第六十一話 弟子入り
復讐を誓いあって俺と美野里は別れて別の目的地に急いだ。思えばこの世界に来てから初めて離れ離れになるわけだが、寂しい思いをこらえて美野里は皆のために修行の道を選んだ。ならば俺は美野里の彼氏として出来るだけ早くウルティアさんの闇魔法を会得し、更なる強さを手に入れなくてはならない。
神殿へ急ぐ馬車の中、俺の心も逸っていた。
そして、神殿へ着くと俺達は急いで隠居しているウルティアさんの部屋に向かった。神殿長を務め、勇者を守るために両目を失ったウルティアさんは、これまでの功績の事もあってリリアンとヴァイオレットの介護を受けるなど、神殿から手厚く生活保護されていた。
最初にウルティアさんの部屋の前で俺達を出迎えてくれたのはヴァイオレットだった。神殿巫女のヴァイオレットは幼いのに相変わらずの全身スケスケ痴情衣装だった。王族のウィリアムにとっては既に知れた情報らしく特に驚くことなく顔色一つ変えなかった。だが、一応キャット・シー系の獣人貴族の生まれとはいえ神殿の内部まで入ることがこれまで許されていなかったパンにとってはかなり衝撃的なことだったらしく「えっちにゃんっ! おっぱいにゃんっ!!」とバカみたいに繰り返していた。ヴァイオレットは困ったような顔で笑うしかない。
だが、その気持ち。同じ男としてよくわかるぞっ! パンっ!!
俺はヴァイオレットの膨らみ始めた胸の形を見て、両手に残る美野里のプニ乳の感触を思い出さずにはいられなかった。
(多分、美野里と同じくらいのサイズだよな・・・・それでも流石にオッパイって存在感出しているよなぁ・・・・。やっぱり揉んだら美野里と同じくらいプニュプニュと気持ち良い感触しているんだろうか?)
なんてことを考えてしまうのは思春期の男の子の性である。しかし、優等生のウィリアムは顔色一つ変えずに「おいっ」と俺に肘打ちすると部屋の中に入るように促す。
そうだった。俺は遊びに来たわけじゃない。復讐を果たすためにここに来たんだ。
ウィリアムのおかげで自我を取り戻すことが出来た俺は「失礼します」と言ってから部屋の扉を押し開けて中に入る。
部屋の奥には潰れた目を見せないために黒い眼隠しをしたウルティアさんが椅子に腰を掛けて俺達を待っていた。
「・・・・・そのお声は剣一様・・・・?
いや・・・・しかし、その魔力は?
本当に剣一様でございますか? 我が娘から手紙を通じて話は伺っていましたが、俄かには信じられぬほどの変貌ぶり・・・。」
失明したウルティアは部屋に入って来た俺の声を聞き、俺の存在を確認した上で驚いた。ウルティアさんほどのレベルになると肌感覚で他人の魔力の質を感じ取れるのだろう。失明したとはいえ、まだまだ超一線級の実力者であることが伝わってくるのだった。
「お久しぶりです。剣一です。娘さんのご指導の甲斐あってここまで成長することが出来ました。」
俺が丁寧にあいさつすると、俺の変貌ぶりに驚くのが先だって挨拶が送れていたことに気が付いて「おお・・・。剣一様、お久しぶりでございます。」そう言いながらリリアンに支えられて立ち上がって挨拶しようとするので「いいから、座っていてください」と引き留める。
ウルティアさんは、「お心遣い傷み入ります。」と丁寧に礼を述べると再び腰をかけた。
「・・・・いや、それにしてもこれまでのことは娘からの手紙である程度、最近の事情までは伺っておりましたが神の祝福のおかげか、それとも娘の言う通り剣一様は千年に一人の逸材だったのか素晴らしい成長ぶりでございます。
剣一様は元々、邪神が目を付けるほどの禍々しい殺気を放つ御方でしたが、その魔力・・・・さながら暗黒神のような質で驚くばかりでございます。」
そう言われたので失明されたウルティアさんには見えないであろう俺の角をその手に触らせながら、俺の出自について話してもいい内容までは語って聞かせた。
するとウルティアさんは目隠した上でもわかるほど表情を歪めて驚き「なるほど、異世界の魔神の末裔・・・・なるほど。」と、納得しつつも「それほど霊的に貴重な存在が何故、勇者として・・・・それも聖女様と一緒に召喚できたのでしょうか? 不思議だ・・・・」と言って首を傾げるばかりだった。
そうして、ひとしきり不思議がったのちに「おお」と何かに気が付き、俺に尋ねた。
「そういえば、未だ今日、この老骨を訪れてくださった理由を聞いておりません。
まさか、ただの見舞いという訳でもございませんでしょう?
