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第三十五話 シャウシュカ

(※第三十五話が投稿ミスで三十六話を投稿しておりました。大変申し訳ありませんでした。今後、このようなことがないように注意しますので、今後とも本作をよろしくお願いいたします。)


 俺達の作戦会議が終わるころ、ウィリアムは、こちらの作戦を警戒するだけ時間の無駄だと悟ったらしく、再び陣を動かした。

 それを迎え撃つかの如く俺達は陣地を駆けだした。


「あっ!?」


 それを競技の場の外で見ていた生徒たちが驚きの声を上げた。

 そうして悠々と歩いてくるウィリアムの陣営と駆けて迎え打とうとする俺達の陣営は、俺達が守るべき陣地から少し離れた場所で激突した。


 いや。激突するというのは不適切な表現かもしれない。

 何故なら俺達の陣営は炎の壁、土の壁、氷の壁を築いて守りに徹するだけなのだから。あまりにも消極的な作戦。

 ウィリアムは俺達の建てた壁を見て顔をしかめた。


「先ほどと同じ作戦か?

 いや、剣一がそんな愚行を(おか)すわけがない・・・・。

 だが、全員怪しむ必要はない。打ち砕けっ! 魔法力はこちらが上回っている。

 敵の策など噛み砕けっ!」

「おおっ!」


 ウィリアムの掛け声に応じて総員が壁に向かって攻撃を仕掛けて破壊する。

 その中でもウィリアムの攻撃速度は異常だ。他の生徒の倍以上の速度で魔法を重ねてくる。

 呼吸法を用いる魔法手順でこの速度がありえるのか? と、俺は目を疑った。


「にぁあああんっ! と、とても無理にゃん!!」


 壁を破壊される前に直ぐに後退する作戦だが、パンが得意な風魔法は壁として使うには相性が悪いらしく、逃げる間もなく壁を突破されかかって、一度攻撃を受けて音を上げた。


「パンっ! 諦めるなっ!

 足を止めるなっ! 俺が必ず守ってやるっ!」


 皆の後方に陣取る俺の役目は全員のサポートだ。後退が遅れそうな者の前にファイアーウォールを作って後退を援護する。


 しかし、パンの悲鳴は敵に攻めどころを教える格好の材料となった。


「皆、パンを狙え! この壁が一番脆い!」

 ウィリアムの仲間はこのクラスのエリート揃いだ。ウィリアムの指示を待つことなくうちのメンバーで一番弱いパンに狙いを定める。


「うにゃあああっ! み、皆、酷いにゃん!!」


 パンはもう必死だ。

 だが、意外にもその壁は厚く、総攻撃を仕掛けても中々攻めきることが出来ない。

「クソッ。しぶといニャンコちゃんめ~っ!」

 そう言いながら、あと二回攻撃を当てれば、被弾3回でアウトのルール上、パンを脱落させられると意気込み攻撃を仕掛けていたウィリアムのチームはやがて、異変に気づきだす。


 攻めきれないのは、おかしい。


 異変に最初に気が付いたのはウィリアムだ。

 そして次にウィリアムのチームメイト。

 最後にパンが気が付いた。


「うにゃ? な、なんで皆は、ぼくの壁を壊せないのにゃ?」


 パンも訳がわからない。俺達の陣営はもう後退に後退を重ねて既に陣地にまで追いやられている。なのにここに来て誰も脆弱(ぜいじゃく)なパンの防御壁を壊せなくなったのだ。

 

「ぼ、ぼく。本当はとっても強かったにゃん?」


 パン自身が呆然としながら自分の作った風の壁をみて首を傾げた。それほど異様なことだったのだ。

 ウィリアムは考える。

 これにはなにかカラクリがあるはずだと。なんの理由もなくパンが強くなるわけがない。

 そうして次にウィリアムは周囲を注意深く観察した。自分たちの陣地、俺達の陣地。そして自分たちが攻撃してきた進路を振り返って、どこかに何か仕掛けがあるんじゃないかと疑った。


 そうして魔法の壁に阻まれた俺達の陣営を見て、ハッと思い当って天を見上げ、それから憎々しげに恨みの言葉を言うように怒鳴った。


「・・・・そういうことかっ! やってくれたな、鬼谷剣一っ!

