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backup  作者: 黒い映像
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55.乙女達のじゃれ合い

部屋に戻るとアルルが下着一丁になって私のベッドに転がっていた。


「何してんだアルルお前……」

「何ってドレスが窮屈だったんですよ。ほら、王女様もさっさと私の服を脱いでください」

「わっ!? じ、自分で脱ぐってば!」


猫のように俊敏な動きで背後を取られたかと思うと、あっという間に着てた服を剥ぎ取られてしまった……。


「あっ、ちょっ、もおぉ……!」

「ふんふん。濃厚な王女様の香りが私の服に染みついてますね」

「かぁっ!? 嗅ぐなぁ! ちゃんと洗って返すからぁ!」


濃厚な香りとか言われると気にしちゃうだろ……!


「いいですよ別に。王女様いい匂いですし。それよりも服が伸び切ってないかどうかが心配です」

「それは……大丈夫だって……多分」


自分で言ってて心配になった。

特に胸のところの収まりが悪くて何度かぐいぐいと引っ張っていたから、もしかしたらその分伸びてしまっているかもしれない……。


「…………」

「……」


服を着たアルルが無言の視線を向けてくる。

明らかに胸のところの布地が伸びていた……。


「ご、ごめんアルル……! 弁償する! 今度新しいの買うから!」

「……」


尚も無言でジーっと私を見つめ続けているアルル。

これは本気で怒らせてしまったのかもしれない……。


「ほ、本当にごめん、アルル……」


ズンズンと無言で私に向かって突き進んでくるアルル。

思わず後ずさって、そのままベッドまで追い込まれてしまった。


「えい」

「わっ!?」


とす、と手でベッドに押し倒されて、覆いかぶさるようにアルルが上に乗ってくる。


「あ、アルル……?」

「別にそれほど怒ってませんよ。弁償も要りません。仕立て直せば済みますから」

「でも……」

「それより、今日の事を聞かせてください。私を囮にして得た成果を」

「え。あ、うん。……え? この体制のまま?」

「はい。このまま」


仰向けに押し倒されて、その上にアルルが乗っかったまま。

しかもなぜか、胸を両手でがっちりと鷲掴みにされている……。


「あの、アルル、その……せめて手を……」

「……」

「ひゃうんっ!? ちょ、やめろってぇ!」

「えぇ~。せっかく王女様のために囮になった上に、スヴェンさんにげんこつまで頂いたというのに……」

「わ、悪かったよ、本当に……! でも、だからって胸を揉むことないだろ!? なんでそんなに私の胸を揉みたがるんだよぉ……!」

「なんでって…………む」


ようやくアルルの手が止まったかと思うと、そのまま立ち上がり何やら手を上に向けてじっとしていた。


「ど、どうした……?」

「いえ。私ともあろうものが()に駆られてしまっていたようです。これは恥ずべきことですね」

「欲に駆られて、って……」

「どうにも王女様の胸をお宝として認識してしまったようです。罪な肉体ですね王女様」

「してないよそんな身体! ……っていうかお宝って、(ドラゴン)じゃあるまいし」


竜は光輝く宝物を好み、集めて貯め込む習性があるらしい。

実際、書物の挿絵には財宝の山の上で鎮座している姿がよく描かれている。


「……本当に、お恥ずかしい限りです」

「……アルル?」


手を上に向けて、強く目を瞑ったままのアルル。

その顔は無表情のままだったけど、なぜか苦しそうに見えた。


「アルル、その……そんなに辛いのなら、別に……揉んでも……いい、よ……?」

「本当ですか?」

「早っ!?」


アルルが目にも止まらぬ速さで飛び付いてきて、再び押し倒された……!


「ちょっ、ちょっとだけだからな!? 本当にちょっとだけ! や、優しく! 絶対優しくだぞ!?」

「わぁい」


***


「はぁっ……! はぁっ……! 」

「ふぅ」


スッキリしたとでも言うように息を吐きながら、やっと私の上からどいてくれたアルル。

私はといえば、呼吸を整えるので精一杯だった……。


「ぜぇ……、ぜぇ……。ちょ、ちょっとだけって……言ったのにぃ……!」

「王女様が一々もだえるから話が途切れちゃうんじゃないですか。もっと早く話してくれれば良かったのに」

「揉まれながら話すなんて無理に……はぁっ、ふぅっ……決まってるだろっ……!」


アルルが私の胸を揉みながら今日の出来事を話すようにせがんできたので、何とか一部始終を語りきった。

……アルル、昔はこんなことする奴じゃなかったのに。

でも、昔の一歩引いた感じよりは今の方が……いや、どうだろう……昔のままの方がよかったかもしんない。


「は、ハックシュン! うぅ……」

「下着姿でずっといるからですよ。お風呂に入ってきたらどうですか?」

「……」


こいつマジ……。


「そうだな……お風呂入る……」

「いってらっしゃい。待ってますね」


待たせるか。

ベッドに寝転んで寛ぐアルルの脇に腕を通して持ち上げる。


「お前も入るんだよ」

「え? いや、いいですよ。お店に帰ってから入ります」

「遠慮するな。今日は特別だ。私が身体を洗ってやる」

「えぇー……?」


戸惑っているアルルを引きずって部屋の浴室へと連行する。

やられっぱなしは性に合わない。

ラウンド2だ!


***


「はぁっ……! はぁっ……!」

「あうぅ……」


何とか勝負はイーブンに持ち込めた……!

が、長湯し過ぎて二人して湯あたりしてしまい、ベットで横になる羽目になってしまった……。


「なんで私の身体をまさぐる必要があったんですかぁ……」

「ま、まさぐるとか言うな……! やり返しただけだろ……!」


決してそれだけで他意はない……!

