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6話 石川県/白米千枚田

 中世ヨーロッパ貴族風変人の襲撃があり、ひと段落。僕らは能登水族館を後にし、レンタカーに乗り込んだ。

 時刻は16時を回ろうとしていた。今日はもう金沢まで戻り、ホテルで休もうかと1人で考えていたところ、運転席の方からあかねさんが口を開いた。


「じゃあ次、私の行きたいところね」



 車は夕陽を追いかけるように走っていった。僕らはさらに北へ向かう。

 僕はこれから行く場所をタブレットで確認していた。


「千枚田ですか」


「そうそう、夕焼けと合わせてみると綺麗なんだって」


 確かにネット上には、夕焼けと共に映る棚田が、異世界にいるかのような風景を演出していた。


 あかねさんが立てた「行きたいところリスト」には、そういった風景が綺麗なところがほとんどだった。あかねさん自身も「景色が好き」と言っているくらいだから、旅の行き先もそう言ったところが多くなるのだろう。

 

 僕も景色、とりわけ自然が好きだ。地元の名古屋では車じゃないとそう言った自然に触れることはできなかったが、どうしても一人になりたい時……息苦しい時には電車を乗り継いで県外まで行っていた。


 そんな不自由さがあったからこそ、ふらりと車を使って行きたいところは自由に行ける大人が羨ましい。


「あかねさんは、これまでも旅行はしてたんですか?」


 僕は純粋な疑問と共に聞いてみた。するとあかねさんは「うーん」と明るい声音で唸ると、言葉を返す。


「……それは私の過去を詮索しようとしている?」


「あ、いえ、そんなつもりはなかったんです」


「ま、それくらいならいいよ。旅行は全然行ったこと無かった。大学の卒業旅行で友達とカナダ行ったくらいかな。それ以降はお金も時間もなくてね」


 初めて聞いたあかねさんの話は、あの日死神に見えていた人とは程遠い、人間じみた普通の話だった。


「じゃあ、なんで今更……」


 この旅のことや大金のこと、そして自殺のこと。一つ聞くと、聞きたいことは溢れてきた。

 だがそれを言う前に、あかねさんの発言が遮った。


「おっと、それ以上は黙秘だよ!もしそれを話すなら千枚田から突き落とす」


「あかねさんの殺すレパートリー突き落とすしか無いんですか!」


 触れられそうで触れられないあかねさんの存在は本当の死神のようだった。



 僕らは水族館から1時間半かけて目的地に辿り着いた。時刻は17:30。なんとか日の入の時刻には間に合った。

 駐車場にはぽつりぽつりと車が停まっており、駐車場の奥の方には、千枚田へと降りていく階段が続いているようだった。


「はやく!柳川くんはやく!」

「はい!」


 あかねさんは素早く駐車をするとあっという間に車を降りて階段のほうまでかけて行った。僕も後に続く。


 階段は思ったより長かったが、降りる途中にもその景色を見ることができた。


「綺麗ですね」


「私のこと?ありがとう」


「今そんなボケかまさないでください」


 そんな軽口を叩きながらも、僕らは目の前の景色から目を離さない。


 白米千枚田は、能登半島の北端、輪島市に位置している。つまり棚田の奥には、無限に続く水平線が広がっている。

 その水平線に夕陽は吸い込まれていく。沈む直前の夕陽は線香花火の玉のように丸く、それがスローモーションで落ちていく様だった。


 階段を下り切って、展望台の辺りで僕らはベンチに腰をかけた。周りを見渡すと、あかねさんと同年代くらいの大人の男女が3組ほど、僕らと同じようにこの夕焼けを眺めていた。


「ここ、デートスポットっぽいですね」


「んー、確かにそうかも。ごめんね、彼女じゃなくてこんなおばさんとで」


 僕はその一言で、ちょうど1ヶ月前のことを思い返してしまった。


「うっ……」


 頭痛と吐き気が同時に押し寄せて、僕はたまらずその場でうずくまる。


「柳川くん、大丈夫?」


「……は、い」


 しかし僕の意識はどんどん遠のいていき、僕の意識はそこで途絶えた。

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