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第十八話 格の違い

「それでは剣一様。学問所へご案内いたします。

 本日は入学日になりますので、先ずは所長室で所長と面談の後、適性試験を受けていただきます。

 その後、お二人のクラスへ向かいます。今日は顔合わせだけですが、明日、同級生の皆さんの前で自己紹介をしていただきますので今のうちに手短で結構ですから挨拶を考えておいてください。」


 学問所は寄宿舎から遠くなかったが、今日だけは特別に馬車が出た。俺達は馬車に乗り込むとアビゲイルから簡単な本日の行動の内容説明を受ける。

 美野里はどうも転入初日というものに興味があるらしい。

「転校生挨拶か。これは中々、楽しみだね。ボクはこれまで転校性を見たときに自分もやってみたいと常々思っていたからね。」

 と、嬉しそうに語った。逆に俺は面倒くさい。あの連中(・・・・)と仲良くできるはずがないと思っていたからだ。


「そんなの適当でいいだろ。名前と趣味と・・・・ま、この世界で俺達の世界の趣味は通じないか・・・」

 俺がそっけなく返事をすると、美野里は

「剣一君。君は何を言っているんだい? いいかい、よく考えてごらんよ。

 君は神社の子供だったから転校なんて、一生縁のない事だったはずだ。いや、そもそも一生、そう言う経験が出来ない人間は大勢いる。

 ボク達は異世界とはいえ、その機会に恵まれたのだよ? しかも、恐らくこの世界でもこれっきりの体験になる。

 これを最大限に楽しまないのは人生の損失となるは(だい)である言っても過言ではないのだよ。」と、真面目な顔で力説する。今までよっぽどやりたかったのだろう。


「こんな世界の学生生活を楽しむ・・・・か。

 起床訓練にやたらと硬いパンに塩辛いだけのスープ。こんなのやってられるか」

 と俺が愚痴(ぐち)ると、美野里は大きな黒い瞳をさらに見開いて不思議そうに俺に尋ねた。


「起床訓練? 硬いパン?塩辛いだけのスープ?

 なにそれ? 今日の朝食は蜂蜜たっぷりのフレンチトーストとポタージュと紅茶だったよ?」


 ネコのようにキョトンとした顔の美野里は、なお可愛い。

 ・・・・・じゃないっ!!


「なんだ、それっ!? こっちと全然違うじゃないかっ!?

 アビゲイルっ! こ、これは何の嫌がらせだっ!?」

 俺は怒った。日本人の俺にマズい飯食わせるなんて悪戯でもやりすぎだっ!

 だが、どうやら女子寮と男子寮はそもそも設立事情が違うらしい。


「ええと・・・・国を守るべき戦士の訓練を受ける男子と違って、女子はどちらかと言えば、この学問所生活で将来の良き殿方を見つけるために学問所に通うのです。

 ですから男子のような厳しさはありません。それどころか体育の授業は男子を応援するためのものであり、お料理の作り方や家主不在の際にどのように政務を監視するかという授業内容の家庭かこそ本領といいますか・・・・。」

 

 アビゲイルは苦笑しながら言った。

 そんなっ!! 酷い男女差別だ~~~っ!!


 

 程なくして馬車は学問所へ着く。こちらも寄宿舎と同様に日本の学校と比べても見劣りしない大きさだ。しかも、運動場や体育館らしき施設まである。

 アビゲイルは馬車を降りて所長室に向かう道すがら「あれが普通教室(とう)です。」「あれが魔法訓練場です」「あれが晴天時の運動場です。」などと、施設を指差しながら説明してくれた。


「色んな施設があるんだね。随分と教育熱心だ。」

 美野里はそう言って感心した。アビゲイルは「ここは世界の王侯貴族の子供が通う学問所。つまり世界の未来を担う指導者たちを育成する場所ですから、一般の学問所とは全く違うんですよ。」と説明してくれた。


