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backup  作者: 黒い映像
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120.夜が明けて

あの日、死ぬ運命にあった俺が甦った夜、俺とジェーンは二人で抱きしめ合ってそのまま眠ってしまった。

その翌日、様子を見に来たりっちゃんによって二人揃って叩き起こされ、怒られた。


「起きてすぐにエッチな事をしてんじゃねえですよ! お猿さんですかあんたらは!」

「「してないっ!」」


決してそのようなことはしていない。してないはずだ。

俺は断じてしてない。

してないよな?


「ホントですか? シーツに赤い染みとか滲んでないですか?」

「何言ってんだバカッ!」


何の事だか分からないけど、間違いなく変な事はしてない。

ただ、抱きしめ合ってそのまま眠っただけだ。


……ひと悶着あった、その後。

俺は、ジェーンの身体の事について説明された。


──ジェーンは、身体を上手く動かす事ができなくなっていた。


手や腕は震えながらも動かす事ができるようだが、下半身が特に言う事を聞かないらしい。

魂に損傷を負った事で肉体に影響が及んだのだという。

それでも、これは一過性の症状らしく、少ししたら治るだろうとのことだった。

本当に良かったと思う。

俺のせいで一生の傷になってしまっていたらと考えると、心が張り裂けてしまいそうになる。


そんなわけで、ジェーンはずっと療養生活を送ってたらしい。

歩く事すらできないというのは非常に不便で、人の手を借りなければ日常生活すらままならない。

常に人が付いてなきゃダメだということで、姉であるストラスさんやりっちゃんが付きっ切りで介護しているらしい。

その事を聞いて、すぐに俺もその役目を負った。

俺のせいという負い目もあったし、側に居たいという思いは一緒だったからだ。


ちなみに、俺が竜人(ドラクレア)を倒した日から丸三日経っていると聞いて、本当に驚いた……。


そして俺が目覚めた事を知って、色んな人が訪ねてきた。


***


ミセラが馬鹿笑いしている……。


「あははははっ!! ちっさい!! レイルがちっさいです!! 何ですかコレ!? 面白すぎます!! ぷっ、くふふっ、うふふふふふふ!!」

「笑いすぎだろ……」


俺はミセラに抱っこされていた。

その理由は単純明快で、俺の身体が子供みたいに小さくなっていて、簡単に抱き抱えられてしまったからだ。

ちゃんとした理由は分からないけど、生き返った時には、既に向こうに居た時と同じような小ささになっていた。

だが、何となくは分かっている。

今の肉体からは、竜の心臓の痛みが感じられない。