けど、アルルは顎の下が弱点ということを知れたのは大きな収穫だったかもしれない。


「……ねぇ、王女様。王様と仲直りできて、本当によかったですね」

「……うん」


顔を横に向けると、真横に寝そべっていたアルルがこちらを見ていた。

いつもの無表情な顔だったけど、すこしだけ嬉しそうに見える。


「……アルルの言う通りだったよ。気持ちが通じ合わないままだったら、きっと後悔してた」


すれ違ったまま別れていたら、一生心残りになっていたに違いない。


「今度は私がアルルの事助けるよ。私に出来ることがあったら何でも言ってくれ。……胸を揉ませること以外で」

「気持ちはありがたいですが、王女様はまだ目的を果たしてないんですから。まずはそっちを解決してからにしてください」

「む……確かにそうだけども」


アルルに言われた通り。

レイルを救うための方法は見つかったけど、肝心のオーヴム自体を手に入れる算段が付いていない。


(そら)と氷の(かみ)のオーヴム……ですよね。当てはあるんですか?」

「いや……ほとんどない。天の龍は祀っている一族がいるって記述を本で読んだから、まずはそれを当たろうかと思ってる」

「止めといたほうがいいですよ。そもそも()()は人間自体を嫌ってますので祀ってる一族とか全く関係ナイです。出会ったら問答無用で消し炭にされると思います」

「……やけに詳しいな? まるで出会ったことがあるみたいな言い方して」

「──という本を読んだことがあるんです」

「えらく詳細なことを書いてる本だな? なんてタイトルの本だ?」

「え? えー……タイトルは忘れちゃいました。てへ」

「てへ。じゃなくて」


無表情でてへぺろされても全く可愛くないし、それで話が逸れると思ってるのが腹立つな……。


「狙い目は断然氷の(かみ)ですね。一見全てを拒絶する冷たい態度を取っていますが、実際は寂しいんですよあの子。人間味があっていいと思いませんか? その癖強がっちゃうのがたまらないのです。ツンドラならぬツンデレですよ。ありがち属性ですが純度が高いと素材の味が引き立ちますよね」

「ちょ、待って待って! 何の話!?」


急に饒舌になって謎トークをぶち込んできたアルルを慌てて止める。

全く話が頭に入ってこない……!


「え? だから、氷の龍の攻略法についてですよ?」

「いや、氷の龍はわかったんだけど、アルルが何を言ってるか全然わかんなかったんだよ!」

「ですから、スァ……氷の龍はとりあえず押せばなんとかなりますよ。多分」

「えぇ……」


とんでもなくアバウトなアドバイスに思わず困惑してしまう。

というか何でさっきから知り合い目線で語ってるんだこいつは……。


「氷の龍の方がいいってのは分かったけど、凍土にいるんだよな? 生物が活動できるような環境じゃないって聞いたぞ」

「そうですねぇ。人間だと5分としない内にカチンカチンに凍っちゃうと思います」

「出会う以前の問題だな……まずそこをどうにかしないと」


ガチガチの耐寒装備でも厳しいと聞くし……何か悪環境を低減させるような魔術はないだろうか。

後で婆やに相談してみよう。


「龍に会いに行く前に、一つお願いがあるんです。王女様」

「ん?」


アルルが起き上がってベットの上で正座をする。

改まってどうしたんだろうか。


「あなたの恋人に会う事ってできますか?」

「こい……レイルにか? できるよ」


今のあいつは、城の一室で軟禁状態になっているは、ず…………。


「あ」

「あ?」


そういえば。


すっかり忘れてたけど、王立図書館の前で出会ったアイツは本当にレイルだったのだろうか。

あの時は咄嵯のことだったから留置場に行くことを優先したけど、どうしてあの魔術を使ってたのか、どうして外へ抜け出していたのか、思い付く疑問はいくらでもある。


(これも影霊の韜晦(シャドールブリス)の影響か……!)


レイルの居場所を聞かれるまで、すっかり記憶の彼方へと追いやられていた。

義兄さんにはまずレイルと指輪の事を聞くべきだった……!


「……会いに行こう。今」

「え? 今からですか?」

「今だ」


今すぐ確かめないと……アイツ、自分の身体のことちゃんと分かってないのかもしれない。


起き上がって、いつもの冒険者ローブを着込む。

しゃらくさいドレスなんざ今更着る気にはならない。

小汚いと世話役の侍女に言われ、危うく処分されかけたけど……何とか手元に残せた思い出の一着。

白いリボンを巻き付けたポーチを装備したら……冒険者ジェーンの完成だ。


「行こう。アルルもアイツに聞きたいことがあるんだろ?」

「はい。ちょっと気になることがありまして」


こっちもアイツが本当に部屋にいるかどうか気になる。

もしもいなかったらそのままレイル探しに発展するからな……。


「よし。じゃあ行くぞ」


ドアノブに手をかけて部屋を出──ようとした、その時。

部屋の外からドタドタとこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。


「姫様ぁー!!」

「うるさっ……」

「この声、ミセラさんですね」


扉を開けて部屋の外を見れば……息を切らせながら、頬を紅潮させて私の元へと駆け寄ってくるミセラの姿。


「どうしたんだミセラ。そんな急いで」

「姫様!! よかった、お部屋におられて……!! あの、あのですねっ!!」


ミセラはいつもテンションが高いけど、今日はいつにも増してハイだ。

息荒く詰め寄るミセラを落ち着けようと手で制しつつ話を促す。


「何があった?」

「大変なんです!!」

「だから、その大変っていうのは何なんだ」


「レイルが!! レイルが崩れて消えちゃったんですよぉっ!!!!」

***

読了いただき、ありがとうございます。

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