表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
backup  作者: 黒い映像
49/126

48.反抗期 対処法 検索

『マーカサイトよ。そろそろジルア様と仲直りをされてはいかがか』

『お父様。いつまでもジルと険悪なのは見てて辛いのですが』

『王。そろそろジルア様と直接会われて話をすべきと思うのですが』

『王様!! いつになったらジルア様とちゃんとお話するんですか!!』


「はぁあぁ……」

「これはこれは大きな溜息ですな、王」

「……参謀長」


王の執務室。

大きな溜息をついて項垂れる王に、傍らに立つ初老の男性──参謀長が声を掛けた。


「そろそろティータイムです。少し休憩と致しましょう」

「……そうだな。すまん、気を遣わせた」

「いえ。……ジルアお嬢様の事ですか?」

「……うむ」


参謀長──ジェフリーがカランカランと小さな鈴を鳴らすと、外に待機していた侍女達が部屋に入って来た。

焼き菓子や軽食とティーポットを乗せた3段重ねのティースタンドを運んでいる。

この時間に焼きあがるように用意されていたのだろう。

配膳を行うと、すぐにまた退出していった。


「すまんな、いつもありがとう。──ジルアの事だが、そろそろしっかりと話すべきだと考えている」

「そうですね。そろそろ親子二人きりで確とした話合いをすべきでしょう。何を悩んでおいでなのですか?」

「それがだな……」


王は紅茶を一口飲むと、ゆっくりと語り始めた。


「…………ふぅ。………………私は、ジルアに嫌われている。話合ったところでまた拗れるのは目に見えている」

「王が意図的に嫌われ者の役を買って出ている事は承知しておりますが」

「そうだ。周囲から猫可愛がりされてばかりだと駄目な子に育つだろう。叱るべき時に叱るのは親の役目だ」

「親の役目は叱るだけではないと思いますがね」

「……」

「貴方達親子はどうにもすれ違ってしまっている。王にも娘を甘やかしたいと思う気持ちがあり、ジルアお嬢様も父親に甘えたいと思っている。ただ、それだけの話ですよ」

「……むぅ」

「本心を隠しがちなのは血ですかね。似通っていますよ、貴方達は」


ジェフリーが斬って捨てるように言い放った。

王はぐうの音も出なかった。


「……私は、どうすればいい」

「正解などありませんよ。王がご自分で決めるしかないでしょう。……ジルアお嬢様は聡明なお方です。きっと、分かってくれるはずですよ」


正解などない。その言葉に王は天を仰いだ。

話合ったところであの娘は聞こうとすまい。

分かり合えるはずがない。

──何しろ、娘の好いた男の命を諦めろと伝えなければいけないのだから。


……どうあっても嫌われてしまうのならば、それを突き進むのも一つの手ではある。

しかし、その選択肢が正しいとは王には思えない。

だからこうして頭を悩ませているのだった。


「悩んでいても答えは見つかりませんよ。そのために山のような決裁書類を早々に片付けたのでしょう?」

「む……気付いていたか」

「ええそれはもう。……私は人の親ではありませんので、子育てについては何とも言えませんが。王とジルアお嬢様のことならば大体の事は分かります」

「……すまん、無遠慮だったな」

「いえ、王が謝られることではありませんよ」

「……聖廟の件についてはどうなってる? 何か尻尾は掴めたか?」

「いえ、探りは入れているのですが、未だ証拠は……」

「そうか……。調査は継続していい。それくらいの融通は利かせられるだろう」

「ご配慮いただき感謝致します」

「よい。人として許せぬ所業だ。必ずや犯人には報いを受けさせる。それまでは辛抱してくれ」

「はっ」


焼き菓子が乗せられていたティースタンドの段は、あっという間に空になっていた。

王は甘党であった。


「しばし玉座を開ける。参謀長、少しの間代行を頼むぞ」

「はっ。お気をつけて行ってらっしゃいませ、王よ」


重い腰を上げて、王は娘の部屋へと向かうことにした。

親として、いつまでも逃げ続けるわけにはいかない。


ドアを開けて執務室から出ると、侍女たちが綺麗に整列していた。


「国王陛下、いってらっしゃいませ」

「──うむ」


一斉に頭を下げる侍女たち。

その横を通り過ぎながら、王はまず何から話しだすべきかと考えていた。


「やぁっと姫様とお話なされるのね」「姫様が城に戻ってからもう三日経ってるわよ」「ヘタレすぎよね。早く仲直りするなりなんなりして頂かないと、こっちまで気が気じゃないのよ」


