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まさかの逆朝チュン?!

――チュンチュン――


んーもう少しだけ寝たい⋯⋯でももう朝かしら?今日は仕事だし、もう起きなきゃなぁ⋯⋯


「はぁ、朝から疲れてるなんてどういう事よ⋯⋯ん?あれ?本当にどういう事よ!!何で私全裸なの?!えぇ?」


いつもの自分の部屋ではあるけど、どこかいつもと違う。これは明らかに⋯⋯


「これ朝チュン?!自分の部屋で?いや私、女ですから!私がコッソリ謎の男の部屋から帰るべきでしょ?!私がコッソリ帰られたー!」


ああああぁ!やってしまった。



 逆朝チュンをしてしまった私、セリーヌ・ファブリス子爵令嬢は王宮図書館で古文書の現代語訳や修復をしている文官で、王都で一人暮らしをしています。

子爵令嬢といえども、現代において爵位はあまり意味を持ちません。実力主義の時代です。

特に田舎育ちで跡継ぎでもない私は自力で就職し、生活していかなくてはならない身です。


「と、とりあえず身支度だわ。時間は待ってくれないもの」


言葉にはしたくないけれど感じる体の異変。ただ全裸で一人寝をしていた訳ではないのは九十パーセント強確実。


「シャワー浴びよ⋯⋯ってうわぁ!パ、パンツ!?」


通例通りのパンツ忘れ。どこかの誰かさんはノーパンで帰った模様。

これで色々と百パーセント確定。


「このパンツどうしょう?でも持ち主わからないし」


このおパンツから魔力を検出すればお相手が判明するかも⋯⋯


「嫌、それは何か嫌!」


その後もぐるぐると思考を回転させながらも準備を終え、いつも通り出勤しました。 社会人ですから。



「セリーヌお疲れ。お昼行こうよ」

「あれ、もうお昼休憩入ってた?エステルもお疲れ」


 エステルは私の友人で、図書館で本の貸し出し業務などをしている同期です。私たちはいつも王宮で働く人が利用出来る王宮食堂で昼食をとります。


「あれ?セリーヌ食欲ない?元気もない?何かあった?」

「それが⋯⋯」


私は今朝の事をエステルに相談する事にしました。


「昨日は建国記念日だったわよね?セリーヌはどこにいたの?」


昨日はこのオーギュスタン王国の建国記念日でした。王宮図書館は休館で、暇だった私は朝から一般公開されていた王宮を見学し、一応貴族なので夜は舞踏会に参加していました。


「じゃあ舞踏会でお相手に出会ったの?」

「それが全く覚えてないのよ。少し参加したら帰るつもりだったのよ」


会場に着き、久しぶりに会う友達に挨拶して、何か食べようかな?なんて考えていた所までは覚えているのだけれど⋯⋯


「ちょっと!それあれよ!デートドラッグってやつ。セリーヌ少しぼーっとしてるから飲み物に薬入れられたのよ!」

「え?!私ってぼーっとしてるの?!私長女なのよ?長女はしっかりしてるものよ?!」

「驚くのそこ?それに長女は関係ないわよ?特にあなたは当てはまらないわ。じゃあ、もし今私がセリーヌのスープに薬入れたとしたら気づく?」

「他の物を食べるのに集中していたらわからないかも」


どうやら私のお相手は卑劣な男だったのかもしれません。


「そういえばパンツをうちに忘れて帰ったみたいなの」

「えー変態じゃない。ちなみにどんなパンツ?」

「あのゾウリムシみたいな毛の生えたナメクジみたいなパンツよ」

「はぁ?まぁ私もセリーヌとの付き合は長いから何となく分かったわ。それペイズリー柄のパンツね?」

「そうとも言う」

「いや、それしかないよ?はぁ。セリーヌ気を付けなさいよ?あなたの家の場所はそいつに知られてるんだから。戸締りをしっかりして寝るのよ?家に入る前に周りに変な人がいないか確認するのよ」

「わかったわ。頑張る」


 それから私は変な人が家の周りにいないかキチンと確認していたのですが、何も起きないので段々おざなりになり、三か月経つ頃にはすっかり忘れて以前の生活に戻っていました。


