幻の魚 エンゼルスフィッシュ
男が話しかけてきた。
親切心から声をかけたのだろうがはっきり言って邪魔でしかない。
本当に困った人。
こういう時はガムに任せておけばいい。
「どうやらニッシ―を見たと言っています」
現地のほら吹きおじさんと言ったところ。どれくらい吹っ掛けるのかしら。見ものだわ。
「ありがとうございます」
いつの間にかガムは釣り竿を手にしている。
どう言うこと? 頭が追い付かない。
「それじゃあな。頑張れよ」
男が去って行った。
ただの変なおじさんだった。冷やかしか何かかしら?
「ガム何してるの? 」
「これで釣れるそうです」
「何が? 」
「ニッシ―ですよ。ニッシー! 」
「ええ? まさか…… 」
伝説のニッシ―が釣れる? そんなはずないじゃない。
「ニッシ―って想像よりも小さいのね」
「いえ、バカでかいそうです」
「だったらこの竿でどうやって釣る訳? 」
「それが…… 分かりません」
分かるはずがない。ニッシーを甘く見てはダメ。
「ただ人間慣れしているのか寄ってくるそうです」
「あの変なおじさんが言ってた訳ね。はいはい」
いい加減な情報。嘘を教えて観光客を騙す詐欺師に違いない。
騙されるものですか!
「とにかくやってみましょう」
ガムは疑わない。そんなキャラだったかしら?
糸を垂らし一時間。
何の変化も起きない。本当にいるの?
どう考えてもおかしい。騙されている?
諦めかけたその時だった。
ガムの竿がしなる。
ヒット。
これは大物に違いない。
グググ!
五分十分と格闘。
足も手も疲れたと言うので代わることに。
さあ正体を現しなさい! ニッシー!
泡が吹き出し黒い影が鮮明になる。
まさか本当にニッシ―?
最後の抵抗を見せる影。こちらも最期の力を振り絞り引き上げる。
「これは…… 魚? 」
「トラウトみたいですね」
「トラウト? 」
「ええ川や湖にいる引きの強い魚です」
「何でも知っているのねガムは? 」
「これはその中でも貴重と言いますか幻の魚。オオタニトラウトです」
「あの…… 」
「どうしましたステーテル? 」
「ふざけ過ぎじゃない? 」
「はい? 」
「いえ…… なんでもないわ」
「うーん。美味しそう」
「食べるの? 」
「いえ。わたしはちょっと…… 」
「まったくガムったら。いつから幻の怪魚ハンターになったの? 」
「さあ。分かりません。では元に戻しましょうか。
「それがいいですね」
「お帰り! 」
ガムが元に戻るとともにトラウトも川に戻してやる。
元気よく泳いでいった。
ああ気持ち悪かった。ガムって不思議。ガムの意外な一面が見られた気がする。
さあ今度こそ。再び糸を垂らす。
だが結局この日は一匹のみ。ニッシーの姿はどこにも。
「帰りますか」
「うん」
もう言葉も出ない。今日は一体何だったのかしら。
日暮れまでにはどうにか隠れ家に戻る。
「疲れた! 」
「お疲れ様ですステーテル。また明日 」
この時後ろから着けられていることに気付かなかった。まさかこの後恐ろしい事態に陥るとは……
翌朝。
運命の日。
昨日と同じくニッシ―探し。
いつどこにとも現れるか分からない幻の生物を追い求める苦行。
昨日のおじさんの姿が見えない。
できたら詳しく教えてもらいたかった。
「ステーテル? 何か嫌な予感がするんだけど」
「気のせいですよ」
「そうかなあ? 」
「神経質なんですからステーテルは」
ふふふ
二人で笑いあう。
釣りはもういいので呼びかける。
「おーい! 」
「おーい! 」
ニッシ―が出てくるまで呼び続ける。
痺れを切らして姿を現すか? だがそんなに甘くはない。
姿を見せることなく一日が終わろうとしていた。
「帰りましょうか? 」
「そうね」
今日も成果なし。
嫌になってしまう。
まあこれが釣りの醍醐味なのだろうがただ待っているだけでは流石に退屈でしょうがない。
早くニッシ―が現れないかしら。
暗くなる前に隠れ家へ。
続く




