6品目:ギルドの待合室にて(続き)
冒険者たちは、まだ興奮冷めやらぬ様子でリュシアを見つめていた。
瀕死だった男の呼吸は安定し、意識もわずかに戻りつつある。仲間たちが安堵の息をつき、互いに肩を叩き合っている。
「本当に助かった……ありがとう」
リュシアは特に気にした様子もなく、淡々と答えた。
「いいのよ。目の前で死なれても困るから助けただけ」
彼女はすっと立ち上がると、ギルドの待合室を後にしようとする。
その背に、先ほど騒いでいた冒険者の一人が呼びかけた。
「なぁ、あんた、本当にただの錬金術士なのか?」
リュシアは少しだけ足を止め、振り返ることもなく静かに言った。
「……ねえ、命は一つしかないのよ」
「……?」
「傷を治せば何度でも戦えるなんて、そんな都合のいい話はないわ。一度終わったら、それでおしまいよ」
それだけ言うと、リュシアは軽く手を上げ、ギルドの扉を押し開いた。
外の空気が、湿った血の匂いを吹き飛ばしていく。
6品目「雑貨屋の看板娘」
ギルドを出た後、リュシアは雑貨屋へと向かっていた。
《三日月亭》——街の中央広場近くにある小さな雑貨屋。
日用品や冒険者向けの消耗品、簡単な薬草まで扱っている、庶民にとって便利な店だ。
そして、この店には——
「——あっ、リュシアさーん!!」
突如、甲高い声が響いた。
(……来たわね)
リュシアが店の入口に足を踏み入れるや否や、奥から勢いよく駆け寄ってきたのは、店主の娘・ミレーネだった。
「もう! また来てくれたんですね! 私、待ってましたよ!」
元気いっぱいの笑顔。キラキラした瞳。
リュシアは内心でため息をついたが、表情はほぼ変えずに淡々と答える。
「別にあなたに会いに来たわけじゃないわ。買い物よ」
「えー、そんなの分かってますよ。でも、嬉しいことには変わりません!」
ミレーネはパッと笑顔になり、カウンターの前に立つと、嬉しそうに両手を広げた。
「さぁさぁ、今日は何をお探しですか! リュシアさんのためなら、うちの店にないものでも何とかしちゃいますよ!」
「そんな無茶なことしないでちょうだい」
リュシアは呆れながら、棚に並ぶ商品を見て回る。
(特に足りないものはないけど……ついでに、保存用の瓶でも買っておきましょうか)
彼女がいくつかの瓶を手に取ると、ミレーネが興味津々に覗き込んできた。
「もしかして、新しいポーション作るんですか?」
「まあね」
「ひょっとして、またすごい効果のやつですか!? 昔みたいに、魔力がこもって光るポーションとか!」
「……ただの保存用よ。そんな大したものは作らないわ」
「えぇぇ〜、つまんない!」
ミレーネが頬を膨らませる。
この子は昔からリュシアに憧れていて、何かと彼女の調合に興味を持つ。
「それで、リュシアさん! 今日は珍しくギルドに顔を出したって聞きましたけど、何かあったんですか?」
「……別に。ただの様子見よ」
「うっそだぁ! 絶対何かあった顔してます!」
ミレーネはニヤリと笑い、リュシアの表情を観察する。
リュシアは適当に受け流しながら、瓶を数本カウンターに置いた。
「これをちょうだい」
「はーい! お代は——うーん、リュシアさん特別割引!」
「だから、普通に受け取りなさい」
「えぇぇぇ〜、ケチ!」
そんな軽口を叩きながらも、ミレーネはしっかりと品物を包み、リュシアに手渡した。
「また来てくださいね! できれば、もっと楽しい話も聞かせてください!」
「気が向いたらね」
リュシアは小さく笑い、袋を受け取ると、雑貨屋を後にした。