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(バンダナコミック01参加作品)追放された元勇者は宇宙サバイバルレースで一攫千金を狙う〜婚約破棄された小さめ成人王女を故郷に送り届けることになったんだが。配信者さん、王女とのコラボはNGでお願いします

作者: 咲山 楽

 異世界宇宙歴2024。


 宇宙配送ギルド。それはどの国家にも属さない、中立的な運送屋の組織だ。


 そして今ギルド長室にて、ひとりの青年が糾弾されていた。彼の名はロイ。相棒と共に運送屋をはじめ、これから一旗上げようとしていた矢先であった。


「ロイ。お前には失望したよ」


 ギルマスは深くため息をつく。


「辺境の勇者だったお前が配達人に転職した時は、みな興奮したものだったが……まさか、こんな失態をやらかすとは」


 しかしロイは、心外といった面持ちでギルマスに訴えた。


「なぜ怒られてるんだ?荷物はたしかに、依頼通り届けたはずだ」


 するとギルマスの横にいた筋肉隆々の男が、グフっと笑った。


「ロイ。荷物を期限内に届けようと、無茶をしすぎたな?これまで宇宙船や建物をいくつも壊したそうじゃないか」


 ロイの同業者、ザマダは鬼の首をとったかのように彼を糾弾する。


「そ、それは……俺がまだ、『ゼンギア』を上手く扱えないから」


 ゼンギア。惑星各地で量産されている人型のマシーンである。工事用から戦闘用まで様々なバリエーションがあり、宇宙空間でも広く使われている。


 しかしロイはゼンギアの操縦が苦手である。そのため作業中に宇宙船や建物に接触。それらを破損させてしまうことがしばしばあった。


「まだ慣れてないだけだ。ギルマス、俺に時間をくれ。そうすれば手足のように扱ってみせる!」


 ロイは必死に訴えた。しかし。


「お前宛のクレームがあとをたたないんだ」


 机の上には、山のように封書が積み上げられている。


「ロイ、もうお前をかばいきれない。宇宙配送ギルドから、お前を追放する」


「そんな……」


 ロイはうなだれ、ギルマス室を出た。


「はは、もう運送屋なんて辞めるんだな!」


 ザマダの罵声を背中にあびながら。

 

 ギルマス室から出てきたロイの目の前には、相棒でありメカニックのレクターが立っていた。


「まずいぜ、ロイ。フリーになるのは。配送の仕事はギルドが独占してるようなもんだし……宇宙船だって、まだ借金が残ってるんだぜ?」


 ロイも分かっている。宇宙の配送は信用が第一。ゆえに配送の仕事は、ほぼギルドを通して行われていた。


「でもどうすれば」


 その時、壁に貼られたポスターがロンの視界に入った。


「おい、どうしたんだ?」


 レクターの言葉を無視し、ポスターに近づくロイ。


「これだ……これしかない!」


 彼は興奮した。そこにはこう書かれていた。


「『ギャラクティック・グランプリ』参加者募集。優勝賞金1億ギラ」


 ギャラクティック・グランプリとは、スタートからゴールの惑星まで宇宙船で旅するレースである。ゴールに一番先に到達した者が優勝し、名誉を手にするのだ。


 ただし超長距離を航行するため、どんなに早くてもゴールまで半年はかかる。互いに潰しあうことも認められており、また障害も多い。


 別名サバイバルレース。それゆえに熱狂的なファンも多い。命がけの超難関レースであった。


「これにエントリーするのか?」


「ああ、レクター。配送業が思うようにいかない今、俺たちが借金を返すにはこれしかない!」


 しかしレクターは顔をしかめた。


「そうは言ってもロイ。レースに出るにしろ、そのための金はどうする?」


 ロイは言葉につまった。ギャラクティック・グランプリの準備には多額の資金が必要である。しかし、彼らには手持ちの金がない。


 その時だ。ギルドの受付で、ひとりのメイドが大きな声をあげた。


「どういうことですの?内密に人間を二人、惑星『メルリンク』まで運んで欲しいとお願いしているだけではありませんか!」


 鬼気迫る様子に、場がざわついた。しかしギルド嬢は困りはてた顔で


「申し訳ございません。守秘義務があるとはいえ、あまりにも危険が大きく……」


 とおどおどするだけである。


「金ならあります!」


 メイドは持ってきたカバンを開けた。うなるほどの大金……ギルドにいた人々はざわめいた。ロイたちの喉も思わずゴクリと鳴る。しかし、なぜかメイドのクエストを受けようとする者はいない。


