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だから私は、明日の約束をする。  作者: 刻詩銀。
そして、少女は呪われる。
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「――ありがとうございます」

「片桐が背負うと共倒れしかねない」

 花火も終わって帰り道。祭りはまだまだ続いているが、帰路に着いている。

 背中で幸せそうに眠る歩ちゃん。着けたままのお面が頭に当たる。

「大はしゃぎでしたから」

「どっかの誰かさんのせいで、大変だったしな」

「それはあまり言わないでください」

 睥睨しつつも、すぐに柔らかくなる。

「――私、幸せになりたかったんです」

 背中の少女を見て語りだす。

「昔から、この髪を見て化物だの雪女だの言われてきたんですよ」

 想像に難くない話だった。

 現に今でも、彼女を気味悪がる人物は一定数いる。

「その度に親に謝られるんです。健康に産めなくてごめんねって」

 仕方のないこととは周りが割り切れても、当人たちは簡単に割り切れない。

 ただ、彼女は一度たりとも髪のことで卑下することは無かった。

「それで、幸せになって安心させたかったか。わざわざ俺に勉強を教えて貰ってまで」

「よくご存知ですね。相変わらず気持ちの悪い特技ですよ」

 成績を上げて進学、或いは就職する。

 ありきたりだが、真っ当な発想だろう。

「でも今日、歩と仲直りした時に思ったんです。私は今、幸せなんじゃないかと」

「家族がいて友達がいて、それは当たり前のようだが幸せなことだ」

「死ぬような思いで痛感したらですね、わからなくなっちゃいました」

 困ったように笑いを漏らす。

「わからなくなった?」

「何が私にとって一番の幸せなのか、これから何をすればいいのか」

 目標にしていた幸福と言うものが、思ったより身近にあった。

 これ以上の幸福が思いつかないんだ、片桐は。

 この先で何をすればいいのか見失ってしまった。

「片桐は、その髪を卑下しなくていい」

「知ってますよ、そんなこと」

「俺の傷とは違う」

「神様に怒られた、ですか?」

 いつか知られることだ。

 本当はあの時、聞かれると思っていたのに、タイミングを逃した。

 いや、言い訳だ。知って欲しかったのかもしれない。

「俺の過ちに対する罰だ。この傷は液体による火傷」

「液体、ですか。火や熱ではなく」

「市販の洗剤とか薬剤で、混ぜるな危険ってあるだろ。あれをかけられた」

 啞然とした様子が伝わってくる。

「蛇がのたうち回ったみたいだから、蛇の呪いとか言われてるだろ」

「傷痕が不規則なのは、そのせいですか」

 分散した粒が不規則に命中した結果だ。

「咲里花がバケツ一杯の水を被せてくれたから、これで済んだ」

 あれが無かったら、今よりも醜悪な見た目をしていただろう。

 それこそ、歩ちゃんが見ただけで泣き叫んでもおかしくないぐらいに。

「まぁ、ちょっと目に入って視力はガタ落ちしたが」

「――すいません!」

「ビックリした。何で頭を下げる」

「だって、知らないとはいえ私は……」

「笑い話にしたのは俺だ。実際、コンタクトが駄目なのは子供みたいな理由だ」

 舌でも嚙み切りそうだから、さっさと話を進める。

「何でもその人の悪事を、どうも俺がバラしたらしい」

「貴方はそういう人ではないですよ」

「ああ、身に覚えがない。だが、そのせいで推薦は白紙になった」

「ただの八つ当たりじゃないですか!」

「しー」

 背中側に顎をくいっとする。

 怒気は募りつつも声を抑えて、続ける。

「それが、どうして罰になるんですか。貴方は何も悪くない」

「憐れんだ。この人は怒られてこなかった、可哀想な人だって。憐みの目で見た」

「そんなの……いえ、火に油を注いだんですね」

「人を憐れむなんて何様だって、話だ」

 可哀想だと思うなら、もっと早くから止めればいい。

「呪いなんて噂されるが間違いじゃない」

「理不尽、ですよ」

「悪意なんて基本理不尽だ、見境も無い、平気で他人の幸せを奪う」

 犬も歩けば棒に当たる。生きていれば災難なんて幾らでも起こり得る。

「だからこそ、守らないといけない」

 急に立ち止まって、珍獣でも見つけたような反応をされる。

 一転して決意に満ちた頷きをした。

「……結局、復讐したんですか?」

「恨みがないとは言わない。今でも、憐みの方が強い」

「やっぱり、根も葉もない噂ですよね」

「ああ悪い。復讐はしたよ」

「あの、前言撤回していいですか。普通に見損ないました」

 手のひら返すの速いなぁ……

「語弊がある。その人にはしてない」

「してるじゃないですか」

 顔を背けて誤魔化す。追及の二の句が出る前に、態勢を整える。

 うるさかったのか、身じろぎするので落ちそうになっていた。

「この子が大きくなっても、遊びに来てください」

「……本当に結婚するのか?」

「……冗談でも怒りますよ?」

「俺は、一瞬想像した」

 存外、悪くないなと感じてしまった。きっと楽しいだろう。

 いつもなら悪態を吐いてきそうなものだが、明後日を見ている。

 心なしか、耳が赤くなっている。

「だがないだろうな、そんなこと」

 妙な沈黙のまま、家まで辿り着いた。

「俺はここまでだ」

「ゆっくりしていけばいいですよ」

「夜も遅いしな。起きたら遊ぼうってせがまれそうだ」

「あり得ますね。ふふっ」

 玄関の前で歩ちゃんを受け渡す。

そのまま手を振って、場を後にする。

「――あの! ありがとうございました! 楽しかったです!」

 眠っている子にも時間帯も構わず、後ろから大声がする。

 ヒヤヒヤさせるな……俺も楽しかった、久しぶりに。

 言葉を返そうにも返せないので、もう一度だけ手を振った。

 疲れた……歩ちゃんがいなくなった時は流石に肝を冷やした。

 内心では、大焦りだ。予想が的中してくれたから良かったものの。

 片桐家からしばらく離れた場所で頭を掻こうとする。

「……やばい」


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