 明星(みょうじょう)神シャウシュカの加護陣形っ!」


 さすがはウィリアム。俺達の魔法の壁に阻まれて全容が見えないだろうに、俺達の退路の軌跡と方角から全てを察した。

 これは破軍の星。敵に明星の加護のある方角に攻め入らせ、その神罰によって敵を敗北せしめる呪術的兵法。

 弓が得意なオースティンは地元で猟師たちと狩りばかりやっていたという。闇夜に活動することがある猟師は方角を見失わないように星を観察するので星座に対する知識がある。オースティンは猟師たちから星座のあれこれを聞かされていたのだろう。星座には詳しいようで陣形を説明した時一目でこの陣形に気が付いたが、ウィリアムはその陣形の全容を見ることなく俺の策を見抜いた。どうやらこいつは兵学においても類まれな才能が有るらしい。マジで完璧な王子様だな。

 

 しかし。策は成った。俺は勝利宣言のように勝ち誇って、俺の策を見抜いたウィリアムを褒める。


「その通り。こちらの陣形の全容は壁に阻まれて見えないのによく気が付いたな。

 剣に魔法に知識に美貌に血筋・・・・おまけに人格者ときた。全く何一つ持ち合わせていないものがない。

 化物か、お前は。」


「それはこちらのセリフだ。剣一。お前がこの世界に来たばかりだから、まさか明星神シャウシュカ様のことを知っているなど思いもしなかった。

 油断したよ。そして、魔法に馴染みのないお前に対して手加減をしようとしていた自分の甘さを呪うよ。」


 ウィリアムは俺の賛辞に答えた。そして、不敵に笑って「ただし・・・」と、言葉を付け加える。


「ただし、剣一。お前知っているか? この世には完璧なものなど存在しないことを。

 攻め方には守り方があり、守り方には破り方がある。

 破軍の星の呪術にも破り方があるという事を。」


 ウィリアムはそう言うと右手で天を指差し「破軍の星が発動するには敵が攻め来る入角に条件がある。」と言い、次に挙げた右手を肩の高さに下げてやはり右方向を指差した。

「うにゃ? なに? ウィリアム君、右に何があるにゃ?」

 意味が解っていないパンが首をかしげるが、精鋭ぞろいのウィリアムの仲間たちはウィリアムが何も言わなくてもその意味を察し、ウィリアムと共に右手方向に進みだした。


 方違(かたたが)え。

 ウィリアムがやろうとしていることは陰陽道に伝わる方角の呪方と同じ手法だろう。

 陰陽道とは一言で言うと宗教的天体学のことであり、人の運命を司る星座にまつわる神々のことを学び、その星座の方角によって生まれる吉兆を利用したり不幸から回避するための呪方である。

 そうして方違えとは、天体の位置を把握し、その星々の生み出す不幸から身を守るために進行方向を一度変えることだ。太陽神の方へ向かわぬように進軍方向を変更した神武東征(じんむとうせい)のように、敢えて目的地とは違う方向に進むことで『方向』が『違う』向きになるように操作する呪方を『方違え』という。


 天体の神の力を利用する以上、異世界パノティアにおいてもその原則は変わらないらしい。その天体の位置する方角に対して入角を変えることで『破軍の星の陣』が持つ呪方の発動条件を変える。それがウィリアムが進軍方向を一旦、右にずらした理由である。


「剣一様。ウィリアム君は気が付いてしまいました。

 あの方角から攻撃されたら、俺達、ひとたまりもありませんよ。」


 星座に詳しいオースティンがそう言うと悲観的なアクセルが「もう、お終いだ。」と泣き言を言い出した。ケレイブはしかし、それを(いさ)める。

「バカ言うな。剣一様は俺達を勝たせてくれると仰った。信じろっ!」

「うにゃ。ぼくも信じるにゃん。」

 パンもそれに続いた。


 しかし、ウィリアムの陣営はついに破軍の星を発動させない完璧な位置に移動を完了させた。

 ウィリアムは言う。


「さぁ、これで終りにしよう。決戦だ、剣一。お前と無事遭遇して戦うことが出来るな?」


 こいつ。つくづく俺のこと大好きだな。

 だが、悪いなウィリアム。そうはならないんだな、これが。


「ウィリアム。見事だ。これで本来ならお前の勝ちが確定だろう。」


 俺の言葉にウィリアムが足を止める。

「・・・・本来なら・・・だと?」


「そうだウィリアム。お前、最も大事なことを忘れているぞ。」


 俺は試合を監督しているシンディー先生に向かって言う。

「これは魔法戦。そうですよねぇ、シンディー先生?」

「・・・・・はい?」


 シンディー先生も一瞬、何の話か分からない様子だったが、俺が壁にかけられた時計を指差すと「あははははっ」と嬉しそうに笑った。


「時間です。精霊の密度を下げられる限界時間30分を過ぎました。試合終了時間です。」


 ウィリアムも「あっ!」と慌てて時計を見て、それからうんざりしたように「お、お前なぁ・・・・」と言った。


「取った陣地はお互い2つ。ルール上は引き分けかも知らんが、失った兵はこちらが一人少ない。

 実質的に俺達の勝利だ。」

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