 どうしてだ?疑問に思うと同時に、ロイの頭にある考えが浮かんだ。


『たしかメルリンクといえば、ギャラクティック・グランプリのゴール付近の惑星だったな。つまりゴールした後、そのまま彼女たちを送り届ければ良いわけだ』


 レースに出場するためには準備資金が必要である。背に腹は変えられない。


「お嬢さん。その依頼、俺たちが受けよう」


「え……よろしいのですか?」


 メイドは驚いた顔でロイを見上げた。よく見れば黒髪の美しい女性である。


「わたくし、リサと申します。ご協力感謝いたしますわ」


 リサは感極まったのか、ロイの手を取りギュッと握った。


 



 一週間後。ロイたちはメイドから預かった資金で準備し、大会に漕ぎつけた。


 レース会場はすでに、スタートする宇宙船たちを見ようと大勢の観客でにぎわっている。


「それにしても遅いな」


 ロイは時計を見た。レースが始まるまであと30分。だがリサたちはまだあらわれない。その時だ。


「こ、こ、こん⭐︎」


 背後から奇妙な声が。振り返ると、そこには背中から羽の生えた銀髪の鳥獣人美少女がいた。


「あの、ロイさんたちの担当になります。配信者のハピラでしゅ。あ、かんじゃった」


 担当?なんの話だ?ロイが茫然としていると、ヴィクターが思い出したように、


「ああ、キミが俺たちの船に乗る配信者か!」


 と声をあげた。一緒に船に乗る?


「どういうことだ、レクター。俺は何も聞いてないぞ?」


「お前、レースの参加要項を読んでなかったのか?彼女は今回のレースを実況し、不正がないかを監視する配信者だ。同乗者がいるって書いてあったろう?」


「う、え、えへ。お世話になりましゅ。あ、かんじゃった」


 ……こんな子に、本当に配信ができるのか?ロイはめまいがした。


 しかしもうすぐスタート時間になろうというのに、一向にメイドたちはあらわれない。


「あ、あにょ。もうそろそろ、エンジンをかけないと……」


 ハピラまでヒヤヒヤしている。その時だ。スカートをつまみ上げ、猛ダッシュでこちらへやってくる二人の女性の姿が見えた。


「急いで!」


 深くかぶったつばの大きな帽子の下から、見知った顔が。メイドのリサである。彼女は勢いよくロイたちの宇宙船に乗り込むと、もうひとりの女性の手を引っ張った。


「あっ」


 その時、連れの女性の帽子が風で飛ばされた。ロンは見た。長く美しいオレンジ色の髪が風になびき、髪をかき上げた彼女の瞳はどこまでも青く澄んでいる。つい、見惚れてしまう。


「ロイ、どうした!俺たちも急ぐぞ!」


 レクターに急かされ、ようやく我をとりもどしたロンは


「あ、ああ」


と返事をした。



 


