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7話 夢の中で

 あの日のことを夢に見た。


 学校中の人間から白い目で見られ、避けられた日。

 学校という狭い社会の中で、社会的に死んだと思った日。


 僕は二メートル四方の透明で小さな箱の中で、彼らのことを見ている。 


「あいつ、自分の女に手ェ上げるらしいぜ」

「なにそれ、サイテー」


 大勢の人が話している中でも自分についての話は確実に聞き取れた。縮こまって、耳を強く抑えようとすればするほど、声は大きく響いた。

 

 わっはっは、ぎゃっはっは、ざわざわざわざわ……


 笑い声は体内に入り込み、僕を内側から蝕んだ。それらには目には見えない小さな棘があり、体内で跳ね返ると僕の内側はちくりといたんだ。

 

 やめてよ!!痛いよ!!


 僕の叫び声は彼らには届かない。まるで僕の言葉は通さないガラスが目の前に張られているみたいで、僕はそれをなんとかして破ろうと手を伸ばすが、手にはなんの感触も伝わってこなかった。


 あぁ、あいつらはまだ元気で学校に行っているのだろうか。

 死ねばいいのに。


 黒い心で僕は満たされる。無情にもその箱は僕の心の余裕がなくなっていくかのように、四方の壁が段々と僕の方へと迫ってきた。やがて両肩に壁が触れるようになり、体には外側から圧力がかかった。


 痛い、苦しい……


 僕はやがて、全てを諦めよるように目を瞑った。



「あ、起きた」


「ここは……?」


 目が覚めて、僕は上体を起こした。僕が寝ていたベッドの側には心配そうな表情を浮かべているあかねさんが、椅子を持ってきて座っている。部屋の中にはベッドが二つ並んでいて、それを除くと歩くスペースはほとんど残されていない狭い簡素な部屋。

 ああ、ホテルか、と直感的に察する。


「千枚田で柳川くんが気を失っちゃって、それから急いで金沢まで戻ってきたの」


 あかねさんの声は震えていて、今にも泣き出しそうなくらいだった。表情も、普段明るいあかねさんからは考えられないくらい悲しげだ。


「心配してくれて、ありがとうございます」


「本当だよっ、本気で心配したんだから!」


「すいません」


 僕が謝ると「いいよ」と小さな声で言うと、両膝に乗せていた手を僕の方へ伸ばす。その瞬間、ゾクっと僕の中で瞬時に何かが泡立ち、すぐさま手を避けるように僕は全身をずらした。

 本当に無意識な行為に、恐らくあかねさん以上に僕が困惑していた。


「……本当にごめんなさい」

「……こっちこそごめん」


 胸は依然、ざわざわと揺れていた。あかねさんにこんな表情をさせたくないのに。

 こんなこと。思い出したくないのに。


「一晩寝たらまた普段の僕に戻れますから、今日は寝ましょう」

「うん、わかった。」


 あかねさんは椅子を片付け、もう一方のベッドに入った。


「おやすみ」


 優しい声音でいうと、あかねさんがゆっくりと電気を消してくれた。

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