4品目:月夜の工房にて
街外れの森のそばにある、小さな工房《月夜の調合屋》。
長い一日を終えたリュシアは、店の扉を静かに閉じると、大きく息をついた。
「……やれやれ、余計な仕事を増やしちゃったわね」
瘴気の森での一件。男の依頼を受けたとはいえ、結果的には余計な労力を使う羽目になった。
しかし、収穫もあった。瘴気を帯びた獣の爪や、貴重な魔力を持つ苔など、普段手に入らない素材を確保できたのは大きい。
「さて、せっかく持ち帰ったんだから、使い道を考えましょうか」
リュシアはポーチから素材を取り出し、工房の奥にある調合台の上に並べる。
木製の棚には無数の瓶や器具が並び、静かな室内には薬草や触媒のほのかな香りが漂っていた。
「まずは、この瘴獣の爪……そのままじゃ使えないわね」
魔獣由来の素材は強力だが、そのまま調合に使うにはリスクが大きい。まずは瘴気を抜き、素材として安定化させる必要がある。
リュシアは手慣れた手つきで薬液を調合し、爪を浸していく。
すると、じわりと淡い煙が立ち昇り、漆黒だった爪の色が徐々に透明に変化していった。
「ふむ……ちゃんと浄化されてるわね」
瘴気を抜いた後の爪は、魔力を吸収しやすい特性を持つ。これを加工すれば、護符や強化触媒として使えるだろう。
「……じゃあ、これは後で細工するとして」
次に手を伸ばしたのは、魔力を持つ苔。
「これ、何かに使えないかしらね……」
リュシアは苔を指先でつまみ、軽く擦る。すると、微かに光を放った。
(なるほどね……魔力の流れを安定させる効果があるのね)
こういう素材は、ポーションの保存期間を延ばしたり、魔法触媒として利用したりするのに適している。
「よし、試しに調合してみましょうか」
リュシアは薬草の棚からいくつかの素材を選び、魔力を持つ苔と組み合わせて、新しい錬成に挑むことにした。
小さな工房の中で、静かにガラス器具の音が響く。