多分、生き返る時に、身体から取り除かれたんだと思う。

ということは恐らく、竜の心臓で無理やり成長していた分が元に戻ったんだと解釈できる。


「レイルくんは……ショタだったの……!?」

「姉さんはまた何語喋ってるの……」

「ショタって言うのは幼くてかわいい男の子を意味する俗語ですね。うーん、レイルさんはギリでショタの内に入りますかねぇ……?」


向こうは向こうで盛り上がっているようだ。


「うーんボクよりはまだ背ぇ高い……ねぇ、レイルって本当は何歳なのさ?」


ティルムがミセラの膝に座らされている俺の頭を撫でながら尋ねてきた。

なんで撫でるんだ……。


「15才らしいよ……本当かは知らないけどさ」

「15! 姫様と同い年だったのですわね!?」

「同い年カプ……ってコト……!?」


フランさんとパルメが謎にキャッキャと騒いでいる。


「ムムム……ボクは14……だけど! まだ負けたって思ってないからね!?」

「えっ、何が?」

「ティルムはですねぇ、マジで姫様が大好きなのでレイルに勝手にライバル心を抱いてるんです」

「そ、そうなのか」


ティルムはどう見ても女の子なんだけど、ジェーンの事が大好きなのか。

王国では女同士でも愛を誓い合えるって昔耳に挟んだ気がするし、そういうのもあるかもしれない。


「でももう諦めた方がいいですよ。レイルはオープンになっちゃいましたし、姫様もあれほどの献身を捧げてしまっては、もうティルムじゃ敵わないでしょう」


ね? とミセラに問いかけられ、ウンと頷いた。


「例え誰であっても、ジェーンは渡したくない……と思ってる……」


……なんか皆の前で改めて宣言するのが思いのほか恥ずかしくなって、尻すぼみになってしまった……。


「「「きゃぁああああ!!!」」」

「うるさっ!」


ティルムを除く三人が歓声を上げた。

なんかもう……どうにでもなれって感じだ。うん。


「ま、まだ負けてないもん……! ひ、姫……? ボクの事まだ好きだよね? ね?」

「ティルム……。前から言ってるけど、私に同性愛の趣味はないんだよ。オマエの事は好きだし、妹みたいに可愛いと思ってるけどさ、その気持ちには応えられないんだ」

「あ……わぁ……」


な、泣いた……!


「ティルムさん、落ち着いてください。例え恋愛感情がなくともカップリングには無限の可能性があります。絡みが拒否られたわけではないのでドンドン狙っていきましょう」

「ホント……? ボク、姫とカップリングされるかなぁ……?」

「いけますいけます。マイナー百合カプでも誰か一人に刺されば需要はあるんですよ」

「うぅ……ボク頑張るよぉ……!」


りっちゃんが肩を貸して、満身創痍のティルムを部屋の外へ連れ出していった……。

というか俺も外に出たい。この部屋女性しかいないし、居心地が悪いというか落ち着かない……!


