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backup  作者: 黒い映像
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85.女の敵は女Ⅱ

制限していた魔力を解放し、溢れ出した魔力で以って溶岩弾を防御。

そのまま迫りくる怪物には──渾身の右ストレートを叩き込む!


「オラァッ!!」

「グォッ!?」


殴った感触は岩を殴りつけたような硬さだったが、身に纏う魔力の鎧によって私には何の反動もない。

しかも、相手に初めてダメージを通せた手応えすらあった。


(やっぱり、物理攻撃の方が通じるのか)


どう見ても物理が効きそうにない相手だが、こういう相手にこそ有効な場合があった。

変質した身体を持つ者の中には、物理への耐性ではなく無効化してくるタイプが存在する。

例えばゴーストやアンデッド系モンスター。

幽体という物理的な干渉が出来ない肉体を持っている彼らには、物理的な接触が無効化され、魔術などの特殊攻撃しか通用しない。

……と思われがちだが、今私がやったように、魔力を伴っての物理接触などは可能である。

単純に固いから効かない、という耐性は厄介だが、無効化能力持ちならば、その無効化される理由を取り払ってしまえば、逆に有効打になりうる。

形無き敵というものは、攻略手段を見つけてしまえば、肉体を持つ者よりも遥かに対処がしやすい。


(まぁ、だからと言ってこんな簡単に攻撃を通させてくれないだろうけど……!)


今のは完全に相手が私を油断していたから通ったようなものだ。

恐らく次からは一切の隙を見せない。

だから、今、このチャンスを逃してはいけない……!


並列詠唱(パラレルマジック)多重起動(マルチアップ)反復処理(リピート)!」


設置しておいた魔術陣を複製し、複数展開。

事前に放った水刃波(アクアブレード)を同時に発動させる。

──疑似的上級魔術(ブートレグ)だ。


水、湧きて、(メイル)溢れ、(シュ)迸り、激流となる(トローム)!!」


円状に複製された魔術陣から一斉に水流が放たれる。

圧倒的な質量で以って溶岩の怪物を呑み込み押し流す。

──まだだ、更に追撃。


(アース) () 隆起し(シリアライズ) () 割れ断つ(クラック)


舗装された道路を押し上げて地面が盛り上がり、亀裂が奔る。

ぐぱりと大きく口を開くように割れた大地が、怪物と魔術陣ごと飲み込んでゆく。

そのまま裂けた断面が閉じ、まるで巨大な生物が喰らい尽くしたかのように何も残らない。

後に残るのは静寂。


「……これで終わってくれりゃ話は早いけど、まぁそんな訳ないよな」


フラグですらない。

そもそもこの程度でやられてくれるんなら、帝国との戦いで騎士団はこんなに苦労しちゃいないんだ。


……予想通り、敵の反応は直ぐに返ってきた。


「!」


閉じ込めた後の地面が赤く発光して、そのままドロドロと溶けてゆく。

赤熱化した地面は溶岩のように形を変え、その中から──人型に戻った女が現れた。

私はそれを見て──失敗した、と悟った。


「──素晴らしい! いいわ、あなた! 何の特徴も無いNPC(ゴミ)と思っていたけれど……その認識は誤っていたと認めましょう!」


満面の笑み。

心の底からの喜びが滲む声色だった。

何がトリガーになってしまったかは知らないが、あの女の怒りは鳴りを潜めてしまった。


「興味深い。なぜあなたはそんなに大量の魔力を扱える? いえ、違うわね。その魔力はどこから来ているのかしら?」

「──……」

「それに、火と水の上級魔術を扱えるのも面白いわ。普通は無理なのよ、一人で二つ以上の属性の上級魔術を展開するなんて。これは、個々人に与えられた主属性というパラメータで設定されている以上、絶対なの」


知的好奇心に駆られた子供のように、滔々と語る。

正直、めちゃくちゃ気味が悪い。

何だコイツ。

さっきまでのキレやすいヒステリックババアみたいな雰囲気はどこに消えたんだよ。


「私が考察するに、無理やり術式として成立させたように見えたわ。中級魔術を複数展開して、それを強引に上級魔術まで昇華させている。──ええ、非常に面白い試みよ! これまでに見た事のないやり方。恐らく王国で開発された最新技術だと思うのだけれど、どうかしら?」


