第二十七話 希望
俺は美野里との家族計画を妄想し、未来に希望を見た。
・・・だが。
・・・・・・だが、なんかおかしい。なんか違和感があるな。
うーん。なんだ? 俺は一体何を見失っているんだ?
ま、いいか。それに関しては後に考えるとして、今は行動あるのみっ!!
「み、美野里。俺達、これから連携とって戦う訳だろ?
だったら、これから授業以外の時間も一緒に自主練しないか?」
俺はワザと先生にも聞こえる程度の声で美野里に誘いをかける。
ここで先生にお墨付きをもらっておけば、美野里も嫌とは言えまい。そうなったら俺の物だ。
だが、俺の言葉を聞いて美野里も先生もキョトンとした目で俺を見る。
え? 俺、そんな変なこと言ったっけ?
それとも下心見え見えの態度だったか? い、一体なぜ。そんなキョトンとした表情をしているんだ?
「あ、それとも放課後はもう予定決まっていたか?
ならいいんだけど。」
少し不安になってきたので引き下がろうとした時、先生は衝撃的なことを言う。
「あの・・・・。聖女様は戦いませんよ?
聖女様は清浄の光で世界を清めることがお務めで、その露払いとして前線で戦われるのが勇者様のお務めです。」
は?
「ですから、美野里様と剣一様が共に戦う機会という事は全くございません。」
え?
「・・・・・ええと。私、なにか剣一様が誤解されるような説明をしましたでしょうか?
ともかく300年に一度しか召喚できない聖女様を前線に送るなんてそんな破滅的な作戦はありえません。」
「・・・お、おお・・・・・そ、そりゃそうか。
相手は300年に一度しか・・・・・ん?」
想像していなかった。でも作戦的に考えて極々当たり前な正論をぶつけられて、若干、我に返った俺は今頃になって驚きの真実に気が付いてしまった。
「ま、まて。そう言えば美野里の前までに55人の聖女が召喚されてるって言ったよな?
て、ことは・・・ええと16500年前に最初の聖女が召喚されたってことか?」
「えっ!? 16500年前?」
俺の言った数字を聞いて美野里も驚いた。そう、俺達は何気に聞き流していたけれど16500年前と言えば日本なら縄文時代の前・後期旧石器時代まで遡る。つまり、この世界はとんでもない年月をかけて魔物と戦い続けているという事だ。
俺と美野里は思わず顔を見合わせてから、先生の方を向いて説明を求めた。
先生は答える。
「はい。そうですね。最初の聖女様は今から1万6千500年前に召喚されたことになりますね。
途轍もなく長い時間を我々は戦ってきています。
聖女様が清浄の光をもってアアス神が放つ瘴気によって穢された大地を浄化し、何度も人類の生存圏を取り戻してくださいましたが、それも300年のうちに逆転されてしまうのです。聖女様も次に召喚できる300年までの間、生きられるわけではありませんから。」
「・・・出口の見えない戦いだなぁ。まぁ、ボク達のいた異世界では人間同士の戦いを数万年前も続けていた事を思えば、随分マシな気がするのだけどね。」
「だな。あ、そういや美野里の前任55人の聖女って、どういう最後を迎えたのかな?
俺たち勇者の末路は戦死って決まってるだろうけどさ。」
俺が破滅的な未来を言うと先生は肩をすくめて軽く笑った。
「いいえ。聖女様が健在なうちは魔物も勢力が弱まりますから、聖女様と勇者様の連携が上手くいった場合は勇者様も天寿を全うされる実例があるんですよ?」
俺は、その一言に自分の意識がひっくり返る思いがして思わず「マジでっ!? 俺、生き残れるかもしれないのっ!?」と叫んでいた。
先生は答える。
「ええ。そのためにはお二人ともしっかり魔法の修業をしましょうね?」
俺は興奮して美野里の肩を抱いた。
「やろうぜっ! 美野里。
血反吐を吐くほどの猛特訓をっ!!
世界はお前の肩にかかっているっ!!」
「ええええ~~~~っ!? さ、さっき頑張りすぎるなって言ったのに?」
この世界に召喚されてから、魔王と戦う運命にあることと戦いの中で死ぬこともやむなし。というような人生を受け入れるしかないと思っていたからだ。
その時から俺の頭の中では、地球で悲惨な目に合っていた美野里を出来るだけ守ってやろう。命に代えても美野里を守るしかないと思っていた。だが、生き残る可能性がある。それも美野里のおかげで!
それを知った時の俺の感動はいかほどのものか、誰にもわかるものではないだろう。
正直、勝手に自分は戦いの中で死ぬしかないと思い込んでいた。
これまでウルティアの父子の手によって127人も送り込まれた勇者。その全てが戦死である。言ってみれば勇者は消耗品なのだ。
だから、帰還が無理なこの世界に来た以上、いずれ戦いの中で死ぬんだと思っていた。自分でも戦闘狂の分類に入ると思っていたから、「仕方ねぇなぁ。死に花咲かしてやろうか」くらいの覚悟でいたけど、でも。
俺は生き残れるかもしれない。
そう思ったら嬉しくなってくるんだから、命が惜しくなってくるんだから人間って勝手なもんだよな。
そして生き残るために俺がやるべきことは美野里に頼り切ることじゃない。
「先生。清浄の光って使えるようになるのに最大で6年と言いましたね。じゃぁ、極めるのに遅くて何年かかるんですか?」
アビゲイル先生は俺の声がマジなのを察知したのか、誤魔化すことなく真実を語ってくれた。
「清浄の光は聖女様にしか使えない魔法ですから魔法の難易度は超高々級と言ってよいでしょう。何より聖女様ではない私達には本来、聖女様に清浄の光を発動させる方法など教えようがないのです。故にこれまで聖女様の遺言に残された清浄の光を発動させるコツのような物を次の聖女様に語り伝えていって、それを元に聖女様が独自解釈をして修行していただくよりほかないのです。
そのやり方でどれくらいの月日がかかるかはわかりません。ただ、最も遅くて10年前後は覚悟していただかないとなりません。」
10年。その頃、俺は27歳。まだまだ全然戦える年齢だ。むしろ強さのピーク前と言っていいかもしれない。全然、待てる時間だ。
「美野里、聞いた通りだ。さっきはああ言ったけどさ、清浄の光ってのはやっぱり半端ねぇ。習得には10年はかかるかもしれない。
だから俺は先に強くなるぞ。お前が中々習熟出来なくて焦ったり、周りの期待や重圧に潰されないように。お前が清浄の光を放てるようになるまで俺は生き残れる強さを手に入れて見せる。
だからお前は自分のペースで修行に励んでくれ。」
「・・・う、うん。」
美野里はそれでも若干、顔を引きつらせていた。重圧を感じているんだろう。少し可哀想なことを言ってしまったのかもしれない。でも、どの道、美野里は清浄の光を習熟しなくてはいけないのだ。この重圧から解放されるには魔法を使いこなせるようになってもらうしかない。俺達には訓練の日々しかない。
その後。授業を終えた俺達は制服に着替え直し、別れの挨拶だけかわしてそれぞれの寮へと戻っていった。
男子寮に戻ってすぐに俺がやるべきことは魔法と戦略の勉強である兵学の勉強をすることだ。
アスモデウス神の祝福を受けた俺には、魔法理論の勉強は二の次で、先ずはこの世界の戦争知識を高める必要があった。所長に渡されていたバッグの中から本を出すと机に並べ、その中から兵学の本を抜き取るとペラペラと読み進めていく。