「……おいミセラ。そろそろレイルを離せ。レイルも鼻の下伸ばしてんじゃねえ」

「あっ、申し訳ないです姫様!! そんな嫉妬せずとも、ちゃんとレイルは姫様しか見てませんよ??」


ねぇ? と再び俺に話を振ってきたので、ウンと再び頷いた。


「ほら。レイルの心の中は最初っから姫様でいっぱいだったんですよ。だから何も心配しなくて大丈夫ですよ!!」

「勝手に人の心を読むんじゃないって言ってるだろ! 大体お前は昔から―――」


ジルアのお説教が始まり、ミセラがようやく俺を離してくれたので何とか部屋を脱出した。

それにしても、ミセラは心が読めるのか……。

最初に会った時から俺の心が駄々洩れだったと考えると……どうして一々突っかかってきたのかも分かる気がするな。


***


次にやってきたのは王様と参謀さんだった。

とても忙しい中やってきたみたいで、重要な事だけ話してすぐに帰ってしまった。


話の内容は、俺の処遇と、今後について。

俺の処遇については、とても話が難しい方向に進んでいるらしく、当分の間王城で人目を避けて暮らす事になった。

なぜそんなことになっているのかというと、俺の左手に出来ていた痣が原因だった。


「地の龍痣(ドラグマ)、ですか……」

「ああ。王家の秘宝の一つであり、この国の守護龍、地母龍(ガイア)の権能を其方は授かった」


どうやら、俺の身体をもう一度作り直す事になり、その時に地母龍の権能が必要になったという経緯らしい。

経緯はどうであれ、この国の象徴そのものと言っていい力を授かってしまったわけで……色々と話が拗れているらしい。

参謀さんに「君はこの先どうしたいか、希望はありますか?」と問われたので、「ジェーンと一緒に居たいです」と返しておいた。

左手に握った手が、ぎゅっと強く握り返してきた。


王様と参謀さんはその返答を聞いて、二人は顔を合わせると吹き出しそうにして笑みを浮かべていた。

そして話を纏めると言って部屋から去って行った。


話がどういう方向へ進むか分からないけど、ジェーンの隣に居たい。


「オマエは王都を救った英雄なんだから、もっと胸を張って堂々とした態度でいろ」


なんてジェーンに言われたけど、俺には全然実感がなかった。

だって、俺はただ必死に戦っただけで……色んな人に助けられた上で、やっと打倒する事が出来たんだから。

俺は英雄なんて器じゃない。


***


次に来たのはオジサンとダニーだった。

ダニーは俺の姿を見た瞬間、ミセラみたいに大笑いしていた。

大笑いして……その樽腹に強く押し付けられた。

……いや、抱きしめられていた。


「よかったなぁ……! レイル、お前……本当に良かったなぁ……!」

「ダニー……」


男泣きするダニーに釣られ、俺も泣いてしまった。

いつも陰ながら見守っていてくれたダニーの優しさは、俺が一番知っている。


しばらくして、ダニーは涙を拭いながら俺から離れ、背中をバンと叩いた。


「痛っ! 力が強いよ、ダニー」

「おぉ、スマン、いつもの力加減だったんだけどな! まあ、その、アレだ。お前は俺にとっての息子みたいなもんだと勝手に思ってたんだ。だからよぉ、嬉しくってつい、な!」

「息子……うん、ダニーがそう思ってくれるんなら、俺も嬉しいよ」


照れくさそうに笑うダニーの顔を見て、改めて思う。

──本当に俺は、心優しい人達との出会いに恵まれていたんだと。


「レイル、状況はどうだ? 落ち着いてきたかい?」

「オジサン……うん、もう大丈夫だよ。ありがとう」


オジサンは王都の自分の家に戻ったらしい。

りっちゃんと無事に再会して、二人で仲良く暮らしているようだ。

また、国の状況が忙しい今、色々と王国騎士に手を貸していると言っていた。

けど、正式に王国騎士として復帰することはないらしい。

しばらくは家族水入らずの時間を楽しみたいのだそうだ。


「ありがとうな、レイル。君に勇気を貰ったおかげなんだ」

「え……?」


一体何の事か分からなかったけど、オジサンの力になれたのならよかったと思う。


***


最後にやって来たのは魔術師のお婆さん……アプレザルさんだった。

ジェーンの身体を毎日検診しているらしい。

俺の身体も異常がないか確認するということで、アプレザルさんに見てもらったが、驚きの事実が分かった。

どうやらまだ俺の身体には竜の心臓が残っているらしい。


「痛みはないんだけどな……」

「恐らくですが……完全に人間の身体に適合した状態へと作り替えられたのでございましょう。ジョウガ様が関与しておられると聞いたので、かの(かみ)ならば悪し様にはなさらないでしょう」


