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第二十四話 円環

 アビゲイル先生はいう。

「清浄の光。それはその名の通り光の精霊の力を借りて発動する魔法です。

 実はこの魔法を聖女様は召喚された時から使うことは出来るのです。理論上は。

 しかし、異世界からこの世界に来た人たちに、世界の(ことわり)自体が異なるこの世界の魔法をいきなり使うことなど不可能なのです。

 私どもが伝え聞くに、これまで14人。魔法の存在する異世界から召喚された聖女様がおられましたが、その聖女様達でも訓練しなければ清浄の光を放つことができなかったと聞きます。

 そして、これまでに55人の聖女様がこの世界に召喚されましたが、清浄の光を放つことができるまでに最短で6ヶ月。平均で2年。長くて6年かかったと伝え聞いています。」


 その期間の長さを聞いて俺達は驚きの声を上げる。

 

「6年っ!? それは気の長い話だ。」

「清浄の光が使えるようになるまでに6年・・・・。」


 美野里は清浄の光を使えるようになるまでの年数の重みもさることながら、それがゴールでないことにもキチンと気が付いていた。


「使えるようになるまでに最長で6年と言ったけれど、それは『使いこなせるようになるまでにかかった年数』ではないのだよね?

 そして、最初にこの神殿に(こも)って6年修行して。さらにそこから数年間この神殿で修行する・・・・と?」

「うっ、マジか・・・・それはもう幽閉(ゆうへい)に近いな。」


 美野里の境遇を聞いて俺は同情を隠せない。

 美野里は今年の誕生日を迎えると俺と同じ17歳になる。そんな年齢で幽閉されるのはあまりにも不憫(ふびん)だ。

 美野里の顔がシュンと暗くなる。それをみて俺は慌ててフォローを入れる。


「で、でもさ。それって最悪の事態の話だろ?

 上手くいけば最短の6ヶ月とは言わなくても2~3年で使いこなせるようになるかもしれんぜ?

 気を落とさずに前向きに行こうぜ? なっ?」


 俺がフォローを入れるとアビゲイル先生もフォローを入れる。


「そ、そうですよ。美野里様。

 それに神殿の中って結構快適ですよ。生活の全てを私達が責任もってお世話させていただきます。」

「おおっ! そ、それは(うらや)ましいっ!

  夢のハーレム異世界転生だぜ?」


 その一言はよけいだったらしく、美野里はちょっとムッとした顔をして「バカ」と小さく呟いてから話を変える。


「で、具体的に精霊を体に取り込むというのは、どういう事なんだい?

 つまりだね。ボク達は魔法も精霊もない世界にいたわけだよ。どうやって精霊という者を感じ取って体に取り込めばいいのか見当もつかないのさ。」


 そう言われてアビゲイル先生は、慌てて授業を再開する。

「ご安心ください。美野里様、剣一様。

 この世界の者でも初めからは魔法が使えたりしませんし、不得手な者は大勢います。

 そういう者たちのための指導方法は確立しております。それでは授業の本題に入りましょう。」


 アビゲイル先生はそう言うと黒板に7つのキャラクターが書かれた紙を貼り付けた。

 それぞれのキャラクターは羽が生えていたり、杖を持っていたり、ろうそくを持っていたりしている上に、とても可愛らしい絵柄で描かれていて、一目でそれが精霊なのだとわかる。


「精霊を体に取り込むためには、まず、精霊の姿を心の中で正しくイメージしていただく必要があります。

 黒板をご覧ください。

 お花の冠をかぶっているのが地の精霊です。

 水色の羽衣をまとっているのが水の精霊です。

 ろうそくを持っているのが火の精霊です。

 背中と足に羽が生えているのが風の精霊です。

 白と黒のストライプの衣装を着た巻き毛の子が雷の精霊です。

 背中に羽を持ち、杖を持っているのが光の精霊です。

 真っ黒なとんがり帽子をかぶって枯れ木の枝を持っているのが闇の精霊です。」


 黒板の絵を見て美野里が「わぁ、可愛いっ! 精霊ってこんなに可愛い姿なんですね。」と歓声を上げる。

 するとアビゲイル先生は顔を真っ赤にしながら、

「いえ。この絵は私が描いたもので、あくまで私のイメージです。」と言った。


「え? これ、アビゲイル先生が描いたの?」

「凄いっ!! 絵の才能半端ないなっ!?」

 俺達は先ず、先生の絵に驚いたが、すぐに一つの疑問に行き当たった。


「これはあくまで先生のイメージって言いましたけど、それはどういう意味なんですか?」


 アビゲイル先生は自分の絵が思いの外、反響が良かったことに照れたのか、真っ赤な顔のまま説明をしてくれた。


「実は精霊を見たことがある者は一人もいません。それは精霊が目に見えないくらい小さいからと言われています。

 ですから、先ほど精霊を体内に取り込むときに精霊の姿を正しくイメージする必要があると申しましたが、それは術者本人がイメージしやすい姿形を(あらかじ)め作っておく必要があるからです。

 精霊の姿形をイメージしてから取り込むのと、イメージせずに取り込むのとでは、その効果に雲泥の差が出てしまうのです。

 その理由はわかりませんが、とにかく個人個人が考える精霊の姿をイメージできないと精霊を取り込むことが難しいと、数々の実験で明らかになっています。」


「なるほど。」


 美野里は納得すると、黒板を指差しながら「このイメージはボクも想像しやすいです。これを参考にさせていただきます。」と言った。

 先生は満足そうに「ありがとうございます。」と言うと、今度は精霊を体内に取り込む為の呼吸法を教えてくれた。


「人間の体には魔力の通り道があります。頭の頂から足の(かかと)までを貫く一本の輪があって、そこを魔力が循環(じゅんかん)するイメージをしてください。

 それが出来たら次に世界に散らばる精霊が自身の体の外から自分の頭に入って来て足の踵に抜ける超巨大な一本の円環(えんかん)があることを想像してください。

 その円環が想像出来たら、次にまた自分が欲しい精霊がその輪を通って循環するイメージをしてください。

 精霊を体内に取り込むとき、その精霊が自分の体を通る速度はイメージの問題なので個人個人それぞれにございますよね?

 その精霊が通うリズムに呼吸を合わせることがとても重要です。ですが呼吸速度は問題ではありません。

 大切なのは精霊とリズムを合わせることなのです。」


 アビゲイル先生の説明はまるで東洋の「経絡」や「気」の思想に似ており、俺を感心させるのだった。

 紀元前6世紀に端を発するとされるインドヨーガの呼吸法。

 中国発祥の道教(どうきょう)()いて仙人になる方法として鍛錬される呼吸法。

 日本でも神道や修験道(しゅげんどう)に於いて祈祷(きとう)の際には細かな呼吸法が指定されている。


 これらはどれが起源という事はない。古代人にとって呼吸とは生きている証であり、呼吸とは生きる力を得る方法であり、魂を進化させる技術として発展していったものだった。

 それらの根本は空気中にある神気および自然界の気を我が身に取り入れる方法だ。この世界ではそれが精霊を体内に取り込む方法なんだ。

 肌から直接吸収するわけでもなければ呪具を使って二次摂取(せっしゅ)する方法でもない。呼吸をもって吸収するのだ。


 神仏習合の教義を密かに守り伝え、密教的な加持祈祷方法も習っていた俺にはこの円環のイメージは近しい存在で身に付けるのは難しくないように思えた。

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