18
――というわけで週末。
この辺では割と大きいプールで、アトラクションに特化した施設が多いのが特徴。
この季節だと温水に変わっていて、シーズンでもない。客足も微妙だ。
とは言え、海パン一丁でプール際は冷える。先に泳いでおこうか。
ゴーグルをセットした所で――
「相変わらず、特に特徴の無い体ね」
長い茶髪を優雅に揺らしながら、大胆なビキニ姿で登場する。
「そういうお前は随分と気合の入った……」
「な、何よ? じろじろ見て」
「……少し、太ったか?」
綺麗な回し蹴りが、俺の前髪をはためかせる。
「いや、前より肉付きよくなったな、と」
「この期に及んでまだ続けるの? これだから女っけの無い男は」
「事実だ」
「いい? 女の子は第二次性徴を迎えると体に凹凸が出るの」
上から目線で講釈を垂れる姿に、二つの意味で成長を感じる。
「あんたの知るちんちくりんじゃないの」
ふと思い出す。咲里花はやけに保健体育に強かったことを。
「つまり、よ? これは成長なの。バストサイズだってDカップてま――‼」
「まてまてまてまてまて」
無言でビーチチェアに手を掛けるな。
顔を真っ赤にしながら涙目でキレている。
だが言わせてもらう。俺は悪くない。
「酷いわ、こんな辱め」
「急に被害者面されてもな」
「助けてくれ、って頼んで来たのあんたなのに、こんな扱い……」
「わー! 崖君、橘ちゃん泣かしてる!」
面倒臭い人が、面倒臭いタイミングで来てしまった。
健康的な体つきで活発な女子だが、水着はパレオのある控えめな物。
「水着の感想を言ったらこうなりました」
「どんな感想を言ったらこうなるの……? 橘ちゃん大丈夫?」
「御園、慰めないでくれる?」
ギロッと睨みつける。
「私がイジメられてるみたいじゃない。喧嘩売ってるの?」
「ええ⁉ この流れであたしが怒られることあるの⁉」
「当然よ。それじゃあ私がコイツより下みたいじゃない」
「そこ、拘るところなの?」
「また、デリカシーの無いこと言ったんですか」
一方、少し遅れてきた少女はフリル付きスカートが可愛らしい水着。
存外に可愛らしい趣味だが、華奢ながら、凹凸のある体に髪が相まって儚さがある。
髪も祭りで見たお団子が二つ。お得セットだ。
「何ですか?」
「いや意外だと思った」
「あ、そうですか。どうせ感想言ったら悪態吐きますよーだ」
ぶっきらぼうに言い捨てて二人の元に合流する。
館内放送に合わせて律儀に準備体操まで済ませた。
「まずみんなでビーチバレーをやるよ! バレーコートあるし!」
「プールの場合もビーチバレーで良いんですかね?」
「ビーチバレーもルールが深いらしいが、水着でやるからいいんじゃないか?」
確か、ビキニでないと駄目とかルールがあった気もする。
「甘いわね」
あくどい笑みをしている。
「勝負事なら敗者には罰がないと。そうでしょう?」
「うーん、言われてみればその方が燃える、かも?」
「なら、丁度いいのがあるわ」
首をクイっとした先には、天井近くから下に複雑に曲がった大きなパイプがある。
ここに誘われた時に見た、ホームページの内容を思い出す。
『絶叫! そのスリリングは正に天にも昇る感覚!』
「いや、死んでるだろそれ」
「え、どうしました急に?」
「おお……結構高い……じゃあ、負けたチームはあのウォータースライダ―ね!」
「その条件は……」
「そうしましょう。女子相手に逃げる腰抜けなんていないでしょうし、ねぇ?」
「あ、彼芽さん凄いビビってますね」
「でしょうね。あんた絶叫系苦手だもの」
あれは人が乗る乗り物ではない。
何が好きで臨死体験をしなければならないのか。
「え? え? ホントにビビってるの? 全然、わからないけど」
「目を見ればわかるわよ。キョドリまくりよ」
「はい。声のトーンと体が震えまくってます」
「ぜん! ぜん! わかんない! ずるいよ崖君! 二人と通じ合ってるみたいで!」
「この流れで俺が怒られるんですか」
「へー? なら、私はこの子とチームを組むわね?」
「なら私と彼芽さんですか。勝ちに行きますよ」
俺のために、などでは決してなく。単純に負けるのが嫌らしい。
闘志に燃える瞳。ノリノリの二人。嫌だとは言えなかった。
サーブは咲里花から。運動神経は中学では上の下。
御園さんもスポーツには積極的に参加するタイプ。
対して、中の上の俺と同じぐらいの巫代さん。勝つのは容易じゃない。
それでも、咲里花がサーブなら拾うのは簡単だ。
僅かな仕草から軌道が読み取れる。打つ場所さえわかればボールは上げられる。
……待て。ならなぜ、咲里花がサーブなんだ?
