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backup  作者: 黒い映像
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38.王都をお散歩Ⅱ

リシアの街のギルド受付嬢、ミーシャさん。

俺の数少ない顔見知りだ。


「レイルさんっ、どうしてここに!?」

「あ、えぇと、話せば長くなるんですけど……」


そういえば、リシアで依頼を受けてクロライトの迷宮に向かって、そこから色々あって王都へ直行したんだっけ。

何と説明したものか……というかミーシャさんもなぜ王都にいるのだろう。


「テメコラッ、何腕ェ掴んだまま話し込もうとしてやがんだ! 離しやがれ!」

「おっと」


思い切り振りかぶられた拳を受け止めて、そのまま握力で握り返す。


「ぎゃあああっ!? 痛ぇ痛ぇ痛ぇっ! やめろ離しやがれテメェ!!」

「ミーシャさん、こいつ知り合いですか?」

「えっ!? い、いえいえいえっ、さっき声を掛けられたばかりでっ、む、無理やり手を掴まれて!」


やっぱりそういう手合いか。


「なぁ、この人は俺の顔見知りなんだ。何か用があるなら俺が相手になるぞ」

「クソッ! もういいっ、用はねぇから離しやがれっ!」


よかった。あっさり引き下がってくれた。

手を放すと、男は大袈裟に痛みを訴えながら去って行った。


……右腕に、さっきの大男と同じ刺青があった。

仲間だろうか? だとしたら挟み撃ちにならずに済んでよかったかもしれない。


『まぁ、仲間だろうね。ってか治安があんまりよくないねぇここ。あんなあからさまなの放置しちゃうとかさぁ。……レイルっちたちの問題で手が回ってないのかもしれないけど』


そうだとしたら、凄い申し訳ない気分になる……。

……とりあえず今は、ミーシャさんの事が優先だ。


「ミーシャさん、怪我はないですか?」

「は、はい! 私は全然……あ、助けてくれて、ありがとうございますっ! レイルさんは大丈夫ですか?」

「いえいえ、俺は丈夫なんで全然平気ですよ」


『今は丈夫じゃないでしょ。あんまり無茶したらダメだよ?』


あ、そうだった。

忘れてた……。


『てかレイルっち! 後ろから何か来てるっぽい! さっきの店のやつらかも!』


やっぱり追ってきたか。

ミーシャさんとも話したいし、一緒に逃げるしかないな。


「あ、あの! レイルさん、どうしてここに? というか、クロライト迷宮の依頼は──ひゃっ!?」

「ごめん、ミーシャさん! ちょっと失礼!」


背中と腰を抱いて持ち上げる。

軽い。女の人ってやっぱり皆軽いのかな。


「えっ!? ちょ、れ、レイルさん!?」

「ちょっとだけ我慢しててください」


『ヒューッ★ 流れるようにお姫様抱っこ! レイルっちやるぅー』


突っ込む暇もない。

ミーシャさんを抱えたまま、人通りの少ない方に駆け出した。


***


「ここなら……大丈夫かな?」

「……」


路地裏の道をでたらめに進んで出た先の広場で一息吐く。

ミーシャさんをゆっくりとベンチに降ろしてから、辺りを見回した。

周りの建物に囲まれて日が指さず、少し薄暗いその場所には、俺たち以外誰の姿もない。


「ミーシャさん、ごめん急に。俺もちょっと追われてたもんで」

「……」

「ミーシャさん?」

「はっ! え、えと何でしょう!?」


ミーシャさんの顔が赤い。

もしかしたら熱があるのかもしれない。


『ど、鈍感系主人公~~~!! レイルっち! (リっ)ちゃんが言ってたけど、そういうの最近は嫌われるんだよ!?』


誰だりっちゃん。

というか、何が鈍感なのか分からないし、誰に嫌われるのかも分からん。


「大丈夫ですか? 気分悪いとか」

「や、いえいえっ、全然大丈夫ですっ!」

「本当ですか? 顔が赤いですけど……」

「こ、これは……えっと、その……急にあんなことされてしまってはこうなるのも仕方ないといいますか、ええとその……!」

「?」

『レイルっちぃ~、話進まないからさぁ、そういうやり取りは後でやってよぉ』


ご、ごめん……。


なんだかよく分からないけど、ジョーガちゃんが不機嫌になってしまったので、話を進めよう。

えぇと、ミーシャさんが話してたのは、俺が王都にいる理由だったっけ。

なんと説明したものか。


「……あの、俺たちが受けてたクロライト迷宮の依頼なんですけど、どういう扱いになってるんですか?」

「あ、ええと……依頼失敗扱いで、消息不明になってました。その後、レイルさん達が泊まっていたギルドの宿部屋に、急に王国騎士の方たちが現れて荷物を引き取っていって……。話を聞いても取り合ってくれないしで、もう何が何やらで心配していたんですよ?」