「それではこれより、ギャラクティック・レースのカウントダウンを始めます!」


 数多の宇宙船のエンジンが轟音をあげはじめた。空へと向かい湾曲する滑走路を見上げながら、打ち上げの瞬間を待つ。文字盤に浮かんだ数字が次第に小さくなる。


「3、2、1……スタート!」


 ドドドド………宇宙船たちは宇宙に向かって、一斉に飛び立った。ついにレースが始まったのである。観客たちは歓声を上げ、空高く昇っていく彼らを見送った。


「打ち上げ成功だな、ロイ」


「ああ、レクター。さて……お嬢ちゃん、自己紹介をお願いできないかな」


 ロイはリサに連れられた美少女に声をかけた。最初見た印象よりも幼く感じた。なぜなら彼女は、背丈がロンたちより一回り小さい。カルラよりも背が低いのである。しかし


「お嬢ちゃん……心外です」


 彼女は少し涙目になった。


「これでも私、成人なのですが」


 いかん。なにか地雷を踏んだようだ。ロイは困ってしまった。


「そ、そうでしゅよロイさん!こんなにふくよかな胸があるのに、未成年と間違えるなんて!」


 ハピラがギュッと彼女を抱きしめた。言われてみればたしかに、未成年らしからぬものをもっている。


「よしよし。かわいそうに……いい匂い、ふわふわ〜」


 なぜかしだいにハピラの息がハァ、ハァと荒く、瞳孔が開いていくが……


「や、やめて下さい!」


「いいじゃないですか!マリエルたん♡」


 とうとうハピラはメイドのリサによってベリベリと引き剥がされた。


「失礼した、レディ。もうそろそろ、名前を聞かせてもらえないだろうか」


 今度は丁寧に質問するロイ。すると


「アリエル……いえ、マリエルです!」


 あわてた様子で彼女はそう答えた。なぜ言いかえた?アリエル?どこかで聞いたことがある。


 そう思いながらもロイは、彼女たちにこれからのことを伝えた。


「今から俺たちは、巨大な転移装置が設置されたワープゾーンまで飛んでいく。しかしどの場所のどのワープゾーンを使うかは、参加者たちの判断による。俺たちが目指すのはここ」


 ロイはモニターに映された、ある場所を指差した。するとハピラは驚きの声をあげる。


「ひぇ!こ、ここは、宇宙海賊たちが作ったワープゾーンじゃないでしゅか!」


「宇宙海賊⁉︎なぜそんな場所に行くのですか?他にも安全なワープゾーンはあるはずです!」


 抗議するようにピョンピョンと跳ねるマリエル。かわいいな。そう思いながらも、ロイはしてやったりの顔をする。


「実は宇宙海賊にツテがあってな。昔の知り合いがいるんだ」


 するとハピラ、マリエルは疑いの目をロイに向けた。まずい。海賊にツテがあると聞いて、なんかヤバい奴と思われたかもしれない。ロイは視線をそらすように話を先に進めた。


「他のワープゾーンは競争率が高い。入り口付近で小競り合いが起こる可能性がある。しかしここなら、他のレース参加者とかちあうことも無いはずだ」


 すると先ほどまで腕を組み考えていたリサも


「……今の話が本当なら、たしかにベストですね」


 と賛成した。


 


「ワープゾーンに着くまでの間、私は配信をしてますね」


 ハピラはそう言って自分の部屋に引きこもった……いや厳密にいえばマリエルの腕を小脇につかみ連れ去った。心配したリサも一緒に着いていき、操縦室はロイとレクターだけになった。


 するとレクターから思わぬ言葉を聞かされる。


「ロイ。あのマリエルって娘、さっきアリエルって名乗ってたよな?」


 たしかに。ロイも気になっていた。


「名前が同じだな?帝国に嫁ぐ予定だった、惑星メルリンクの王女と」


 ロイは思い出した。そういえば、さいきんギルドではその話で持ちきりだった。


 花嫁修行もかね帝国に留学していた、メルリンクの王女が婚約破棄されたらしい。なんでも帝国の皇子に糾弾され、罪人として裁かれたと。


 たしか彼女の名前は……


「ワープゾーンまではもう少し時間がある。彼女に話を聞いてきてくれないか?」


 宇宙船の操縦ができるのはレクターだけだ。となれば当然、自分が行くしかあるまい。


 ギルドでのリサの言動、それからギリギリで宇宙船に乗り込んだ彼女たちの様子。なかなか聞きづらい話だが、もし本当に帝国がからんでいるのであれば聞かないわけにはいかない。


