98.レイドバトルⅧ
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ちっぷす。
王都アウルムは、
地母龍の丁度頭の部分に位置しています。
あんまりうるさくしたら怒られちゃいますよ?
なう ろーでぃんぐ。。。
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「ククク……ハハハ! ウワーーーッハッハッハ!! 何だこれは!? 騒がしいと思いわざわざ様子を窺ってみれば、随分と愉快な事をやっておるではないか!」
広大な王都の領域を覆うまでに発達した積乱雲の空洞の中に、それは在った。
風、雨、霧、嵐、雷、雪、霙、雹──即ち、天より齎される災厄の化身。
風がうねり形を成すもの。
雨が渦巻き流れるもの。
雷鳴を轟かせるもの。
天を統べし、偉大なる龍。
天帝龍がそこに降臨していた。
「竜人だとぉ? あのような過去の遺物がなぜ今になって暴れている? ……ふむぅ、ちと過去ログを漁ってみるとするか。えぇと、どこを弄るのだったか……確かこれをこうして……ありゃりゃ? こっちだったか?」
「──ディアウス!!」
「ぬおわっ!?」
突然の乱入者にビビる龍の姿がそこにあった。
「ムッ! 人間だと!? 貴様、どうやってこの領域に入り込んだと言うのだ! ……んむ!? なんだその非常にいけ好かないマナは! けしからん! けしからんぞ! 我が領空を我が物顔で侵犯する、不埒な龍の如きマナの匂いを感じるぞ!」
「相変わらずきっしょいこと言ってやがりますよコイツ」
「同感ですね」
「──アイリス! 貴様はアイリスだな! ヒトの世に堕ちた哀れな龍よ! 余に挨拶もなしに一体どこで何をしていたというのだ!」
「なんであんたにそんなこと一々言わないといけないんですかね……。というか、ずっと見張ってたくせに白々しいこと言わないでほしいのですが」
「ディアウス貴方……」
「何を言っている! ここ数年は寝入っていたので何も見ておらぬぞ! 余は!」
「見ていたことは認めるのですね……というか、ディアウス! 任せていた運営の仕事はどうしたのですか!」
「ムッ! そこの矮小な使い魔の如きはジョウガか! 安心せよ! あんな些事は放っておいても片が付くであろうことを確信してな! 全て放り捨ててきてやったわ!」
「…………アイリス」
「はい」
【虹の彼方に が発動しました。】
「痛っ! 何をするか!? ええい、その豆鉄砲を打つのを止めよ!!」
「お姉さん、コイツマジで処す? 処します?」
「ディアウス。仕事の放棄は百歩譲って許しましょう。ですが、これは何の真似ですか」
「痛いっ! ム、何の真似とはどういう意味だ! 余は自らに課した使命を果たそうとしているまでのこと!」
「貴方の使命とは、大勢の無辜の民がいる場所に、銃口を向けることなのですか?」
ジョウガの言葉を聞いた天の龍は、その様相を一変させた。
紫電が黒雲を駆け巡り、蜘蛛の巣のような雷の線を描き出す。
「ほう? ジョウガ貴様、面白いことを言うな? 余の使命は今更言うまでもなく、ヒトに龍の畏怖を刻み付けることだ。無辜かどうかなど関係はない。目先の恐怖に囚われがちな愚かなヒトどもが過ちを犯さぬように、余自らが天の威光を知らしめてやろうというのだ」
これこそが天帝龍の至上命令。
始まりの龍の機能は決して揺らぐことはない。
「ジョウガ、貴様は管理者故にヒトに寄り過ぎているのは分かるがな。我ら龍にとってはヒトの営みなぞ、所詮は広大な時の流れの中での、取るに足らぬ出来事の一つでしかない。そんなものを一々気に掛けていてはキリがないというものよ。リソースが幾つあっても足りぬのだ」
「……この地は地母龍の守護がある、特別な場所なのですよ。それは貴方と言えど分かっているでしょう」
「ガイアが守っているからどうだというのだ。余があやつを慮ってやらねばならぬ理由が何処にある?」
「……どうあっても考えを改める気がないと言うのですね、ディアウス」
「余が神意を変えたことがこれまでに一度でもあったか?」
バチリと音を立ててディアウスの周囲に雷が奔った。
それはまるで威嚇行動のように。
天の龍の威容と比べるべくもなく、蝙蝠のように小さい躯体のままのジョウガは、しかし一切怯むことなく対峙する。