「……」


頭を下げた侍女たちの陰口がぐさりぐさりと王の心に刺さっていく。

それを甘んじて受けてなんとか耐えきると、王は長い廊下を歩き始めた。


***


とはいってもいきなり何の用意も無しに切り込むのは不安しかない。


「ストラス、私だ。すまないが時間はあるか」


コンコンとノックをして、部屋の主──上の娘のストラスに声をかけた。

今の時間は自室に控えていることを事前に侍女から聞いていたが、さて。


ガタンガタンと何やら隣の部屋から慌ただしい音がした。


「む……」


隣の部屋──王配である王国騎士団長スヴェンの部屋だ。

二つの部屋は内部で繋がっている。


「お父様、少々お待ちください!」


ガチャリと部屋の中のドアが開かれる音と共にストラスの声がした。

どうして隣の部屋からなどとは言うまい。

配偶者なのだから、同じ空間にいるのは何もおかしくはないからだ。


「お、お待たせいたしました、お父様。……どうかなさったのですか?」


室内から出てきたストラスが見たのは、天を仰ぐ王の姿。

目を閉じ、決してストラスの姿を目に入れんとでもいうような様相。


「……いや。お前の衣服が乱れていたりでもしたら、私はスヴェンをグーで殴りたくなる気持ちを抑えきれなくなってしまう……!」

「お父様! 考えているような事は一切ありませんよ!」


ちらりと薄目を開けて確認すると、確かにいつも通りの装いだった。

顔を真っ赤にしていること以外は。


「一切ないというのもそれはそれでどうなんだ。しかし、日も高いうちからそういう行為に及ぶのは、父としてはいかがなものだろうかと思うのだが」

「お父様!!」

「すまん」


平謝りするこの国の王。

王と言えど世の父親たちと同じく娘には弱かった。


「全く……それで一体何の用なんですか?」

「ああ、実は──」


***


「ようやくジルと直接お話する気になったんですね」

「む……お前も知っているだろうが、今の我が国の状況は──」

「いくら国政が忙しいからといって、実の娘をほったらかしにしていい理由にはならないと思いますけどね」

「むぅ」


味方に付けたと思った娘は敵側であった。

四面楚歌、孤立無援。

決戦に挑む前から敗色は濃厚のようだ。


「とは言っても私も同じようなものです。あの子がここを出ていくまで心を追い詰めてしまったのは、私の責任でもあるのですから」

「……上手くいかんものだな、何事も」

「仕方ないでしょう。私たちは家族として欠けているのですから、その分の努力は必要ですよ」

「……そうか。……そうだな」


二人は並んで歩き、ジルアの部屋へとたどり着いた。


──控えの侍女がいない。

その事実に王と王女は顔を突き合わせた。


「ジル? ジル? いるわよね?」


控え目にノックをして、ドア越しに声をかけた。

返事は──、


「……姉さん? 何? 今調べもので忙しいんだ」


二人は声が聴こえた事に胸を撫で下ろした。


「ごめんなさい、少し時間はあるかしら。お父様が来ているの」


ドアの向こうからガタンゴトンと慌ただしい音が聞こえてきた。


「……ジル?」

「何でもない! 父上がそこにいるのか?」

「ああ、いる。……少し話がしたくてな」

「話? ……いや、今は忙しいんだ。夜。夜ならどうかな。夜ならきっと多分恐らく大丈夫だから」

「いや、すまんが今でなければ私が空いていない。……それに、あの男の話でもあるんだ。調べものならばそれを聞いてからでも問題はあるまい」

「…………」

「ジル?」

「あ、あぁ、うん。ハイ。分かった」


部屋の主の了承を得て、ストラスが扉を開いた。

中は──壊れた家具が散乱して、ところ狭しと本が積み上げられていた。

唯一壊れていない家具の机の上にも積まれており、その向こう側に金色の髪が見え隠れしていた。

そこにジルアが座っているのだろう。


「……これはまた凄まじいな」

「片付けなら後でやる。……それで、何? 話って」


ジルアが席を立つ気配はない。

顔を合わせたくない、ということだろう。


「ジル、顔くらい合わせましょう。せっかくお父様が来てくれているのだから」

「私は調べものしながらでも話はできる。その方が効率的──」

「ジルア、顔を見せなさい」

「……」


うだうだと渋る娘を前に、王が一喝した。

沈黙していたジルアだったが、やがて諦めたように重い腰を上げた。


「……これでいい?」

「えぇ、ジル。せっかく家族三人揃ったのだから机を囲みましょうか。本を片付けて、アフタヌーンティーでも入れて──」


「──貴様、誰だ」


ストラスが言葉を言い終えないうちに、鋭い声が部屋に響いた。

娘の顔を見た王が言い放ったのだ。


「ちょっと、誰って……お父様、いくらなんでも今のは酷すぎますよ!?」

「いや、その目で確と見よストラス。左目だ」

「──やめろ。姉さんにそんな事させるなんて正気か?」

「冗談ではない。ストラス」

「……」


尋常ではない王の気迫を感じ取ったのか、ストラスが王とジルアを交互に見つめる。


「姉さんやめなよ。それ身体に負担が掛かるんでしょ? こんなことのためにそこまでする必要ないよ」

「──……」

「あぁあ」


やがて意を決したのか、ストラスは左目を覆うように巻かれたスカーフを外してしまった。

露わになった左目には──煌めく蒼色の光が灯っていた。

宝石だった。その眼孔には宝石が填められていた。

正しくは龍器(アーティファクト)──地母龍の蒼玉。

その効果は、魔を祓い、偽りを曝け出す。

──あらゆる真実を見抜く宝玉の瞳。


「……──嘘。アルルちゃん!?」

「あぁー……」


ストラスが()()()()によって王女に化けていた犯人の名を明かすと、偽の王女──アルルはバツが悪そうに目を逸らした。


「ジ、ジルはどこ……? こ、ここにいるのよね? ね!? アルルちゃん!?」

「えーっと……あのぅ……それがぁ……出て行っちゃいました、王女様……」


黙って事の次第を見守っていた王がそれを聞いて、とうとう口を開いて叫んだ。


「ジルアの馬鹿はどこだ!!!」

***

読了いただき、ありがとうございます。

ブクマ・評価・励ましの感想などを頂けたら作者は飛び上がるほど喜びます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