 ロイがハピラの部屋を訪ねると、すでに配信が始まっていた。


「みなさーん、こんハピ〜⭐︎前にお話ししてたと思うハピけど、ハピラ、今日からギャラクティック・グランプリに参加してるハピ⭐︎これからみなさんに、実況をお送りするハピよ!」


 すごいな。ロイはうなった。さっきまでカミカミの口調だったハピラが、配信が始まった途端に滑舌が良くなっている。


「それでは一緒に旅をする仲間たちを紹介するハピ!」


「は、初めましてアリエルです」


「お、お嬢様!」


「あ、違いました、マリエルです!」


 アワアワとするお嬢様とメイド。分かりやすい……分かりやすすぎる!ロイはあきれた。やはりマリエルの本名はアリエル。間違いない。


「マリエルちゃん、かわいいね!みんなもそう思わない?」


 すると魔道具モニターに、視聴者たちからのコメントが流れ出した。どれも「マリエルちゃんかわいい」「ちっちゃかわいい」「マリエルたん最高」と好意的なコメントだ。それを見たマリエルの顔はゆでダコみたいに赤くなった。


 彼女の恥じらう姿を見た視聴者たちは、さらにヒートアップする。しまいにはスパチャが次々と送られだした。


『ふひひ。思った通りハピ。このコラボ……いけるハピ!』


 あどけない天使の笑顔の下で、ハピラはほくそ笑みながら


「ところでマリエルちゃん、どうしてこの船に乗ったの?」


 そうマリエルへ質問を投げかけた。ハピラからすれば、レースに関係ない人間が船に乗っている時点で不思議に思うのも当然である。


「実は婚約者に、婚約破棄されてしまい」


「え、どうして?」


「私にもよく分からないんです。でも身に覚えのない、色んな罪を着せられて」


「ちょ、お嬢様!」


 ロイは思った。やはりそうか……宇宙配送者ギルドの噂どおりだ。帝国の皇子が婚約者とは別の女を好きになり、あらぬ罪を着せて彼女との婚約を破棄したと。


「婚約が決まったのは10歳の時でした。それからずっと、帝国の皇子に嫁ぐことだけを考えて生きてきたのに……お前を愛せない、お前はいらない。俺が欲しいのはお前の能力だけだと言われて」


 それを聞いたロイは


『なるほど、マリエルもかわいそうだな』


 と彼女に心から同情した。


「ですので、ロイさんとヴィクターさんに母国へと送り届けてもらっているところです」


 なるほど。それならちゃんと送ってあげないとな……ん?ロイはそこでようやく気づいた。


『あれ?そういえば彼女は、皇子になすりつけられた罪で地下牢につながれているって噂だったよな⁉︎』


 まずい!ロイがそう思った時には、すでに手遅れだった。


「お嬢様!いくら名を変え、変装してるからってしゃべりすぎです、」


「あ、あ、すみません!ウソがつけない性分で」


「え?な、どうしたハピか?なにかまずいこと言ったハピ?」


 ロイは頭を抱えた。この配信者、時事を知らなすぎる!


 つまりはこうだ。アリエルはリサの助けを借りて、帝国の地下牢から脱獄した。そして宇宙配送ギルドに、母国まで逃亡する手助けを依頼。


 しかし事情に気づいた配達人たちは依頼を受けず、それに気づかなかった俺たちは依頼を受けてしまった……。


 ということは、まずい。かなりまずい。この放送がもし帝国の人間に聞かれでもしたら!