「はーい。お姉さん、そこまでです。コイツが天上天下唯我独尊なのは今に始まったことじゃないでしょう。ここは私に任せてください」
「アイリス……」
「ムッ! アイリス! 貴様も余に意見するというか! よいぞ! 申してみよ! ただし、余が神意を翻すようなことがあると思うでないぞっ!」
「このまま何もしないでいてくれたら、私と一緒に空を飛ぶ権利を一日だけ差し上げますよ」
「──真か?」
「コイツ……」
マジでシスコン……と呟いたジョウガの口を塞いだアイリスは、そのままディアウスと交渉を続ける。
「本当ですよ。約束します」
「ム。ムムム。……一日では全く足りぬ! 最低百年は貰わなければ割に合わぬぞ!」
「寿命迎えちゃってますよ私。人のスケールで考えてくれませんか?」
「何を言う! 貴様の巫体は特別製なのだから、生きようと思えば幾らでも生きることができるであろうが! そもそも、その脆弱なヒトの姿などいつでも捨て去ることが──」
「──それ以上言ったら、本気であなたを軽蔑しますよ。ディアウス」
その一瞬、世界が色を失った。
アルルの静かな怒りに呼応して、色彩という概念は容易に霧散する。
それが彼女の権能であり、この世界に於いて任されている機能の一端であった。
天の龍の体が硬直したかのように動きを止める。
「……やめよ! このような駄々でシステムを滅茶苦茶にされては敵わん!」
「私は今のこの姿に誇りを持っているのです。それを侮辱するような発言は、たとえ相手があなたであっても許しはしません」
「……フン! 余は謝らぬぞ! 貴様は一時の夢を見ているだけに過ぎぬ! いつか覚める夢ならば、早めに終わらせてやった方が慈悲深いというものだ!」
「構いませんよ、一時の夢で。この世界だって、いつかは終わってしまうものでしょう?」
アルルの言葉には、どこか達観したような響きがあった。
龍の中で一番人と接した時間が長い彼女は、龍にはない死生観というものについて、何よりも理解していた。
「……一年だ! これ以上は罷り通らぬ!」
「──分かりました。ではそれでお願いします」
「待ちなさい、アイリス」
ディアウスの要求を受け入れたアルルに、ジョウガが待ったを掛けた。
「お姉さん、大丈夫ですよ。たった一年ですから」
「いえ、ここはもっと引き出すべきです。──ディアウス! うら若き少女の時を一年も奪おうと言うのです。貴方はもう少し誠意を見せるべきではありませんか?」
「……ムゥ。ジョウガ貴様、余に何を求めるか」
「天の龍痣を貸しなさい」
「んなっ!?」
「おおっ、お姉さんグッドアイデアです」
「何を馬鹿なことを! 貴様、自分が言っていることが分かっておるのか!?」
「勿論分かっていますよ。ほんの少し貸してもらうだけです。継承者を作るわけではないので、用が済んだらお返しします」
「リソース目当てだとしても貸す訳がなかろう! 余が自分の物を他に与えることを如何に嫌うか、貴様たちは知っておるだろうが!」
「アイリスのためだとしても、ですか」
「ムッ、ムムゥッ……! ……ダメだ! 余のオーヴムはダメ! ダメなものはダメ! 絶対ダメ! これは譲れぬぞ!」
「そうですか。では代わりにこうしましょう。──貴方の恩寵 をこの王都の民に授けてください」
「……恩寵だとぉ?」
「あっ、これ知ってます。ドアインザフェイスってやつです」
ジョウガの再びの要求に、ディアウスは怪訝な顔をして問い返した。
「そんなもの、合っても無くても変わらぬではないか」
「貴方からすれば些細なものでしょうが、人にとっては大きな力となるのですよ」
「……ムゥ。それくらいならば……いや、でもなぁ~……余の物を与えることに変わりはないしなぁ~……」
「あんたの物じゃないでしょうに。恩寵は自然集約されたリソースを使うんですから、許可さえ出せばいいだけでしょう」
「でも余の物だもん! 余が許可を出さなければ使えないなら余のなんだもん!」
「コイツマジでさぁ……」
「こういうところ見るのホントキッツいです……早く帰りたい……」
ヤダヤダと駄々をこねる天の龍様。
ジョウガが頭を抱える横でアルルは呆れた様子でため息を吐いた。
「ムッ! 何やら下の様子が面白いことになっておるぞ!」
ゴロゴロと暴れていた龍様が、突然興味の対象を他に移した。