確かに、目覚める前に掛けられた声はジョーガちゃんのものだった。

彼女の事だから、きっと善意で竜の力を残してくれたんだと思う。

でも力は常人並に落ちているし、引き出し方ももはや分からない。

強さは必要とはいえ、俺には過ぎた力だったし、これはこれで良かったかもしれない。

力加減で一々悩む事もないしな。


それ以外には特に何の問題もなかったらしい。

俺自身も体の小ささ以外に違和感はなく、このまま生活して特に問題はないだろうと言われた。


ジェーンの方はやはり完治まで時間がかかるらしく、俺はアプレザルさんに治るまでのケアの方法を教わった。

後、身体に負担が掛かるから、完治するまで絶対に魔術は使ってはいけないらしい。


「目を光らせておいてくださいな。ジルアさまは秘め事を行うのがお好きですから」


確かに。

ジェーンはほっといたら自分で身体を治す魔術とか調べて使いそうだ。

絶対に目を離さないようにしよう。


*** 


あっという間に夜だった。


「ジェーン、それくらいにした方がいいんじゃないか……?」

「んー……もうちょっと」


ジェーンはなんとその身体で国の仕事を任されているらしい。

本人曰く、「やることなくて暇だし、これくらいはしないとな」とのことで、本当に凄いと思う。

書類仕事らしく、紙の束が積み上げられた机に向かい、整理したり、何かを記入していたりと世話しない。

俺も手伝いたかったけど、国の機密に関わるような書類は部外者が見たら罪に問われるらしく、何もできなかった。

というか読む事もできないし、書く事もできないので結局邪魔にしかならないのだった。


そわそわと落ち着きなくジェーンの仕事ぶりを眺めていると、ジェーンの視線がチラリとこちらに向けられた。


「……何そわそわしてんだ。気になるんだけど」

「あっ、ゴメン……えと、あのさ、俺の寝る場所なんだけど……本当にジェーンと一緒でいいの……?」


俺はてっきり空き部屋か何かを貸してもらえるとばかり思っていたのだが、なんとジェーンと一緒の部屋で過ごす事になっているらしい。

無論、寝る時も一緒だ。


「さっきも言ったけど、今は忙しい状況で空いてる部屋はない。今回の騒動で住む場所を失った人たちに、城の一部を貸し出したりしてるらしいからな」

「いや……でも流石に一緒のベッドで眠るのは……」

「こんだけ広いんだから一緒に眠れるだろ。大体今朝だって一緒だっただろが」

「今朝は目覚めたばっかだったから……大体こんなの、他の人が何て言うか……」

「あのなぁ……そもそも私たちはずっと同じ部屋で過ごしてきたんだぞ? 今更とやかく言うヤツがいるかよ」


絶対いると思う……。

大体この事を、他の人は知ってるのか……?


「……そんなに私と一緒の部屋はイヤなのか?」

「い、いやじゃない!」

「じゃあいいだろ。……ん」


話はそれで終わりとばかりに打ち切られ、ジェーンは机から俺の方向へと向き直り、腕を差し出してきた。

運べってことだろう。


「はい」

「……お姫様抱っこしろ」


背中を向けてしゃがみ込もうとしたら、そんな注文をされた。

仕方なくジェーンの身体に手を回して持ち上げようとするが……前の身体だった時より力が無く、あっさりとは持ち上げられなかった。


「ふん……!」

「……重いとか言ったら怒るからな」

「いや、俺の力が無いだけだと思う。……多分」


ぽかりと胸を叩かれた。

多分は余計だったな、うん。


「よっ、と」


ベッドへと運んで、間違っても怪我などさせないように慎重に下ろす。


「ふぅ……大丈夫か? どこも痛くないか?」

「大丈夫。……ほら、灯を消してオマエも横に来い」


どうやら逃げ場はないらしい。

灯を消して、仕方なく隣に横になった。


「……何そっぽ向いてんだ。こっち向け」

「……」


王女様のご命令だ。

逆らう事は許されない。

ベッドの上で寝っ転がった。


目と目がパッチリと合う程の至近距離に王女様はいた。

暗くてもよく分かる綺麗な顔に、見惚れてしまう。


「ん」


王女様が腕を広げていらっしゃった。

更にこっちへ来いとの仰せだ。


「……あのさ、多分良くない事だと思うんだ。こういうの」


散々抱き締めたりしておいてなんだけど、一応俺は男で、ジェーンは女の子なのだ。

むやみやたらとくっつくのは、きっと良く無い事だ。


「散々私の事抱きしめておいて今更何言ってんだオマエ。……今は二人きりだからいいんだよ」

「二人きりだから余計に良くないと思う……」

「うーるーさーいー! いいから早く!」


ダメだった。

仕方がないので、おずおずとジェーンの身体に引っ付いて、抱き寄せる。


「ふふん、最初からそうすれば良かったんだ」


満足げに鼻を鳴らされた。

相変らず彼女の身体は温かくて、いい匂いがして、柔らかい。

愛しい人の体温は、何よりも代えがたい俺の宝物だ。

何もかもがどうでもよくなってくる心地良さを感じる。

そうしていると……あっという間に意識が遠のいていく。


「……おい、レイル?」

「…………」


彼女の声すらも耳に心地よくて……俺はあっという間に眠りに落ちた。




*** *** ***




「ね、寝やがったコイツ……! ……めちゃくちゃにしたいとか言ったくせに……! もうちょっとこう……なんかあるだろうが……ばかっ」

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