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第十四話 入学

 翌朝。俺たち二人は泣きはらした真っ赤な目で昨夜、俺達を二人っきりにしてくれたアビゲイルに礼を言った。

 アビゲイルはきっとこれまでの召喚者の事から俺達には互いが必要になることを知っていたんだと思う。

 きっと今までの冒険者も昨夜の俺達のように泣いて夜を過ごしてきたのだろう。その気持ちを俺達は知っている。

 そうして、アビゲイルは俺達に気を使って衛兵さえ遠ざけて俺達を二人っきりにしてくれたんだ。


 アビゲイルは俺達の感謝の気持ちに何も言わずに、ただ頷くだけで、すぐにこれからの予定に話を移した。

 俺達は朝食を取りながらアビゲイルの話を聞いた。


「これからお二人が1年間通うシリウスという名の学問所は全寮制の寄宿舎です。

 本来は3年生の学園ですが、お二人には1年間だけそこで過ごして基礎を習得していただき、その後は現場で訓練を受けて成長していただくことになります。

 これからお二人に制服をお渡しいたします。そして、お二人別々のお部屋にご案内します。

 私は美野里様を。剣一様は昨日一緒に戦われたハカがご案内いたしますので、どうぞ美野里様はこちらへ。」


 そう言ってアビゲイルは美野里の手を取ってどこかへ連れて行く。

 美野里は「あっ」っと言って寂し気に俺を見つめた。


 やめろっ!! そういうの、男の子はグッときちゃうんだからっ!!!


 昨日の身の上話を聞いてどうして美野里が無自覚に男を狂わせるのかわかった。こいつは両親のせいで恋愛に興味がなく、それだから男に自分がどう見られているのかわからないんだ。

 くそ。ていうか、いくら可愛いからって何で男にこんな気持ちにならなきゃならないんだよっ!


 とかなんとか俺が考えていると、ハカが申し訳なさそうに声をかけて来た。

「あの・・・・剣一様。」

「あ、すまない。直ぐに行こうか。」


 俺もハカの案内で別の部屋に行く。こうして俺と美野里は一旦離れ離れになった。

「しかし、昨日は驚きましたよ。剣一様。

 お見事なお手前でしたな。」

 部屋に入って俺に制服を渡しながらハカは昨日の切り合いについて話す。


「ああ。俺は美野里と違って地球で剣士の真似事みたいなことを習っていたからな。」

「真似事などと、とんでもない。足首を切られた時は何をされたのか全く分かりませんでしたよ。」

「俺は自分の手の内、実力がバレる前に本気を出したまでさ。俺が木剣稽古以上の勝負をしたことがないことを貴方(あなた)が知っていれば、もっと違う展開になったはずだ。」


 俺の言葉を聞いてハカはビックリした眼で俺を見つめた。

「なんですと? では、まさか剣一様は真剣を取って殺し合いをしたことがないと?

 では、あの恐ろしいまでの殺気は生まれもっての物と仰るのか?」

 

 ハカは対戦中に俺の殺気に怯えて勝負を断念した。その俺がまさか実戦未経験者とは想像もできなかったらしい。だがハカの言葉に俺は笑いながら答えた。

「よく言う。あの時、貴方は本気で俺を殺そうとしていた。俺を試すためにチョイと脅してやろうとかテストだとかそういう事ではなく、あの時、実力至らぬ勇者ならここで殺しておこうと本気で思っていたはずだ。

 その殺気が呼び水となって俺に殺気を出させただけだよ。」


 ハカは俺を殺す気だった。その事を見抜かれ「うっ」と狼狽えながら弁明する。

「うっ・・・そ、それはその。そうするように言われただけで・・・・その申し訳ない。」

 俺はハカに渡された軍服のような詰襟(つめえり)の制服とブーツに着替え終わると、笑って聞き流す。


「まぁ、勝負はお互い様、恨みっこなしってことで。

 ところで着替えは、これで終わりですか?」

 と、俺が尋ねるとハカは最後にかなり上等そうな外装をした長剣(ロングソード)と小太刀の二本を手渡してきた。

「どうぞ、これをお持ちくださいませ。剣一様が通われる学び舎は、本来、王侯貴族が通う学び舎。

 粗末な剣ではいけません。」


 ハカが手渡してきた剣を抜くととてつもなく美しい刀身をしていた。恐らく相当な業物(わざもの)なのだろう。

「ありがとうございます。これほどの逸品(いっぴん)を手にするのは武士の誉れ。大切につかわせていただきます。」

 俺はその剣を手にした喜びで顔がにやけるのが止められなかった。

 

