表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

――私の志望校は元々、違う場所だった。

 今よりも少し遠い場所で、今の学校と学力に大した差はない。

 私は家族が好きだ。お母さんもお父さんも、勿論、妹も。

 十近く離れた妹ができるくらいには、両親の関係も良好だろう。

 昔、歩もまだ生まれていない頃だ。両親はいつも悲しい顔をした。

 同級生に髪のことで意地悪をされた。

 妖怪とか、人間じゃないとか。大凡、人以外の何かで例えられた。

「雪女! 雪女だ! 触ると死んじゃうぞ!」

その事を親に言うと、決まって「ごめんね」と言う。

 私はその顔が嫌いだった。言葉が嫌いだった。お母さんたちは悪いことをしてない。

 悩んで、悩んで。思い付いた。私はそれを誇ることにした。

 この髪は雪と同じ銀色で、二人が私にくれたプレゼントだと。

 学校では普段は大人しくして、髪のことを聞かれたらそう答えるようにした。

 そしたら、段々と私に意地悪する人はいなくなった。中学生になっても、最初はビックリされますが、そのスタンスを崩さなければ問題なかった。

 二人も悲しい顔をすることがなくなって、生まれてきた妹は私の髪を好んで、キャッキャッっと笑う。私はこの髪を人生で一度たりとも嫌ったことがない。

 ですが、一時、疑問に思うことはあった。

 周りが進学先で悩む中、私は行きたい学校があった。

 そこは両親が初めて出会った場所。

 両親が好きで、その出会いに憧れがあった私に迷いは無かった。

 試験の成績にはそれなりの自信があった。後は面接だけ。

「その髪はどうにかならないかな。試験会場にそんな髪色で挑むなんてね」

三人いる中の一人の面接官のセリフは、確かそんなこと。

頭の中が真っ白になって、全身が凍り付いたのがわかった。

 鼻で嗤うように、人を見下したように。自分が有利な立場だから好き放題。

 久しぶりにそういう扱いを受けたのもあったのだろう、かっとなった。

「貴方は私が父や母から授かった大切なモノを馬鹿にするのですか。それとも、貴校では生まれ持った人の容姿を馬鹿にしても良いというのが、教育方針なのですか」

 今度は場が凍り付いた。面接官が何か言おうとするのを遮って続ける。

「私は、このような方が務めている学校で学びたくありません。失礼します」

 静止も聞かずに、さっさと帰った。

 連絡を受けた二人が何事かと語気を強めた。

だが、理由を話すとまた「ごめん」と言った。

 何処からか話が広まったのか、謝罪ともう一度だけ受けないかと学校が提案してきた。

 でも、断った。負い目や情けで入学しても意味がない。

 何よりも良い年した大人が、子供みたいな理由で馬鹿にしてきたことが嫌だった。

 もう、一秒だってあの学校に関わりたくなかった。

 わかってる。子供なのは私だ。プライド一つで人生を棒に振りかけた。

 ただ、それでも私は幸せになりたかった。二人と同じ様に。

 私が幸せになれば、もう二度とお母さんたちは謝らなくて済むから。

 目標も目的も失った私は、距離とレベルだけで選んだ第二志望を合格した。

 制服を着てみれば、意外に可愛いくて気に入った。

 なあなあでくぐった門に、ワクワクもドキドキもなく、ただ好奇の視線に晒される。

 あの時、言われたことが蘇って吐き気がする。

「へー! 巫代ちゃんって言うんだ! 綺麗な髪だね!」

 私の髪を初対面で直接褒めてくれたのが一人。

……思えば、私以外に悪目立ちしてた男子もいた。

 担任に渡された成績表を見上げる。

 今までちょっと良さげの成績だったのが、割と良さげの成績になってる。

 こうやって実力が数値化されるのは悪くない。上がった時にわかりやすくて好きだ。

 誰にするでもなく、控えめにドヤ顔をする。

「――そうか。よかったな」

 校舎の何処かに消えたのを見つけて、結果を報告する。

 しかし、返って来たのはその程度。

 誇ったり、一緒に喜んだりはしないのは理解してましたが、ここまで淡白だと腹立つ。

「あの、これでも感謝を伝えてるのですが」

「感謝も何もない。片桐は地頭が良い。勉強の仕方さえ掴めばこんなものだ」

 要するに、私が頑張っただけだと言いたいらしい。

 これ、謙遜とかじゃなくて本気で言っているんですよ。

 自己評価が限りなく低いのか、事実を語っているつもりなのか。

「それで夏休みのことなんですが」

「夏休み? お前は夏休みも教えろと?」

「はい」

 結果が出た。教師にも褒められて悪い気分じゃない。多分、親にも褒められる。

 続けることも苦ではないので、止める理由も特段は無い。

 何より宣言した以上は付き合わせるつもりだ。

「あ、すいません。友達いなさそうなので予定が無いものだと」

「事実、バイト以外無いが。片桐の方は問題ないのか? 夏休みだぞ」

「私はほぼ予定ありません。というか暑いので外に出たくありません」

 昨今の夏は灼熱も灼熱。散歩が義務の犬を散歩させたら、SNSに叩かれる世界。

 思わぬ提案に頭を悩ませている。ただ、即座に拒否はしない。

「勉強するにしても、何処でするんだ?」

「どうしますかね。学校も毎日空いてる訳じゃないですから」

「言っとくが俺の家は無理だ」

 首を捻って念の為、理由を尋ねる。

「俺は、一人暮らし」

「あ、はい。わかりました」

 あまりに完結的な理由に思わず即答する。

「というか私の家でいいですか? 出たくありません」

「ぶっちゃけたな。学校の図書室寄るついでなら、まぁ……家族は?」

「前回の事もありますから、問題ないと思います。確認はしますが」

「――巫代ちゃーん、この後なんだけど――シュワッチ⁉」

 曲がり角からひょっこり姿を現したかと思えば、臨戦態勢を取る。

 プルプルと震える姿に、崖さんは顔色を変えない。

「……細かいことは後で連絡する」

 それだけ伝えて――と思いきや、私と星摩さんをじっと見て固まる。

「な、なんだよう……! 巫代ちゃんは上げないぞ! や、やんのか、こらぁ……」

 わあお、何とも頼もしい発言ですね。私を壁にしてなければ。

 じーっと、ただじーっと見る。

珍しい。いつもなら、誰か来るとすぐに去るのに。

 唾を飲み込む音が、すぐ後ろから聞こえた。

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………御園さん」

「な、なに?」

「…………………………彼氏と夜道は控えてください」

 溜めに溜めたセリフはシンプル。ただの気遣いだった。

「片桐も、気を付けろ……ああ、疲れた」

 ついでのように私にも言って、階段を降りて帰っていった。

「彼との夜道は気を付けてって……もしかして殺害予告⁉」

「いえ。恐らく最近、物騒だからだとおもいますが……」

 何でも、女性を狙った事件があったとか。

 それにしてもわざわざ警告するなんて。何のきまぐれでしょうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