 その時だ。ドスン!と宇宙船が揺れた。


「ロイ、早く戻ってきてくれ!」


 レクターの船内放送を聞き、操縦室にもどる。まさか、もう帝国に勘づかれたのか?しかし、それにしては早すぎる。


 操縦室につくと、レクターがモニターを指差した。そこにはロイたちの進路を妨害する宇宙船が映っている。どうやら帝国軍ではないようだ。しかしこの宇宙船、見覚えがある。その時だ。


「ロイ。配達人をやめて、今度はレースに出場か?こりない奴だ」


 通信機から声が聞こえた。聞き覚えがある……ロイはすぐに思い出した。それはギルドから追放された時、ロイを罵倒した男・ザマダの声だった。


「お前たちがレースに出場すると聞いてな?身の程を分からせてやろうと、俺も参加したわけだ」


 ロイには理解できない。自分はすでにギルドを追放され、ザマダとはもう関係ないはずだ。


「なんの真似だ!どうしてそこまでする!」


「ロイ、お前が気に入らないんだ。お前がくるまで、俺はギルドでも1、2を争うスタープレイヤーだった。周りの奴らも俺にヘコヘコしてたんだ」


「それは知っている。でもなぜ俺を目の敵にする?」


「お前がギルドに来たとたん、周りの奴らはお前を憧れの目で見るようになった!たかが辺境惑星の勇者だったお前を。俺を無視して……屈辱だったんだよ!」


 するとザマダの宇宙船から、数体のゼンギアが出撃した。


「復讐の時間だ。ロイ、お前たちの宇宙船はここでバラしてやるよ!」


 これはまずい。ことは一刻をあらそう。


「レクター。俺はゼンギアで出る!あとは頼んだ」


「おい、ロイ……挑発にのるな。お前はゼンギアで戦った経験がないだろ⁉︎」


「む⁉︎」


 たしかに。ロイの腕ではゼンギアを動かすのがやっと。戦闘なんて高度なマネができるはずもない。


「しかしこのままでは」


 ロイの目が泳ぎだした。すると


「え!ウソ!」


 いつのまにか操縦室に来ていたハピラとリサが驚きの声をあげた。


「ロイさん、ゼンギアで戦ったことがないの⁉︎そんなレース参加者、初めてみたハピよ?」


 ギャラクティック・レースは通称サバイバルレース。戦闘経験0の人間が参加するなど考えられない。カルラは唖然とした。


「そうは言っても、こうなったら俺が出るしかないだろ!」


 プライドを傷つけられたロイは、声を張り上げて操縦室をでた。


「あの……大丈夫なんですか?私たち、まさかこんな所で!」


 あわててレクターに尋ねるリサ。


「私のレース配信も、もう終わりハピか?」


 あくまでも配信が気になるハピラ。


「実はあいつ、元は腕の立つ戦士だったんだが……メカの操縦が苦手でな」


「そんな。お嬢様、いかがいたしましょう?って、お嬢様がいない⁉︎」


 振り返れば、そこにいるはずのマリエルがいない。リサはあわてふためいた。



 

 ロイがゼンギアの操縦桿を握ると、機体は宇宙船の外へと飛び出した。はじめは飛行形態だったゼンギアだが、すぐさま人型へとフォームチェンジする。


 目の前には、ザマダのパーティーと思われる8体ほどのゼンギアが。そして、


「へへ……まんまと出てきたな、ロイ。勇者だかなんだか知らないが、宇宙空間の戦闘なら俺たちの方が上だ」


 大型のゼンギアスが宇宙船から射出された。あれがザマダ本人が乗るゼンギア。見るからに無骨なデザインで強そうである。


「最後に一つ、冥土の土産に教えてやるよ。お前がギルドを追放されるように仕向けたのは俺だ。お前は想像以上のメカ音痴だった……だから裏工作で宇宙船や建物を破壊し、お前をおとしめてやったのさ!」


「なんだと?今まで俺の失敗だと思っていたもの。あれはお前が仕組んでいたのか!」


 真実を知ったロイは怒りの声をあげた。しかしその時、ザマダのゼンギアから銃弾が放たれる。


 ギャラクティック・グランプリは賞金レースであるが、戦闘も許可されている。これはその方が視聴者も盛り上がるためだ。


 使用されるのは緩衝材付きの信号弾で、機体に当たると一時的に機能を停止させる。一定以上の信号弾を受ければ機体が停止するが、ゼンギアや宇宙船自体が破壊されることはない。