「――当たれ!」
ギラつきから放たれた一球は、顔面に直撃する。
そう、根底から履き違えていた。こいつは最初からバレーをする気がない。
これは――ドッチボール(顔面あり)だ。
「よし! 顔面一発!」
「すごいサーブ! あたしもスカッとした!」
「御園も?」
「うん! だって最近、巫代ちゃん独り占めするから!」
「意外と気が合うかもしれないわね、私たち」
握手を交わし、奇妙な友情が芽生えていた。
その横をストンとボールが落ちる。
「いいですよ彼芽さん。その調子でボールをあげてください」
どさくさに紛れて、直撃から跳ねたボールを処理していた。
試合(という名目)は続く。
御園さんまで面白がって俺を狙い始める。避けたら避けたで味方に恨まれる。
四面楚歌とはこう言うのだろう。
ゲームの勝敗は当然こちらの勝ちだ。だって目的が違う。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉」「やっほぉぉぉぉぉおおぉぉぉぉぉい!」
係員に押されて、三者三葉の声を出す。
因みに、男子のような叫びが咲里花。女の子らしい叫びが御園さん。
「橘さん楽しんでませんか?」
「咲里花はこう言うアトラクション大好物だから」
この勝負の致命的な部分は、咲里花に一切のマイナス無いことだろう。
自分可愛さだけではなくそこを指摘しようとしたのだが、後の祭りだ。
せめて、上から眺めてやろうと一緒に登ったが。
「――私には最初からタメ口でしたよね」
いつかの会話を、思い出したように口にする。
「何ですか。最初から私のこと舐め腐ってました?」
「ただの一度も侮ったことはない」
「ではなぜ?」
「デジャブだ。前にも一度だけ勉強教えろ、って頼まれたことがある」
会話が噛み合っていないと、怪訝そうにする。
「そいつに敬語を止めるように言われたのを思い出して、つい口調が崩れた」
話しかけられた時に、姿がダブって見えたのだ。
「私以外にもいたんですね、そんな酔狂な人が」
「あいつ」
びしょ濡れで、良い笑顔をする女の子を指差す。
「え、嘘」
「元々は大人しかったのに、学力つけたらあんな傲岸不遜女になった……」
どこで教え方を間違えたのか。妙な自信が付いてしまった。
「俺は基本、家族以外は敬語だ」
小さい子には砕けた話し方はするが。
「いや、あの、ぶっちゃけ衝撃の事実過ぎて話が入ってきません」
「ならいい。理由としてはそれだけだ。敬語に直すのも変だからな」
だが、最初に会った自信なさそうな彼女よりも。
笑顔を隠さない彼女の方が、俺は好きだ。
「悪い。そろそろ降りてもいいか?」
「……そんなに怖いんですか?」
下を見ていたら、高さに恐怖心が募ってきた。
視線を外したらそこには、悪戯を思い付いた子供のような巫代さんがいた。
俺の知り合う女性はどうしてこう、悪い顔が似合うのだろう。
「すみません。次、私たちが乗ります」
「嫌だ。絶対に嫌だ」
「まぁまぁまぁまぁ」
グイグイと腕を引っ張られる。
振り払うのは簡単だが、下手に振り払うと怪我をさせてしまう。
後ろの列が不満そうに睨んでくる。巫代さんはわかっていてやっている。
「さぁさぁさぁ」
「嫌だ嫌だ。やだやだやだやだや――」
無情にも押し出される二人乗りの浮輪。
激流の恐怖に最早、悲鳴すら上げることができなかった。
怖くて自分のページを確認できていなかったのですが、ブックマーク? と評価? (仕組みをよく理解していない)をしてくれた方がいらっしゃるみたいで……有難い限りです。そのおかげで、一瞬ですがランキングに載れました! これからも、引き続きお楽しみいただければ幸いです。
追記、次から更新日時が変わり、金曜日と日曜の夜頃になります。なので、次は日曜日になります。投稿時間安定してなくてすみません……