 切れる。これならどんなものでも斬り落としてくれる。

 そう考えただけで胸が高鳴るのだった。ハカはそんな俺を見て若干(じゃっかん)引いてたけど。


 しかし。その後に問題が起きた。

 美野里は何時まで経っても着替えが終わらずに戻ってこなかった。

 待たされる間に何倍紅茶を飲んだかわからないほどである。

 そうして、ようやく美野里が俺達が昨日一泊した客室に戻ってきたとき、なんと美野里は女性物の制服を着ていたのだった。


 アビゲイルは言う。

「これから一年間、お二人は別々の寮に入っていただきます。

 剣一様は男子寮。美野里様は女子寮です。」


 ・・・・

 ・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・一瞬、思考が停止した。そして、思考が再開する前に体が反応した。

「はあああああ~~~~~っ!?」


 俺はアビゲイルと美野里に詰め寄った。


「おい、いい加減にしろよっ!

 美野里を女子寮に入れたらダメでしょうがッ!! そんなのハーレムじゃないかっ!

 女子寮の女の子は一カ月を待たずに全員、妊娠させられるぞっ!

 う、羨ましすぎるっ!! そ、それなら俺も女子寮に入れろっ!!」


 俺は半分、血迷ったことを言いつつも不純異性交遊が起こる前に。不祥事が起きる前にそれを制止しようと血の涙を流しながら羨ましいと思った。もとい、阻止しようと思った。

 だが、美野里はそんな俺の頭をチョップしながら、

「まったく、バカだな君は。なにをいいだすんだ。」と、突っ込んできたのだ。



 俺の怒りは頂点に達した。 

「いや、お前。ツッコミ入れらる立場じゃないでしょうがっ!

 そんなのお前だけ役得じゃないかよっ!!

 絶対に許さんっ!! だったら、俺も女子寮を入れろっ!

 俺にも女生徒の制服よこせっ!」

「肉体派の君が女生徒の制服なんか着れるわけないだろうっ!

 そんなの地獄絵図じゃないかっ!」


 美野里は自分が女装上手なのをいいことに俺にマウントを取って来る。いや、確かに想像するも地獄の映像ではあるが・・・・。

 くそうっ! ちょっと自分が可愛いからって、それを利用して女子寮に住もうだなんて、なんてエロエロ作戦を実行するつもりなんだ。

 

「百歩譲って俺が女子寮に入れないのは良いよ。でも、こいつも男なんだから、男子寮に入れないとダメでしょうがッ!!」

 俺は再度アビゲイルに詰め寄った。だが、それは美野里によって阻止される。

「うるさいなっ! 君と違っていいんだよ、ボクはっ!」

「!?」


 しかし、その時の美野里のどうしてもぬぐえない違和感に俺は首をかしげる。

「・・・・なんで、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてるんだ? お前。」

「うるさいなぁっ! とにかく・・・・ボクは女子寮に入るんだよっ!」

「・・・・訳が分からん。」


 俺は首をかしげて考える。俺、そんなにおかしいこと言ってるかな?

 だが、アビゲイルまで真剣な顔で俺を否定する。

「いえ。美野里様は聖女様なので女子寮以外にあり得ないのです。

 そして男の剣一様は男子寮。それ以外にあり得ないのです。」

「いや、だからっ! こいつも男でしょーがっ!」


 俺がどうしようもないほど憤っている時、見かねたようにハカが仲裁に入って来た。

「剣一様。美野里様は確かに男の子ですが、男でも聖女様として扱えば聖女様になるものなのです。」


 あ~~~、だ~~~、か~~~~、ら~~~~~~っ!!

 

 俺はその後も何度も地団太踏んで抗議したが、それは到底認められず、結果として俺は男子寮。美野里は女子寮で1年過ごすことになるのであった。

 ・・・・・いや、俺はおかしいこと言ってないだろう?

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