 しかしザマダの放った銃弾は、ロイの機体が持つ銃を貫通。そのまま破壊してしまう。


「これは……実弾じゃないか!」


 狼狽えるロイ。


「そうさ!さあ、最後の仕上げだ。ギルドを追放されたロイよ、ここでお前は死ぬんだ。人知れず宇宙のチリとなってしまえ!」


 だがその時。


「そんなの反則です!」


 興奮する配信者・ハピラの声がなりひびいた。気づけばロイとザマダたちの周りに、カメラのついたドローンが飛び交っている。すでに実況が始まっていたのだ。


 しかしザマダはほくそ笑んだ。


「残念だったな。このあたりにはジャマーをはった。配信はかき消されてるんだよ!」


「そちらの船の配信者は?たしかルミーが乗ってるハピよ!」


「俺たちのすすめた酒で、酔いつぶれて寝てるぜ?」


「あのアル中配信者め〜」


 これではザマダの反則行為が運営に伝わらない。


「ロイさん、失礼します!」


 するととつぜん、背後から声が。振り返ると、マリエルが操縦席の後ろから姿をあらわした。


「なんでこんなところにいるんだ?」


 ロイが慌てている間にも、彼女はせまい操縦席の間をぬって前へと出てくる。


「きっと私の力が役にたつと思うんです!」


 マリエルはロイの足の間に腰を下ろし、背中を彼の胸にあずけた。


 彼女の背が低いせいで視界の邪魔にならないが、ち、近い!突然のことに、ロイは思わず狼狽えてしまう。


「ロイさん、失礼します!」


 操縦桿をにぎるロイの手にマリエルが自分の手を重ねると、不思議なことに計器類が淡い光を放ち出した。


「ロイさん、私にはマシンと対話する能力があります」


 するとマリエルの体が光りだし、やがてその光はロンを包み込む。


「これは一体どういうことだ?まるでゼンギアと一体になったような感触……」


 マリエルの能力により、ロイとゼンギアはシンクロする。今ならこのゼンギアを、自由自在に扱えそうだ。ロイは驚きと興奮を隠せない。


「さあロイさん、いきましょう!」


「分かった!」


 そう答えるロイの操縦は、まるで熟練者のように洗練されていた。


 敵のゼンギアの攻撃を、次々とよけるロイのゼンギア。気がついた時にはすでに、敵のゼンギアに至近距離まで近づいていた。


 


 そのころ、宇宙船の操縦席では。


「ど、どうしたハピよ⁉︎ゼンギアの動きが変わったハピ!」


「あれはアリエルさまの能力。自分を媒介とし、ゼンギアと操縦者をシンクロさせる能力……聖女の力です」


「ま、マリエルちゃんて聖女ハピか⁉︎」


「う!しまった……忘れなさい。アリエルさまが聖女であることを、忘れてしまいなさい!」


 リサがまさにハピラの息の根を止めかけたその時、レクターの言葉で二人の動きが止まった。


「おいおい、なんだよ。なら無敵じゃないか」


「「え?」」


「ロイは歴戦の勇者だ。そのむかし、惑星セテスに君臨していた『魔王アストレーゼ』を討伐したこともあるんだぜ?」


「その話、聞いたことがあります!まさか彼が!?」


「またの名を『超絶の剣聖』ロイグランデ。今は訳あって配達人なんてやってるが……」


 


「……抜刀」


ロイ、いや彼のゼンギアは背中に収められていた剣のグリップに手をかけた。


「なんだこいつ、く、くるな〜」


 あわて叫ぶザマダの部下。バリアをはろうとするも、その寸前でゼンギアの手足がバラバラにされた。ロイの放った、超高速の居合斬りである。


「え……ロイさん、強すぎませんか?」


 あっけにとられる聖女。しかし


「まだ敵がいるぞ。マリエル、俺に力を貸してくれ」


 そう耳元でささやかれ、


「よ、呼び捨て……は、はい!」


 と顔を真っ赤にする。


 そのままザマダたちのゼンギアに突っ込む。すれ違いざまに一機を剣のつかで殴り機能停止に、振りむき際にもう一機の首をはねる。


「ええい、この一撃をくらえ!」


 ザマダのゼンギアから、とつぜん高出力のメガビーム砲が放たれた。だがその時、ロイのゼンギアが持つ剣が輝きだす。


「ふん!」

 