「下って、私たちには何も見えませんよ。見えてるんなら映像リンクしてくれませんか?」
「何ぃ? 全くぅ、アイリスは仕方のない奴よのう。こういうのはジョウガの得意分野であろうに」
「シスコンキモ…… (私にリソースが無いのは見て取れるでしょうに……)」
「お姉さん多分本音と建前が逆に出てますよ」
「えーっと、これをこうして……よし! これで見えるようになったであろう?」
ジョウガとアルルの目の前の空間に、立体的な映像が浮かび上がった。
戦場となっているシラーの映像だった。
【憤怒の赤炎 が発動しました。】
「えっ!?」
「龍技!?」
その映像には、今まさに龍技を放たんとする竜人の姿が映し出されていた。
「ふん。赤竜のブレスか。竜人と言えば、これといったブレスを持たぬ代わりに、あらゆるドラゴンスキルを扱うことができる種族であったと記憶していたのだがな」
「なぜ竜人が龍技を使えているのです!?」
「……スヴァローグさんじゃないですか? 考えられるのは、それくらいしかありません」
「ははぁ、なるほど。あやつが裏で糸を引いておるのだな? だとするとジョウガ貴様、その姿はスヴァローグにやられたのか。何とも情けない話よのう」
「うるさいですね! 権能の相性上どうにもならないんですよ!」
「ちょっと私、助けに行ってきますね。流石にあれはヤバすぎるので」
そう言ってアルルが転移しようとした時、ディアウスがアルルを呼び止めた。
「待て。人と竜の戦いに貴様が介入するのは無粋というものだろう」
「今の私は人なんですから関係ありませんよ」
「いいや違う。貴様は龍だ、アイリス。貴様がこれ以上下々の者に手を貸すことは余が許さん」
紫電が弾けた。
本気でディアウスはアルルを止めようとしている。
「それに、あの程度軽くいなす事ができないのであれば、余の恩寵を与える資格など無い。黙って事の成り行きを見守っているがよい」
*** *** ***
何度目かの跳躍を経て、ようやく戦場が上から見渡せる場所まで辿り着いた。
「もうすぐ着くぞ。皆無事そうか?」
「煙が酷くてよく見えない。けど、打ち合う音が聞こえるから皆まだ戦ってると思う」
レイルの背越しに様子を伺う。
……改めて、眼下に広がる惨状を目の当たりにして絶句してしまう。
地区の一帯が倒壊した建物で埋め尽くされている。
これだけの被害が、たった一つの技で齎された結果だというのは、未だ以って信じ難い。
……不謹慎な考えだけど、私では、一撃でこれだけの威力を出すことは難しいだろう。
さっきの出来事を思い出す。
ホシザキの溶岩の肉体──地下にまで伸ばされた溶岩の層を消し飛ばすのに、一番足りなかったものは威力だ。
広大な範囲を攻撃するのに比例して、魔術の威力がどうしても落ちてしまう。
あの範囲の溶岩を消し飛ばすほどの威力を捻出できるような式が、どうしても組み立てられそうになかった。
けれど──さっきの光景を見て、ふと思いついた。
奴の攻撃を、私の魔術に活かせないだろうか? と。
魔力装甲に光線が当たった瞬間に気付いたことがある。
あれは魔力を伴った攻撃ではなかった。
この世界のあらゆる生物は魔力を用いて術理を扱う。
だが、あの光線からは魔力らしきものが一切感じ取られなかった。
つまり奴の攻撃の正体は……おそらく龍気だ。
──『迷宮の龍気はそういう障害物として機能しているだけですよ。指向性を持たされているんです。対してこの龍気はなんの指向性を持たされてもいない、純粋な龍気です』
アルルの言っていたことがどうしても頭に引っ掛かっていた。
龍気の、指向性。
それがヒントだ。
私はいくらでも地の龍気を引き出せる。
それを元手に龍気変換器を回して魔力を生み出している。
魔力放射で空を飛ぶという、あまりにも消費が激しい芸当ができるのもこれのおかげだ。
……もしも、龍気変換器を回さずとも、龍気を扱えるのだとしたら──……?
もしかしたら竜という種全般が、龍気を自由自在に扱えるのかもしれない。
そう考えると、奴らがいかに強大な力を持った生物なのかがよく分かる。
さっきのありえない貫通威力を誇る光線だって、龍気をそのまま使った攻撃なのだとしたら、説明が付く。
けれど、指向性を与えれば、そんなことが本当に可能なのだろうか?
