第二十三話 魔法学
勝負は終わり、俺とウィリアムは友情を誓い合った。
そうして、そんな俺達の姿を見て安心したのか美野里が近づいてきた。
「剣一君。君、ルールも確認しないで試合なんかするからこんなことになったんだよ。
気を付けないとダメだぞ。」
いきなり怒られた。
腕組して俺を睨みつける姿は可愛いけど、他に言うべきことがあるのではないだろうか? と、俺は不満に感じざるを得ない。
「まぁ、いいじゃねぇか。
天才から2本とった。良いところを見せられただろ?」
俺が自信たっぷりにそういうと美野里は嬉しそうに笑って「そうだね。女子たちの中から、何人か君の事いいねって言っていたぞ!」なんて報告してくれる。
いい報告だ。待ち望んでいたような報告だ。
女子にモテモテ。これこそ青春。これこそ男の願望・・・・だが、何故だろう。あんまり嬉しくない。
しかし、そんな自分の心の違和感を俺の心はどこかで気が付いていたようで、「・・・・そういうことじゃねぇんだけどなぁ」と無自覚に呟いていた。
「じゃあ、どういう事が言ってほしかったんだい?」
と、耳ざとく聞いていた美野里が尋ね返してきた。
「・・・ん?・・・・さぁ、どういうこと言ってもらいたかったんだだろうなぁ・・・・
自分でもわからん。どう言って欲しかったんだ? 俺は。」
「?」
俺の珍妙な問い返しを怪訝な顔で聞いていた美野里だったが、そんな美野里にウィリアムが話しかけて来た。
「我が校へようこそ聖女様。
お姫様にステキな勝利を捧げたかったのですが、いささか私の友人は意地悪で勝たせてはくれませんでしたが、それでも楽しんでいただけましたか?」
ウィリアムは膝をかがめて美野里の前に跪くと、その手を取って挨拶をした。
美野里はウィリアムの美顔に見つめられると、照れてしまうのか
「や、やめてくれたまえ・・・・・聖女様だなんて。
あの・・・・どうか、共に学ぶ学友としてボクも剣一君と同じように名前で呼んでくれたまえ。」
と、顔を真っ赤にしながら訴えた。
おいおい、何してくれちゃってんだよ。ウィリアム君よぉ。
お前なに? 物語に出てくる王子様なの? いや、本物の王子様か。
とにかく美野里に変な真似しないでくれないかな?
とかなんとか考えていると、他の同級生たちも美野里の周りにワラワラ寄って来て、美野里をもてはやしているうちに何故だか全員で「聖女様、万歳」が始まりだした。
誰も俺に見向きもしない。
どうやら剣士としての実力を見せても彼らが邪神と信じるアスモデウス神の祝福を受けた俺のことは認めたくないらしい。
ま、それならそれでいいけどな。
俺にはウィリアムと美野里がいてくれたら、それで楽しい学生生活が送れるんだから・・・・。
しかし、大人たちは俺の魔法適性が二つあることと武術に優れていたという点は大いに喜ばしい事だったようで、教師たちは俺を歓迎してくれた。
体育の授業が終わると俺達の同級生たちへの正式な転入の挨拶は後日に回し、とりあえず同級生たちは学科の授業に移ることになった。俺達は学科に参加しないのだ。
何故なら、そも科学が未開のこの学問所に来て学ぶことなど大してないのだ。普通に高校通ってそこそこ成績もよかった俺が科学の存在しないこの世界で低レベルな算数の授業なんぞを受けても地獄なだけだ。絶対に寝ると思う。
だから、俺達は学科の授業を受けない。これがちょうどいい塩梅ってことだ。
それに俺達は特に魔法などの基礎を学ぶために学問所に来た。
だから魔法と武術以外の授業は基本的に免除されて同級生たちが学科などの授業を受けている時間に、俺たち二人は特別授業を受けることになる。美野里なんかは更に時折、武術の時間は俺と別れて聖女のための特別訓練も受けるらしい。美野里が受けるという聖女としての訓練とは何のことだろうか? 少し気になるので今度聞いてみよう。
さて本来、俺達だけが特別授業の指導教員は特別に選ばれた教師が指導にやって来る。
ただ本日は「ならし」ということもあって、所長が気を使ってくれて授業をつける講師には既に顔見知りになっているアビゲイルが選ばれた。
俺達は、まず魔法訓練場全体を案内され、建物内部の説明を受けた。魔法訓練場には座学教室と実技教室の二つがあって座学教室は本当に地球にあった普通教室のサイズだったが、実技教室は体育館くらい大きい施設だった。実技教室の高さは3階建ての建物ほどある上に広さもかなりある。バスケのコートが3つくらいは置けるんじゃないだろうか?
地面は土間でこれほど広い施設なのに天井を支える間柱は一本もなく、外壁だけで支えているようにすら見える。美野里は「木造建造物で間柱の存在しない大きな施設をどうやって作るんだろう」と不思議がっていたが、まぁ、どうせ魔法の力なんだろうな。ここは魔法訓練場だし。
ま、それはさておき、アビゲイル先生の魔法授業が始まった。
座学は意外にも興味深いものがあった。
アビゲイル先生は言う。
「この世界には目には見えないだけで、この世界を創造した男神ウルと女神アアスとの間に生まれた数多くの精霊の子孫が常に全ての空間に存在していて、その精霊たちが世界の流れを構築しています。
その精霊は全てで7種類。地・水・火・風・雷・光・闇の7大精霊が複雑に影響を起こしあい、自然現象を起こしています。この話はお二人が召喚された日に父から説明を受けたと思います。
され、では問題の魔法ですが、簡単に言えば大気の中にいる精霊たちを呼吸をするように自分たちの体に取り込んでから、彼らの力を借りて奇跡を成す方法のことです。
精霊たちを体に取り込むためには魔力が必要になるのです。」
そこまで説明を受けて俺は何となく魔法の理屈が理解できた。
「アビゲイル先生。魔力に属性があり、その属性によって個々人に得意不得意の魔法が生まれるという理由とはつまり、精霊を体内に取り込む際に自分の体と同じ属性の精霊の方が効率よく吸収できるとか、そんなところですか?」
アビゲイル先生は俺の質問を聞いて「ええっ!! ええっ、そうですっ! たったこれだけの説明でよくお分かりになられましたねっ!」と、感心した。
そしてそれから「体内に取り込むことができる精霊の量はその人の魔力量に左右されます。」といって魔力モンスター美野里のほうを見つめるのだった。
美野里は、魔力を透過させることができる水晶玉を一瞬で破壊してしまった。
美野里の魔力量は正に規格外。それほどの魔力量をその小さな体に秘めた美野里が空気のようにそこかしこに存在する精霊を取り込んだとしたら、一体、どれほどの量の精霊を吸収できるのだろう?
それはきっと、このパノティアという世界に住む人間すべての関心事項であり、期待する所であった。
ただ手放しに喜べない事態も起きている。
それは美野里の魔力は一瞬で魔法属性を判定する水晶玉が割れてしまったので、実は美野里の魔法適性が清浄の光以外にも適性があるかもしれないのだった。
美野里の魔力は強大すぎる。もし俺のように美野里にも複数属性に適性があった場合、属性無分別に精霊を吸収してしまいかねない。そうなると大量の魔力を有していながら、清浄の光を放つためだけに効率よく精霊を取り込めない可能性があったのだ。




