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第二話 世界の成り立ち

 見たこともない光景だった。

 古代ギリシャの神殿のような柱に支えられた建物の中には、人間だけでなく、ワニや猫の頭を持った獣頭人身(じゅうとうじんしん)の者達。いわゆる獣人と呼ばれるような者達もいた。

 それらは俺と美野里(みのり)の前に陣を組むようにして取り囲んで見守っている。


 できるだけ情報を仕入れようとして目を動かすと窓の外から古代づくりの建物で構成された町並みが広がり、遠くには原生林と深い山。整備されていない大河が広がっているのが確認できた。


 ここまで来たらどうしようもない。認めるしかない。

 須加院(すかいん) 美野里(みのり)16歳。鬼谷(きずみ) 剣一(けんいち)17歳。

 俺達は本当に異世界召喚されたのだろう。

 俺が様々な情報を元に現実を受け入れる覚悟をしたとき、美野里の方も現実を思い知ったのか、俺の腕に(すが)り付くようにして抱きついて震え出した。

 

 セーラー服を着ているから錯覚したのだろうか?

美野里が特別小柄で華奢(きゃしゃ)だから俺の男としての本能が誤解したのだろうか?

 俺は何故か男の美野里をまるで女の子のように守ってやらないといけない使命感に駆られ、美野里を異世界の住民から隠すように自分の身をズイッと前に出して立ちはだかる。


 その様子を見て俺達を異世界召喚したと宣言した50歳前後に見える男は困ったように笑うと、俺達に向かって深々と頭を下げながら、両膝を地につけ、両手を合わせて事情を説明した。


「ここは、あなた様方から見て異世界。我々がパノティアと呼ぶ世界です。

 (わたくし)はあなた様方を召喚した神官長のウルティア・ケイオスと申すものです。

 あなた方は我々の世界を救ってくれると伝承されている聖女様と勇者様です。決して無礼な真似は致しませんので、どうぞご安心ください。」


 実は神官長ウルティアの『どうぞ安心ください』という言葉を聞いて本当に安心したのか、俺の背中の後ろから状況説明を求める。


「い、異世界召喚とはどういうことなのかな?

 それにボク達はあなた方に対する知識を持ち合わせてはいないのです。出来ればお互いの世界の情報を詳細に教えあいたいのだけれども、構いませんか?」


 美野里は、この()(およ)んでもおかしな喋り方をする。どうやら、芝居でも何でもなく、美野里はこの喋り方でないと落ち着かないらしい。俺は呆れたし、同時に納得もするのだった。

 しかし、美野里の提案は合理的なものであった。神官長ウルティアもその提案を受け入れた。双方の事をよくわかりあった方が信頼関係が築きやすいと思ったのだろう。


 そして、先ずは美野里が全員に俺達二人の名前を紹介してから、地球の事をわかりやすく、それでいて詳細に語った。

 地球には魔法などというものは、過去の迷信として認識されていて存在しない事。現在は科学だけが信奉されている世界であること。当然、神も悪魔も魔物も現実に姿を見せない世界であること。

 自分たちが民主主義の世界で育ち、高校二年生になったばかりであることを話して聞かせた。

 その「地球講義」の弁舌は見事だった。さすが演劇部。恐らくその時の美野里は教授役がなにかに入り込んでいたのだろう。その時の彼はまるで大人の紳士だった。


 そして美野里が話したそれは異世界パノティアの住人たちにとっては、あまりにも高度な科学世界の話であったし民主主義という社会体系の存在に驚き、理解に苦しんだ。

 

 反対に俺達にとって彼らの世界の物理常識は驚きだった。

 異世界パノティア。そこは男女2柱の神が交わって生まれた世界だという。

 男神ウルと女神アアスは虚無の世界を旅している最中に偶然出くわし、恋に落ちた。

 ウルはアアスを押し倒し、それが大地となった。大地の凹凸は女体の滑らかなラインを現していると象徴しているらしい。多産の地母神アアスは複数の乳房や子宮を持っている。それが山や谷なのだとウルティアマは言う。そして、アアスはウルの子供を産み続けた。それがこの世界を構成する精霊たちであったり、神々となった。

 世界は地・水・火・風・雷・光・闇の7大精霊が事象を起こしているし、神々はそれらの精霊を駆使して世界を支配していた。

 そうしてこの世界の動植物、そして人間は世界を回している精霊の魔力から生まれたらしい。

 

 こうしてパノティアには、やがて大勢のものが生まれたが、それはウルとアアスが交わってできた子供達ばかりではなかった。

 ウルはアアスが産んだ女神とも交わって子供を作ったし、アアスは自らが産んだ男神たちとも交わって多くの子供を作った。

 アアスは身動きできぬ大地の身なので拒むことは出来ないが、男神ウルは自由の存在であるにもかかわらず女神と交わったことは、明らかに浮気だとアアスは激怒した。

 こうして二柱の神の不仲は、やがてただの夫婦喧嘩に収まらなくなり、神々の戦争へと発展する。元より身動きできないアアスは戦いようがないが、代わりにアアスを自分の妻にしてしまった子供の神たちが父神ウルに反旗(はんき)(ひるがえ)し、男神ウルについた女神たちは、多くの子供を産んでこれに対抗した。


 しかし、やがて戦争は男神ウル側の勝利に終わる。負けたアアスの神々は冥界に落とされた。女神アアスはいくら戦ったといえど自分の子供に対してあんまりの仕打ちだと恨みの涙を流し、その涙が瘴気(しょうき)となって大地を(けが)した。また、アアスのそういった怨念から多くの魔物を生まれ始めた。そしてそれを束ねる魔王も生まれた。

 魔王は地母神アアスから直接産まれてくる者なので絶大な力を持っていて、魔物を指揮して襲ってくるのだという。


 こうして人間はアアスが生み出した瘴気と魔物によって生活の場が奪われようとしている。そんな人間を哀れに思ったウルとアアスの娘神であるレルワニは、人間たちのために異世界から世界を救う能力を持つ人間を召喚する秘術を授けた。つまり聖女と勇者だ。

 聖女は『清浄の光』という瘴気を浄化する力を持ち、勇者は魔王と戦う者だという。

 こうしてこの世界は長い歴史の中で何度か聖女と勇者を召喚して何度も危機を救われたのだという。


 パノティアの壮大な神話は神話ではなく、この世界の事実だ。俺も美野里も驚くばかりだった。

 しかし、一番驚く事になったのは、やはりパノティア側だろう。一通りの説明を終えた後のことだった。


「以上がパノティアの事情でございます。ご理解いただけましたでしょうか? 聖女様(・・・)、勇者様。」


 と、言われてもな。そんな表情を浮かべてから美野里は弁明する。


「しかし、ボク達が聖女や勇者として召喚されたのは、明らかに何かの間違いです。元の世界に戻していただけませんか?」


 しかし、事情を知らぬウルティアは笑って聞き分けない。


「いえいえ。間違いなどはございません。召喚されたお人が聖女様と勇者様になるのです。」


 仕方なく美野里は白状する。


「でも、ボク達二人とも男です。」


 言われてウルティアは目を()いて驚いた。そうして、美野里を指差しながら周囲の人間たちと同時に驚きと絶望の声を上げるのだった。


「男っ!? こ、これが男っ!?」


 ま、気持ちはわかるわ。

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