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最後のギフト

作者: 半田南都
掲載日:2025/12/02

母が亡くなった──。


明るくて優しくて、いつも私を守ってくれた人。ホスピスで過ごした最期の日々、私は後悔のないように世話をしたつもりだったけれど、母からもらった愛情や励まし、安心感……どれひとつ返せていない。


なのに、母は病床でよく「ごめんね、美加ちゃん。お母さん何もできなくて」と謝っていた。もう、十分なのに。


ある夜、病室に泊まっていた私は物音で目を覚ました。母がサイドテーブルを片付けている。認知機能が下がり、時々思考が迷子になることはあったが、本人は真剣だ。


「何してるの?」と聞く私に、母は言った。


「用意しているの。お母さんのお葬式」


縁起でもない、と慌てる私をよそに母は続ける。


「美加ちゃん、写真どうしよう? 額縁あるかな? ガラス入ってると重いから枠だけで。あ、ラップ巻いとこう! そうしよう!」


遺影のこと……? というか、自分のお葬式の準備なんて聞いたことがない。


「お母さん、そんなこと考えるの早いから。今日は寝よ?」


そう言うと、母は「そうね。あとは美加ちゃん、頼むわね」と目を閉じた。


──そして一週間後、本当に私は母の葬儀の準備をしていた。


悲しんでいる暇はない。認知症の父の代わりに喪主として手配に追われ、悲しいはずなのに涙すら出てこない。


出棺の時間。私は母の遺影を手に父と夫と並んで車を待っていた。父も静かに立っている。


頬に落ちた冷たい感触。涙かと思えば、雨だった。空も泣いているのだと私は思ったが、それでも涙はこぼれない。


係の人が近づき、「濡れてしまうからかけときますね」と言って、母の遺影に──ラップをかけた。


え? ラップ?


「写真、枠だけでいいよ。あ、ラップを巻いとこう!」


母の言葉がよみがえり、クスッと笑ってしまった。


「やだ、お母さん、本当にラップ巻かれてるじゃん……!」


父と夫は不思議そうに私を見る。そして遺影を見ながら、父が静かに言った──「母さん、いい顔だな」


夫も頷いた。「ほんと、笑顔が素敵な人でしたよね」


その瞬間、私は笑いながら泣いた。泣いていいよ。でも笑顔も忘れないで──母がそう言った気がした。


私は何もしてあげられなかったのに、また母から大切なものをもらった。ほんと、もらってばっかりだ。


空を見上げ、私は心の中でつぶやいた。


最後に笑顔の贈り物──ありがとう、お母さん。


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