「セリーヌあなた最近食べ過ぎよ?こんな事言うのは気が引けるけど、そのお腹はさすがにダメ。痩せなさい」

「え?そうかしら?毎日見てるとわからないのよね」

「あなたそれ妊婦みたいよ。まだ若いんだから運動しなさいよ」

「えぇ?妊婦?!もしかしてあのワラジムシの?」

「いやいや、違うわよ。たった三か月の妊娠初期でそこまでお腹出ないから。それはあなたの食欲の成れの果てよ」

「そうね。少し控えるわ」


最近すぐお腹が空くので何度も食べてしまって、気が付けば太っていました。


「これはさすがにダメよね」


家に帰り、裸で鏡の前に立ちましたがこれは酷い。今日から三連休なので運動でも始めましょうか。


その夜


「痛い、お腹が痛い⋯⋯」


お腹の痛みで起きました。只今午前零時。


「うぅ食べ過ぎのツケが回って来たみたい」


この時間では町医者は閉まっていますし、食べ過ぎでお医者さんへ行くには気が引けます。まだ我慢できますし、寝れば治るでしょう。


「痛い痛い痛いよう」


只今午前二時。少しうとうとして眠れると思ったら痛みが再来しました。


「もしかして病気?どうしょう⋯⋯でも自覚症状は今までなかったし、病気ではない?やっぱり食べ過ぎが原因よね」


午前四時


「あれ?急激な便意を感じる⋯⋯」


もしかして酷い便秘による腹痛だった?!よかったお医者さん行かなくて。恥をかく所だったわ。


「ふん!ふんふーん!出ない。頑固ですね」


午前六時


「う――!出たぁ!!――『ギャァ――』――うぇ?!何?!きゃあ!」


な、何でしょう?私から出た物から音がします⋯⋯怖いですが、一人暮らしです。自分で確認しなくてはなりません。


「ん?んん?生きてる?赤ちゃんじゃない!へその緒を切って洗わないと」


田舎ではヤギや牛などの家畜の出産に人が立ち会います。私は何度も経験があります。

何故か今それを思い出しました。ここにヤギはいませんけれど。


「綺麗になったね。タオルに包んでと⋯⋯?あれ?私が出産したの?あら?可愛いわ」


でもおかしいですね。人の妊娠の期間は九か月くらいあるはずです。お恥ずかしながら男性経験はゾウリムシ以外ありませんし⋯⋯


「も、もしかして私人間じゃなかったの?!ヤギ?違うわ、ヤギも三か月では産まれないわよ⋯⋯」


私って地球外生命体?あ、もしかしてこの子の父親がワラジムシだから?!


「何だそうだわ。安心したわ」


謎が解けてよかったです。でもこの子新生児にしては小さい様な。弟達が新生児の時はもっと大きかったはずです。それに⋯⋯


「背中に何かあるのよね。どうしましょう⋯⋯半分ワラジムシだし⋯⋯そうだ獣医さんに診てもらえばいいわ」


確か町の端の牧場に獣医さんがいると聞きました。もう朝の七時過ぎです。農家は朝が早いですし、会いに行っても大丈夫でしょう。赤ちゃんをしっかりタオルで包んで行きます。


「おはようございます。獣医さんに診察を頼みたいのですが」

「あら?おはようございます。どうされましたか?牛の出産ですか?今息子を呼んできますね」

「あ、いえ、今朝出産しまして、小さくて心配で、背中に何かあるので診てもらえますか?」

「おやまぁ早産かい?早く産まれると痩せてるから骨が目立つのかもね。あ、丁度よかったミカエル!こっち来なさい」

「おや?どうしました?」

「子牛が早産だったらしくて診て欲しいそうだよ」

「あ、いえ違います。牛ではなくて、この子ですね」


「「うん?」」


「この子なんです」

「赤ちゃんじゃないか。人の赤ちゃんは人間の医者に診せるべきでは?」

「それが人間ではないみたいで⋯⋯見て下さい、背中、ここです」


「「えぇ?!」」


「え、ちょって診せてくれる?動物が専門だけど、多少人の医療に覚えがあるんだ」

「お願いします」


どきどきしますね。大丈夫でしょうか?心配です。


「小さいけど呼吸は安定してるね。早産のわりに皮膚もしっかりしてるし、爪も髪も生えてる。この背中は⋯⋯羽なのかな?多分。神経も通ってるみたいだ」

「鳥ですか?」

「うーん。この子の父親は?」

「それがお恥ずかしい話、わからなくて。ワラジムシは鳥だったんですね」

「ん?わからないのかぁ。多分獣人なのかな?この国では珍しいな」

「あぁ獣人!そうですね」


この国では珍しいので忘れていましたが、遠い東の国には獣人が住んでいます。この子の父親は獣人だったのですね。


「安心しました。ありがとうございました」

「名前はどうするの?可愛いい男の子だね。銀色の髪が綺麗だよ。こりゃ将来楽しみだ」

「あんた!そんな事より出産したばかりの子がこんなに立ってちゃだめだよ!寝なさい!赤ちゃんが起きたら母乳あげるんだよ。いいね?」


「は、はい」


 ミカエルさんが家まで送ってくれました。それに使っていない赤ちゃんのおしめと服を何点か下さいました。今度お礼に行きましょう。


 家に着いた私は言われた通りベッドで丸一日休みました。幸いな事に母乳も出始め、赤ちゃんも元気でよく寝てくれて、小さく産まれたからでしょうか、私の体に不調はありませんでした。

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