 そんなことを話していると所長室に着いた。

 アビゲイルがノックして所長室に入ると、ウルティアより少し年上そうな白髪の老人が俺達を迎えてくれた。


「聖女様。勇者様。ようこそ、いらしてくださいました。

 アビゲイルも久しぶりだね。卒業以来だから・・・・・」

「お久しぶりです。・・・・あ、2年ぶりですね。」

 アビゲイルは所長が実数値を語る前にサバを読んだ年数を断定する。そして所長が何か言いだす前に俺達に所長を紹介した。


「美野里様、剣一様。こちらが当学問所の所長であるアレクサンダー・コリンズ伯爵です。

 コリンズ伯爵は『大貴族』の地位も与えられていて、世界各国の王侯貴族と同等の扱いを受ける権利を有しています。また父とは旧知の仲にあたる方で、私に個人的な魔法の授業を付けてくださった恩師でもあります。」


 80年ほど前に貴族制度を廃止した俺たち日本人には貴族の階級のことはよくわからない。ただ、どうもかなり偉い人らしい。あとでアビゲイルから聞いたが、ジョーンズ大佐も伯爵らしい。偉い人ばっかりだな。

 それは、ともかくとして俺達も自己紹介しなくてはいけない。


「勇者として召喚された鬼谷(きずみ)剣一です。」

「聖女として召喚されました須加院(すかいん)美野里です。」


 俺たち二人が会釈して挨拶するとコリンズ所長は、この学問所の校風や校則、歴史などを長々と説明してくれた。まぁ、要するにこれまでアビゲイルから聞いたとおりの学問所らしい。

 そうしてコリンズ所長は、その知っている情報を説明してくれた後に、6歳児の背丈ほどあるような巨大な水晶玉が置いてある部屋に案内し、その水晶玉で俺達の魔法適性を測定すると言った。


「人にはそれぞれに生まれ持った魔法の属性と言うものがあります。それは具体的に言うと人には個人個人にそれぞれ違う属性の魔力を持っています。それは即ちその人が得意となる魔法属性の事です。

 この水晶玉は魔力を透過させる不思議な水晶の結晶です。魔力がある者がこれに触れると魔力が水晶の中を通り、外に出るわけですが、その時に水晶はその人の魔法属性に合わせて光を放ちます。魔力は属性ごとに異なる波長をもっているので、水晶を貫通する際に異なる色を放つと、こういった理屈です。」

 

 そこまで説明を受ければ、この適性試験が何のためにあるのかわかる。

「ふむ。なるほど。これでボク達の得意分野を探り、学問所で得意分野を強化させるってことですか。」

左様(さよう)でございます。魔力属性不一致でもその属性の魔法が全く使えないわけではないですが、それを鍛えるというのはあまりにも非効率すぎます。

 では、剣一様からお手をどうぞ。」


 俺がコリンズ所長に(うなが)されるままに水晶玉に手を触れると、なるほど水晶玉は上半分は黄色の光、下半分は黒い光を放った。

 途端にアビゲイルとコリンズ所長が歓声を上げるっ!


「に、2色ですってっ! 雷と闇の二属性魔法持ちの反応なんて初めて見たわっ!」

「ううむ、流石勇者様。恐るべき魔法資質。」

 おう。なるほど・・・・俺ってチート級ってことね。

 異世界転移の主人公ってのはこうでなくってはね。


 続いて美野里が緊張の面持ちで水晶玉に手を触れると、水晶玉は(まばゆ)い白い光を一瞬放つと粉々に砕けてしまった。


「信じられないっ!! 魔力を透過するはずの水晶玉がその透過するエネルギーに耐えられずに砕けるなんてっ!!」

「ばかなっ!! ありえないっ!! こ、これが今聖女(いませいじょ)の力かっ!?」


 奇跡を目の当たりにしたコリンズ所長は腰を抜かして座り込み叫んだ。

 どうやら俺と美野里では格が違うらしい・・・・あれ? もしかして異世界転移の主人公って美野里? 

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