表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
backup  作者: 黒い映像
82/126

81.この先は地獄です。セーブしていきますか?

☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡


              ちっぷす。


       月は黒淵龍の瞳です。

       闇夜に潜むもの全てを見守っているのです。

       月が出て無い夜はサボってるとか言っちゃダメですよ。


                     なう ろーでぃんぐ。。。


☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡


*** *** ***


*** ***


***


空中に浮いているような感覚が全身を包んでいる。

理論の分からない不思議な力に身を任せるのは不安が大きいけど、アルルの力だから、信頼はしてる。


「目を開けても大丈夫ですよ」


アルルの声で、瞼を開く。

そこは──……全てが真っ白な空間の中だった。

……どこ?


「いや、本当にどこだよここ」

「不思議空間です」

「は?」

「不思議空間です。いわゆるメンタルとタイムのルーム」

「いわゆられても分かんねえよ!」


何だその謎ワードは。


「シラーに飛んだんじゃなかったのか?」

「飛んだ先に敵が居たらいきなり戦闘が始まってしまうかもしれません。なので挑む前に心の準備の時間が必要かと思いまして。そこで移動したのがこの不思議空間。この空間では時間が流れないのです」

「さらっととんでもないこと言いやがるなコイツ……」


何なんだ時間が流れない空間て。

そんな理解の範疇を超えたもんをホイホイ投げつけてくるんじゃねえ。


「別に心の準備なんか必要ない。準備も覚悟も、もう十分だ」

「なんと。さすがですね王女様」

「なんなら出鼻を挫かれて調子が狂うんだけど……──っていうか、オマエ」

「何です?」

「名前」

「え?」

「だから、名前。さっきは私の名前、呼び捨てにしてただろ。何で戻した?」

「……さっきは何だかテンションが上がってたのです。冷静に考えると王女様は王女様のままでいいかなと思いました」

「なんでだよ! いいだろ名前で呼べよ! 絶対そっちの方がいいから!」

「圧が強いぃ~」


あれだけ頑なに私の名前を呼ばなかったくせに、さっきはすんなりと口にしてて実はすごく嬉しかった。

そんなことを言っている場合じゃなかったのでさっきはスルーしてたんだけど……。


「ふ、ふんっ、勘違いしないでください。親友と呼ばれたのが嬉しくて、つい名前で呼んでしまっただけなんですからね」

「何だその下手くそなツンデレみたいなセリフは……」

「……」

「……いや、恥ずかしくなるぐらいなら最初からやるな!? こっちまで恥ずかしくなってくるだろ!」


コイツなんかテンションおかしいぞ……!

普段からヘンなこと言ってるけど、妙にハイになっている気がする……。


「ふぅ。慣れない事はするものじゃありませんね。ジルアは常にツンツンデレデレしてるからすごいです」

「してない! 絶対にしてないからなっ! 普通だからっ!」


***


「話は変わるんですが、ストラスさん滅茶苦茶セクシーな格好じゃなかったですか?」

「本当に話の方向を180度転換したな……。いや、私も思ってたけど」


なぜか姉さんは上着だけを着た大変ファッショナブルな姿で現れた。

オーバーサイズのものだったので下まで隠れてはいたけど、それでも普段の姉さんが着用するような服の露出度を大幅に超えていた。


「緊急事態だったし、着るものも着れなかったんじゃないかな」

「あの上着、恐らくスヴェンさんの物ですね。つまり彼シャツとか彼ジャケという概念ですよ。知ってますかジルア?」

「知らん……何それ」

「男女の仲にある彼の衣服を羽織ることです。あたかも彼に抱かれているかのような幸福感を得られるんですよ」

「抱かっ!?」


いきなり何言い出してるんだコイツは!?


「それに彼の方も独占欲が湧いてきたりするらしいのです。ウィンウィンの関係ってやつですね。私もお父さんの服をよく着て悦に浸ってたりするのです」

「やめろやめろ! そんなセンシティブな話すんな!」

「最近は全くお父さんの匂いがしなくなってきたのでそろそろ帰ってきてほしいのですが……。ジルアはやったことないんですか? 同じ部屋で住んでたのですからありそうですけど」

「あるわけ──ないだろ……!」

「謎の間がありましたよ」


……匂いを嗅いだりは……したけど……!


