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第96話【最終話】りぅ

 龍たちの『緊急会合』から半年余りが過ぎていた。


 クルシュナ山脈とその麓の大森林は、一層の繁栄を迎えていた。樹々は生長を競い、生物はより活発に生息地を争い。とりわけ魔獣と呼ばれる存在は、あふれ出す魔素の恩恵を受けて強靭になっていた。


 リグルヴェルダスがいなくなった、という話は、数十年ぶりに冒険者達を呼び寄せた。とはいえ、その数はわずかだ。近くには拠点となる町もなく、たどり着いた森は、彼らの想像よりも遥かに危険な場所であったからだ。最上位の冒険者でなければ、進めるのはせいぜいが森の外縁までだろう。


 それでも彼らが大森林を目指す恩恵があるか、といえば、もちろん、あるのだ。純粋な冒険心。己の修行の為の場。依頼がなくとも彼らは向かう。


 より現実的で利得ある目的は、強力な魔獣由来の、あるいは天然由来の魔晶石の採取だ。魔素の結晶たる魔晶石の価値は高く、その有用性は重要だ。


 しかし、彼らは到達できない。その最も高純度、高濃度の魔晶石が産出する場所へは。






 そこは、とても奇妙な空間だった。大森林は、今や、その管理者と呼ばれる存在が望んだように、力渦巻く、活気ある場所なのだ。で、あるのに、その一帯だけは様相が異なっていた。


 樹々が伐採され、開けた土地があった。足元には、芝生のような柔らかな牧草。それを食む数頭の羊たち。洞窟のそばには小さな小屋が一棟、煙突から暖かな煙をたなびかせている。その隣には、今は隠されているが、いつでも使用できる温泉が湧き出していた。


 外界の危険を感じさせないその場所で、唯一の不穏な存在は、大きな龍の立像だ。まるで今にも動き出しそうな、生々しい黒龍の姿。それが魔除の如く、その地の外れに設置されていた。


 そんなのどかな村を思わせる空間で、ひとりの赤子と、同じくらいの体長の蜥蜴がじゃれ合っていた。抱きつき、転がり。赤子の方は言葉にならない笑い声をあげながら、懸命に手足を動かして、遊びという名の学習に勤しむ。


 力も、知能も、蜥蜴の方が上。蜥蜴自身もそれを理解している。だから、赤子を押さえつける力を加減し、鋭い爪に注意を払いながら組み合う。


 ふと、赤子の注意がそれる。小さな手が、本気で押し除ける動きを感じて、蜥蜴は自ら引いた。そして、蜥蜴もまた気がつく。


 森から、この平穏な空間への侵入者。蜥蜴はその奥に鼻先を向け——安心し、すぐに赤子へ視線を戻す。


 赤子はまだ、立ち上がることができない。蜥蜴と同じように四肢を使いながら、必死さと純朴な笑みを顔いっぱいに浮かべて這い進む。


『りぅ! りぅ〜〜っ!』


 ラースは、ころころと喉を鳴らして呼びかけた。

これにて完結となります。

ここまで読んでいただいた方々に、筆者より感謝申し上げます。


ありがとうございました!

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