さっきから片手でどうにかできないか試してはいるものの、そんな簡単にいくはずがなかった。
……ジョウガに聞いておくべきだったかもしれないという後悔が、今更になって胸中に湧き上がる。
「ジェーン!」
「なんだ!?」
戦場へと続く最後の跳躍を控えたレイルが、何かを感じ取ったかのように声を上げた。
まだ音しか感じ取れない私には、何が起こっているのかは分からない。
「先に行ってくれ! 間に合わない!」
「……!」
何が、とか今更問い返すような関係ではない。
レイルがそう言うからには、私が先に出て何とかしなくちゃいけない場面になっているってことだ。
全速力で飛翔して、戦場へと飛び込んだ。
そこには──……、
【憤怒の赤炎 が発動しました。】
今まさに、危機的状況が訪れていた。
大口を開けて何かを繰り出そうとしている竜人と、それを取り囲むように展開している四人の騎士の姿。
間違いなくそれを撃たせてはいけない。
背筋がぞわりと粟立つ気配を──……いや、この思考はいらない。
【エクストラスキル∴マルチプロセッサ:オクタルプロセシング 発動します。】
もうさっきので分かったはずだ。マイナス思考は捨てろ。
どう対応するべきか、それだけを考えればいい。
簡単だ。すぐに答えが出た。
最大威力をぶつけて相殺しろ。
「火、発して、燃えよ、燃えよ、燃えよ、燃えよ!」
私が放てる最大威力を引き出すための詠唱。
八小節までの圧縮詠唱言語の組み合わせの中で、最も高火力を叩き出せる組み合わせ。
それはそもそも単純に組み合わせればいいというものではなかった。
再帰呼出を組み込み、その魔術を扱うために必要な演算を極限まで効率化した上で並列処理を重ねる。
たった一瞬の詠唱のためにそこまでして、その魔術式はようやく一つの形を成す。
即ち──超級魔術。
竜人の顎から禍々しく赤い炎が放たれた。
多分、食らった瞬間に死が確定するような、そういう類のもの。
凄まじい勢いで騎士たちへ迫る極大の火球目掛け、私は超級魔術式を起動させた。
「── 蒼焔、灰燼と為せ!!」
*** *** ***
赤炎と蒼焔が衝突し、拮抗した状態で混じり合う。
互いに互いを喰らい尽くそうと、轟々と猛り狂いながら、互いの色を飲み込み、混ざり合い、反発しあう。
「──ほう。魔術でブレスと渡り合っておるのか? 何とも憎らしい。ヒトの考えた技と龍の技がぶつかって拮抗するなど、本来あってはならぬことだぞ」
ディアウスが楽しげに語る中、アルルとジョウガは気が気ではなかった。
ジルアの使う魔術が、なぜ龍技とぶつかり合って拮抗できているのか、両者ともに理解できていないからだ。
「魔術は言ってしまえば龍技の劣化だ。だが、それは燃料が弱いだけであって、出力だけならば龍技に届くことはある。相当の技巧と、それ相応の魔力は必要になるだろうがな」
「……アイリス。あの子の、魔力の源泉は何なのか分かりますか? 間近で見ていた私でも、なぜあれほどの魔術を扱えるだけの魔力を持っているのか理解できなかったのです」
「お姉さんが分からないなら、私にだって分からないですよ。ジルアが戦うところすら今日初めて見たんですから……」
二人が会話を交わす間も、赤と蒼の炎はせめぎ合いを続けていた。
片や、着火したものを燃やし尽くすまで消えない、赤竜の劫火。
片や、人の叡智の結晶である、超級魔術の蒼焔。
両者の力はほぼ拮抗していた。
竜人の赤炎が無尽蔵に吐き出されるのに対して、ジルアの蒼焔もまた無尽蔵。
いつ止まるとも知れぬ、消耗戦。
……いや、確実に違う点が一つだけあった。
「惜しむらくはやはり種族:ヒトであることだな。龍気変換器を介する以上、酷使すれば焼け付いて壊れてしまう」
「ジルア……!」
映し出されたジルアの顔を見て、アルルが悲痛の声を上げた。
無理をしている代償がその身体に現れ始めていたのだ。
血走った瞳から赤い雫が溢れて頬を伝って、苦痛に耐えるように歯を食いしばり、全身からは汗が吹き出していた。
それでも、ジルアは魔術を放つことを止めなかった。
「──助けに行きます! 見てられません!」
「許さんと言った。黙って見ていろ」
「これを黙って見ていられるようなら、私は人になってないんですよ!」
ディアウスの制止を振り切って、アルルは親友の下へ転移しようとした。
けれど、それを止めたのはジョウガだった。
「待ちなさいアイリス」