「これは秘密なのですが、次のレディースファッショントレンドとして、メンズアイテムをあえて身に着けるボーイフレンドスタイルが流行ると予測しているのです。なのでストラスさんが先陣を切ったのは予想外でした。ストラスさんがあの恰好で衆目に付けば付くほど、あのファッションはトレンドとして世間に浸透していくでしょうね」

「……オマエ、ファッションとか興味あったのか?」

「私は人の作る文化全般に非常に関心があるのですよ。それはもう暇さえあればあらゆる本を読み漁っているぐらいです」

「そういや日ごとにジャンルの違う本を読んでたよな」

「はい。人として生きるお勉強は欠かせませんので」


アルルが、そんなことを言い出した。

コイツは何もかもが突然だけど、今のは準備していたかのような発言だった。

人として生きる──つまり、それは。

こいつは元々──、


「……別に、オマエが何であろうと、接する態度は変わらないよ」

「知ってます。だけど、言いたくなっちゃったのです。……ジルアが、親友だと言ってくれたから」


アルルが真正面から私を見つめて微笑んでいた。

コイツ、こんな顔もできたのか……。


「ありがとうございます」

「……感謝されるようなことなんか何もしてないぞ。むしろ私が感謝するべきだ。こんな、一方的に力を貸してもらうなんて」

「好きな人を助けたいと思うのは当然のことですよ。ジルアだって同じでしょう?」

「……そう、だな」


──『好きな人の力になりたいと思うのは、普通の事でしょう?』

……レネグの言葉が脳裏を過った。


──レネグ・イドリース。

私を助けてくれた騎士であり、……既に帝国の手に堕ちてしまっていた。

心と身体を奪われてしまった彼も、何とかして助けてやりたい。


「私はジルアの事が好きだから助けたいのです。具体的には人でいうと二番目に好きですね。一番はお父さんなのです」

「おと──……いや、えっと、何かえらい高評価だな私」


恋愛的に好きな人の次に置かれてるのって、どう解釈すればいいんだ……?

というか、何か今日はえらく人に好きだと告白されるな……。


「ええ。私の初めての人間の友達ですから、ジルアは」

「……こっちだって同じようなもんだよ」


友達なんて枠組みの存在が、私のような人間にできるとは思っていなかったから。

アルルが居てくれたおかげで、助けられたことも学んだこともたくさんある。


「なんと。では私達は両想いということですね」

「んん……なんかその言い方は語弊を招くというか……」

「ジルアが私を想ってくれている気持ち、ちゃんと感じていますからね」

「……恥ずかしいからやめろ」

「え。ジルアは私のこと嫌いですか?」

「なんでそうなる!?」

「じゃあ好きですか?」

「……好きだって」

「デレ頂きましたー」

「オマエなぁっ!!」


***


「……さて、私達のラブラブさを確認し合ったところで、そろそろ王女様の本命のレイルさんを助けに行きますか」

「ラブラブとか言うな。本命とか言うな」

「レイルさんにうつつを抜かして私の事を捨てないでくださいね?」

「あーもう分かったからさっさと行け!」


これ以上コイツと話してたらシリアスムードが台無しになる……!


「……ジルア。一つだけ約束してください」


アルルと手を繋ぐ。

再び身体がふわりと宙に浮かび上がるような感覚がした。


「なんだよ」

「本当に危なそうな敵だったら、私が戦います。ジルアは手を出しちゃダメですよ?」


……結局のところ、こんな場所に連れてきて言いたかったのはこのことだったんだろう。

皆、私の事を心配してくれているから、そう言ってくれているんだということは分かってる。

でも、私は。


「……時と場合にもよるけど、そうするよ」

「うわあ。すごく曖昧な返事です」




*** *** ***




そうして、私は見た。

燃え盛る廃屋。

吼える赤髪の女。

誰かを庇って傷だらけになっている、アイツを。


「──レイル」


思わず呟いた言葉は、どうやらアイツの耳に届いたようで。

振り向いたレイルを見て、私は──……、


「……大丈夫、まだ生きてます。敵はあの女の人一人だけですね。あの右手の痣、恐らく炎の──」


この場に立った瞬間に理解した。


レイルを。

その女を。

この光景を一目見て。


私の。

私の、役割を。


「アルルは──レイルを頼む」

「はい。……えっ!? 私がレイルさんの方ですか!?」


珍しくアルルが困惑しているようだった。

だって、私の役割はレイルを癒してあげることなんかじゃない。


泣きそうな目でこっちに来るなと訴えかけてるアイツの前に立つ。

燃える廃屋を背負う、真っ赤な長髪の女を、見据える。


──私の役割は、きっと始めから決まっていた。

読了いただき、ありがとうございます。

ブクマ・評価・励ましの感想などを頂けたら作者は飛び上がるほど喜びます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