そんなことになっていたのか……。

傍から見ると、本当によく分からない状況になってるな。


「えぇと、ちょっと経緯の説明が難しいんですけど、王国騎士にしょっ引かれまして……」

「なっ、何があったんですか!?」

「うぅん……やむを得ない事情といいますか……」


どうしよう。説明できないことが多すぎる。

ジェーンの正体も口外しちゃダメだろうし、俺の身体の事も言えないし……。


『嘘は言いたくないんだったら、言えないって言っちゃうしか無いんじゃなーい?』


うぅん……そうするしかないか。


「あの、詳しい事情は話せないんですけど……悪い事をしてしょっ引かれたわけじゃないんですよ」

「それは、普段のレイルさんを見てたら分かりますよ。とっても優しい人ですもの。悪い事をして捕まるなんて、絶対にありえません!」

「え。そ、そうですかね?」

「そうですよ。今日だって、私を助けてくれました」


そう言って、ミーシャさんが、にっこりと微笑んでくれた。

なんというか、照れ臭いけど……嬉しいな。

面と向かって褒められるなんていつ以来だろうか。


『れ、レイルっちが絆されかけてる!! ダメだよレイルっち! レイルっちにはジェーンちゃんっていう心に決めた人がいるんでしょ!?』


な、何だっていうんだ……。

褒められたから喜んだだけじゃないか……。


「とにかく、無事で本当によかったです。……あの、お連れの……えぇと」

「ジェーンですか?」

「あぁそうです、ジェーンさん! ジェーンさんは一緒ではないんですか?」

「ジェーンは……ジェーンはちょっと、まだ出て来れなくて」

「……ジェーンさんが何かやらかしてしまったんですか?」


『レイルっちの時と反応違いすぎじゃない? どんだけジェーンちゃん信用ないのさ』


ジェーンは……うん……色々やらかしてるからなぁ……。

ぶっちゃけギルドの危険人物リストに載っているくらいだし。

といっても、問題行動の大半は、悪い奴らをとっちめるのが目的だったんだけど。


「ジェーンが何かをして捕まった訳じゃないんですよ。ただ、別の問題で出てこれなくなって……」

「そう、なんですか……」

「……ごめん、ミーシャさん。言えない事だらけで」


本当に、申し訳ない。

ミーシャさんに余計な心配をかけてしまっている。


ふふ、と笑う声がした。

横を見ると、ミーシャさんが何かおかしいことでもあったのか、くすくすと笑っていた。


「言えないのなら、誤魔化しちゃえばいいのに、って思ってしまって」

「……嘘は、できるだけ吐きたくないんですよ」


この身に、特大の隠し事を抱えているせいで。

なおさらそう思ってしまう。


「そういうところが、レイルさんの素敵なところだと思いますよ?」

「いや、そんな事は──」

「あります。……困ってることがあったら、ちゃんと言ってくださいね? 微力ですが、お手伝いしますから」


手を取られて、ぎゅっと握られた。

冷たいけれど、人の温もりを感じる。


──あぁ。本当に俺の周りには、優しい人ばかりだ。

こんな風に優しくされたら、つい甘えたくなってしまいそうになる。


「……ありがとうございます」

「いえ、こちらこそですよ。今日は助けていただいて、本当にありがとうございました」


お互いにお礼を言い合っている。

なんだかおかしくて、俺もミーシャさんも、顔を見合わせて笑ってしまった。


***


『ちょーいちょいちょい!! 何良い雰囲気になってんの!! ジェーンちゃーん!! 取られる!! レイルっち取られちゃうよー!!!』


うわぁうるさい。


『レイルっちしっかりして!! ジェーンちゃんのことは忘れちゃったの!?』


何も忘れてないけど……。

今ここにいるのはミーシャさんだぞ?

ジェーンのことは関係ないと思うんだけど……。


『ぐぬぅ~~~!! ジェーンちゃんがこの場面を見たらどう思うか考えてみ!? 絶対ヤキモチ焼いちゃうでしょ!』


……なんで?


『だぁ~っ、もうっ! 思考回路がおこちゃま過ぎるっ! そりゃまだ心は子供なのかもしんないけどさぁっ!』


むっ。心外な。

15才で成人なんだからもう大人だぞ、俺は。


『心が伴ってなぁい! いい!? 前も同じような事言ったけど、ジェーンちゃんがもし知らない男の人と手と手を取り合って笑い合ってたらどうする!?』


それは、嫌だ。


『ほら! それと一緒なの! ジェーンちゃんも同じこと考えるんだって!!』


いや、でもミーシャさんはジェーンも知ってる人だし、話が違うだろ。


『あぁ~っ! もぉう! ああ言えばこう言うっ!』


なんでそんなに怒ってるんだ……。


「レイルさん?」

「あぁ、すいません。ちょっと頭の中がうるさくて」

「え?」

「じゃ、なくて。その、えぇと……そうだ! ミーシャさんは何で王都に?」


この疑問をすっかり忘れていた。

彼女は本来リシアの街の冒険者ギルドを担当している受付嬢のはずだ。

それがなぜ王都にいるのだろうか。


「私は、王都の冒険者ギルドの方に呼び出されてまして。……王都のギルドの方で働く気はないかっていうお話があったんです。平たく言えば、受付嬢としての昇級ですね」

「昇級? よかったじゃないですか!」

「……でも、断ろうと思ってるんです」

「えぇっ! どうしてですか? 王都の方が便利じゃないですか? 昇級ってことはお金ももっともらえるでしょうし」

「まぁ、そうですよね……」


ミーシャさんが顔を落として悲しげな表情を浮かべていた。

何か、のっぴきならない事情でもあるのだろうか。


『分かってあげてぇ~~~っ! レイルっちぃ~~ッ! もう答え出てるからぁ!』


ジョーガちゃんが何やら捲し立ててるけど、残念ながら俺の頭では答えが思いつかなかった。


……でも。


「リシアのギルドから離れるってことは、ミーシャさんと会えなくなっちゃいますし……酷い事言いますけど、断ってよかったかもなんて思っちゃいました」

「っ!?」


ミーシャさんが顔を上げて、驚いたようにこちらを見つめた。

顔が、火が付いたように真っ赤になってしまっている。


ど、どうしよう。言っちゃダメだったかな……。

すごく怒らせてしまったのか……?


『おまえーーーっ! さっきからなーっ! 鈍感系主人公ムーブばっかりしやがってなーっ!! 許さーーーん!!!』


ジョーガちゃんも怒ってしまった……。

馬鹿でごめんよぉ……。

***

読了いただき、ありがとうございます。

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