 すると魔法をまとった剣撃が、襲いかかる閃光を真っ二つに切り裂いた。


「飛び道具を使えるのが、お前らだけだと思うなよ?」


 お返しとばかりにロイのゼンギアが手を広げると、突如として巨大な攻撃魔法陣が展開する。


「……マリエル」


「はい」


「これって……いくら俺でも、この魔法陣は大きすぎるんだが」


「ふふ。私の魔力も上乗せしちゃいました」


「ソウナンダ」


そんな会話の間にも、巨大な魔法陣をみたザマダたちは慌てふためいている。


「お前たちを宇宙船ごと破壊できそうだが……どうする?」


「ひーっ。た、退却!」


 ザマダたちのゼンギアは一機残らず宇宙船へと帰還。彼らのパーティーは高速で逃げ去ってしまった。


 すると、


「ギャラクティック・グランプリ第一戦は、ロイ・パーティーの勝利ハピ⭐︎100ポイント獲得です!」


 元気な声で実況する、ハピラの配信が流れてきた。


「やりましたね、ロイさん!」


「ああ、マリエル……さま」


 ロイは思い出した。彼女はメルリンクの王女である。そして先ほどの力……彼女が「聖女」と呼ばれる特別な存在であることを。


「そうですか。知ってしまったんですね」


 マリエルは、自分の正体が知られたことを察した。


「どこか近くの惑星でおろして下さい」


「どうするつもりだ?」


「分かりません。でも配信で情報が流れた以上、帝国もすぐに気づくでしょう。これ以上、ご迷惑をおかけするわけには……」


 近くの惑星に降ろすのは簡単だ。しかしそうすれば、彼女はすぐに帝国に見つかってしまうだろう。


「でももう、準備資金はもらってしまったしな〜」


 そう言ってロイは頭を掻き出した。


「え?」


「だから、ちゃんと送り届けるよ。惑星メルリンクまで」


 彼の言葉を聞き、マリエルは耳を疑う。


「なに言ってるんです?危険です!きっと帝国から、私を連れもどそうと追っ手がやってきます!」


 しかしロイはひるまない。


「さっきのを見たろ?俺は強いんだ」


「でもゼンギアの操縦はからっきしだと聞きました」


「そう、だからマリエル。君がいてくれれば……俺にはキミが必要なんだ」


 マリエルは婚約破棄され、傷つき自信を失っていた。しかし耳元でそうささやかれた瞬間、ロイにときめいてしまう。彼女は生粋のチョロインであった。


「……はい」


 もちろん、ロイはただ「操縦の手助けをして欲しい」そう言いたかっただけなのだが……。


 ロイは決めた。帝国の手を逃れながらギャラクティック・グランプリに優勝し、マリエルをメルリンクまで送り届ける。そして彼女の国に保護してもらい、手にした賞金で悠々自適なスローライフを送るのだ。


 しかしロイは知らない。宇宙海賊の裏切り、魔王の逆襲。ライバルや配信者たちとの出会い、そして帝国騎士団の追跡。彼らの旅に、どれだけの苦難が待ち受けているのかを。

最後までお読みいただきありがとうございました!


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[一言] X上で見かけて拝読させていただきました。 私もロボットが好きでバンダナ01にはぎりぎり投稿していたところ、文字数やロボット要素と言うところで参考になる応募作が少なくて少し残念に感じていたとこ…
[良い点] 素晴らしいクオリティの短編で、面白いだけでなく創作者としても大変勉強になりました。 主人公が宇宙慣れしていない戦闘のプロというのも、バトルバランスが秀逸であると思いました。 追放された元勇…
[良い点]  勇者、宇宙が超融合! おまけにキャラも生き生きしてて面白かったです! 続きが気になる物語です!
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