一体、何の御用でございますか?」
俺はウィリアムと顔を見合わせてから、落ち着いてこれまでの事を説明した。
ウルティアさんはアビゲイル先生からの手紙で学園生活までは知っていたようだったが、俺達が前線基地で何を体験したかまでは当然、知らなかったので、俺達の話に一々驚くのだった。
そうして俺は出来るだけ誠意を込めて
「復讐を成し遂げるためにどうか我が闇魔法の師匠になってほしいのです。
どうかアナタの秘術の全てを私に伝授してください。」といった。
門下に入るものとして最低限、そして最大限の礼儀を尽くして頭を下げて頼んだ。
おかしなことは何一つしていない。だが、周囲は「えええええ~~~~っ!」と、驚きの声を上げた。
「け、けけけ、剣一っ!
お前は何を言っているのかわかっているのかっ!
魔法のさわりを習うならいざ知らず、魔法使いの本来、家伝として秘する秘術の全てを伝授しろって言うのは・・・・つまり『娘さんを私に下さい』と言っているようなもんだぞっ!?」
「はあああああ~~~っ!? い、いや、俺はそんなつもりで・・・・知らなかったんだっ!!」
「うにゃ~~~っ!! 剣一様っ、酷いにゃんっ!
いきなり浮気にゃんっ!! 後で美野里様に言いつけてやるにゃんっ!!」
「パンっ!! 話をややこしくしないでくれっ!!」
どうやら、この世界において魔法の秘術を教えてくれと頼むのは、その家伝を継ぐ=娘を嫁に貰うにあたる言葉らしい。そうとは知らぬ俺は誤解を招いてしまって大慌てである。
・・・・・いや、あの爆乳を嫁に貰えるのならいい話かもしれん。それこそ、異世界だ。第二夫人とかウィリアムだって候補があるくらいだし、許されるかもしれん・・・・。
いやいやっ! 俺には美野里という世界で一番愛らしい女がいるっ!!
他に女なんか要るものかっ!?
などとバカな葛藤をしている俺の気持ちなど知らぬ風にウルティアさんは「ふ~む。秘術を・・・・それは困りましたなぁ・・・」などと、口にした。
「い、いや。俺には美野里がいますのでそれは・・・・」
と、俺が誤解を解こうとした。しかし、ウルティアさんはそんなことは気にしていないようだった。
「ああ・・・・・いえ。そう言う事ではありません。
何でも娘のお話だと剣一様の魔法の腕は既に人外。無詠唱で魔法をお使いになられるとか。
今さら私が何のお力になれるでしょうか?・・・・・」
と、酷く真面目なことを考えていた。
それからしばらく考えたのち、「では、まず皆様の魔術の腕を見ましょう。庭に出て闇魔法を見せてくださいませ。」と言うのだった。
そして、リリアンとヴァイオレットに付き添われ庭に出たウルティアさんは2人に頼んで庭に4つの石像を用意させた。
「腐食魔法は既に習得されておられますな?
少し、出来栄えを見せていただきましょうか?」
ウルティアさんはそう指示した。俺達は言われた通り闇魔法で石像に腐食の呪いをかけた。
結果として魔法の才が風魔法に偏っているパンは石像の一部だけを溶かし、ウィリアムは石像の三分の一を溶かし、俺は8割がたを溶かして見せた。
ウルティアさんはその石像を掌で撫で、感触を口にする。
「ふむ。ウィリアム様とパン君は今のままでよろしかろう。未熟ですが成長の余地がございます。
しかし・・・・問題は剣一様ですな。
闇魔法の中にも殺気が強すぎてその効果を引き出しきれておりません。これでは腐食魔法ではなくただの破壊魔法です。」
そう言って窘めると自分も石像を相手に腐食魔法をかける。すると石像はドロドロと時間をかけて溶けだし、その台座ごと完全に消えてしまうのだった。その光景に俺達は驚きを隠せなかった。
「どうか・・・・頭を伏して頼みます。
どうか・・・・・どうか師匠として俺をお導き下さい。」
いつしか三人とも師匠の前に跪き、頭を下げて頼んでいた。




