆気ない。
「ゆッ、許してくれ!! お、俺たちはただ知名度をあげたくて」
男は土下座し、夕日へと許しを乞う。
だが、夕日にはもはや人間の声に傾ける耳などない。
「うーん。まだ二人の魂しかささげていない。魔王少女の為にはまだまだ足りない」
「た、たすけーー」
「しね」
はぜる、男の頭。
返り血を浴び、夕日はにっこりと嗤う。
腰が砕け、後ずさる女性。
その姿を愉しそうに見つめ、夕日は鼻唄を囀ずる。