「お姉さんまで何言ってるんですか! このままじゃジルアが──」
「あの子を助けるのは、今の貴方の役目ではありません」
──ジルアと竜人の拮抗状態が崩れたのは、両者の力量に寄るものではなかった。
赤炎を吐く竜人に特攻を掛けた男の姿が、二つ。
色を失ったような白髪の大男と、くすんだ金髪をした騎士鎧の男。
彼らが竜人の心臓目掛けて、熱波が身体を焼くのも顧みないとばかりに攻撃を仕掛けた。
寸前でそれに気付いた竜人は赤炎を吐くのを止め、両腕で差し迫った刃を受け止めた。
均衡を崩した蒼焔が赤炎を浄化するように飲み込み、竜人へと殺到する。
男達はそれを察して急制動を行い、蒼焔は竜人だけを飲み込んだ。
それはあまりにも一瞬の出来事だった。
「きっと、あの二人なら大丈夫です。私が保証します」
「……でも、見ていることしかできないのは、もどかしいです」
「アイリス。貴様、いささか龍気の消費が過ぎているのを自覚しておるか? そのままだと巫体の維持すら危ういのだぞ」
「……ディアウスの言う通りです。これ以上の無茶は控えた方が良いでしょう」
二機にそう諭され、アルルは拗ねたように顔を反らした。
「人はピンチの時にこそ真価を発揮するものです。何かこう不思議なパワーできっと大丈夫になるはずなのです」
「不思議なパワーなどというパラメータは存在せぬわ。いいから大人しくしておれ」
「……このままじっと待つなんて、耐えられないですよ」
「きっと、貴方が必要になる場面は来るはずです。それまで回復に努めるのがいいでしょう」
「抜かせジョウガ。無茶をしているのは貴様もであろう? その龍気の回復も望めないような身体でいつまで表側に居座る気だ。さっさと退去せよ」
「お、お姉さん!? 身体持たないんですか!?」
「……大丈夫です、アイリス。貴方とディアウスだけにはさせたくありませんので、気合で維持してみせます」
「気合というパラメータも存在せんのだがなぁ」
映し出された戦況が変化する。
竜人と向かい合うレイルと精鋭の騎士たち。
そしてホシザキと向き合うジルアとスヴェン。
その周囲には続々と王国騎士が集まって来ていた。
「ともあれ、龍技は凌いだのです。約束通り貴方の恩寵を開放しなさい」
「…………」
「ちょっと?」
「別にぃ? 龍技を凌いだら恩寵を開放するとは約束しておらんしぃ?」
「本気で怒りますよあんた」
「痛っ!? やめよ!? 地味に痛いっ! こんなことでマナを消費するでないわっ!」
「じゃあさっさと恩寵の許可を出してくださいよ」
「……あの、龍技を防いだヒトの女。あやつの事になると貴様は我を忘れたが如く冷静さを欠きおる。あやつは貴様の何なのだ?」
「何って、私の大切な人です」
アルルは即答した。
分かり切ったことであり、当然の答えだった。
だがその答えを聞いたディアウスは、目を見開いて驚愕した。
「たいっ!? き、貴様の大切なヒトというのはあの賊子ではなかったのか!? いや、その前にあのヒトは女であるぞ!?」
「??? 大切な人なんて何人居たっていいでしょう? そこに女かどうかなんて関係あります?」
「な、な……! ジョ、ジョウガ!! いつの間にアイリスはこんな俗物に育ってしまったのだ!?」
「多分貴方たちは色々と勘違いをしていますよ。……それよりもディアウス、貴方はいい加減にしなさい。このまま許可を出さないと言うのであれば、アイリスとの約束も反故になりますよ?」
「な、何を言う! 許可を出さないとは言っておらぬぞ!」
「じゃさっさと出してくださいよ」
白けたような瞳を二対向けられ、ディアウスはたじろいだ。
そして何かを考え込むようなそぶりを見せた後、ポツリと呟いた。
「あの女が戦っている敵は、炎の龍痣を持っておるな?」
「ええそうです。スヴァローグさんに操られているβテスターとのことで。なので、少しでもジルアが有利になるように恩寵で助けてあげてほしいのです」
「……βテスター。そう、か。なるほど。そういう事か。フム……ウム! 決めたぞ!」
「よかったです。じゃあさっさと──」
「炎の龍痣を持つβテスターをあの女が倒したのならば、余の天の恩寵を与えることとする!」
「……はぁっ!?」
レイドバトル編を10話までに収めたく、一話ごとの文字数が上がっております…。
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