正解だよクソッたれが。

……コイツは、研究者だ。兵士ではなく、裏方の人間。

帝国の人間でありながら、一目見ただけでその構造を看破するほど魔術に明るく、狂った人体実験に関わっているほどの、賢人。


「それでもやっぱり異様なのはその魔力量ね。個人に与えられるそれを遥かに凌駕して、体表に溢れ出しているほど。血統による能力活性だけでは説明がつかないわ。恐らく何か別の方法でどこかから魔力を引き出しているのね」


何もかもを暴かれそうな不快感。

これ以上、コイツに考える隙を与えさせてはいけない。

一撃で決めなければダメだ。


「非常に面白いわ、王女様。あなたを研究対象として認めましょう」




*** *** ***




『──ジェーンちゃん、確かに強いよ。だけど相手も強い。炎の龍痣(ドラグマ)の特性からして、時間を掛けるだけ不利になる』

「ですね。やるなら一撃で仕留めないと」

『うん。(リっ)ちゃんがレイルっちに付いてくれるなら、ウチがジェーンちゃんの方に付くよ。今のウチはアドバイスしかできないけど、それでもないよりはマシだ』

「分かった。ジョーガちゃん、ジェーンを頼む」


(かみ)様であるジョーガちゃんが付いてくれるなら、より安全だろう。

ジェーンなら、アドバイスを貰うだけで、容易く攻略法を見つけられるはずだ。


『りょーかい★ それと(リっ)ちゃん。レイド(・・・)が始まるんなら、ウチたちには別の仕事があるから。忘れないでね?』

「あー、久しぶりすぎて上手く出来るかちょっと不安ですね……」

「レイド……? 何かすることがあるのか?」

「後のお楽しみってやつです。今は自分の傷を癒すことに集中してくださいね」

「ご、ごめん……」


りっちゃんの当たりが強い……。

ジェーンの親友というのだから、仲良くしていきたいんだけど……。


『あ、そうだ。ミーシャとユナ! レイルっち助けてくれてありがとね。多分今からここは戦場になるから、避難した方がいいんだけどー……、(リっ)ちゃん飛ばして上げられる?』

「まぁ、ちょっとくらいならジルアから目を離しても大丈夫でしょう。安全なのは王城の大広間ですかね。王都の外に飛ばしてもいいんですが、戻ってくるの大変でしょうし」

「あ、えと、待ってください!」


ミーシャさんが慌てて止めた。


「飛ばすというのが何を指してるのか分かりませんが、多分りっちゃんさんの力的なものを消費するんですよね? なら、私達は自力で避難します。その力はレイルさんに全部使ってあげてください」


見れば、ユナも同意するように首を縦に振っている。


「ミーシャさん待ってくれ! 今王都では竜が暴れているんじゃ──」

「そんなこと分かっています!」


ミーシャさんが叫んで感情の昂ぶりを露わにした。

それは、初めて見る彼女の表情。


「ギルドからこっちに避難してくるまで、致命傷を負って助けられない人だってたくさん見ました。……それなのに私だけ特別扱いは、ダメだと思うんです」

「ミーシャさん……」

「……それに、正直言って展開に付いていけてないんです。レイルさん、さっきまであんなに酷い怪我をしてたのに……すぐに戦わないといけないなんて、そんなの絶対おかしいですよ」

「……俺は──」

「でも、止めちゃいけないんだって分かります。レイルさんじゃなきゃダメなんだって……なら、私は、そんなあなたの邪魔をしたくないんです」


……本当に優しい人だ。

その言葉に胸が熱くなる。


「……あの人がジェーンさんなんですよね?」


ミーシャさんが空を見上げた。


「……はい」


空中に浮いて、敵と攻撃の応酬を繰り広げていたジェーンを垣間見た。

華麗な金髪を靡かせながら戦う、この国のお姫様。


──ずっと、姿を隠してきた、俺のパーティメンバー。


「ずっと、あの人と、冒険をしてきたんですよね」

「──はい。俺の、大切な相棒なんです」

「……ぃなぁ……」

「え?」


小さく呟かれた言葉は、よく聞き取れなかった。

空を見上げたままのミーシャさんの顔は伺えない。


「──いえ、何でもありません。私達は邪魔にならないようにもう行きます。……レイルさん、絶対に勝って戻って来てくださいね!」


振り返ったミーシャさんは、笑顔でそう言ってくれた。


「あぁ、必ず!」




「うーわ……ヒロインレベルめっちゃ高くないですか? ジルアのヒロインレベルまだ勝ってます?」

『だーよねぇ……でもさぁ、これって負けヒ──』

「ジョーガちゃんそれ言っちゃダメです!」

読了いただき、ありがとうございます。

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