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迷い子の館の殺人  作者: 天草一樹
殺人犯と館の秘密

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動機と隠し事

 見るからに新菜の、いや、小鳥遊姉妹の全身から力が抜けていく。

 ここまで張りつめていたものが全て抜け落ち、清々しさすら感じさせるほどの諦念が浮かび上がる。

 これで、この館で起きた殺人事件のトリックやそれを見破った経緯については終幕を迎えた。けれど、まだ重要なところが残されたままだ。なぜ、日車と白杉は殺されなければならなかったのか。その理由を聞くまでは、本当の終わりとは言えない。

 今度こそ、彼女らが殺人を犯すことになった動機を、聞かなければならない。


「それで……それでどうして、小鳥遊さんは日車君と白杉さんを殺したんですか? まさか二人を殺すことが探偵としての仕事だったなんて言いませんよね」

「探偵の仕事……それならまだましなんだけどねえ」


 自嘲するように伊緒が呟く。

 その思いは姉妹全員共通のものなのか、四人ともほぼ同じ表情で天を仰ぎ、交互に口ずさみ始めた。


「二人を殺した理由は本当にシンプル」

「そう、単純に怖かったから」

「理解不能な遭難者の集結に、突如閉ざされた館の扉」

「無意味に恐怖を煽る奴もいれば、まるで今の状況に無関心な奴もいる」

「そこで起きた遭難者の消失事件」

「四姉妹であることを隠していた私たちにとっては非常に不利な状況」

「扉が開いてまた館から出られるようになったと安堵したのも束の間」

「やってきたのは死に魅入られた死神探偵」

「そして再び閉ざされる館の扉」

「パニックになる心を抑えることなんてできなくて」

「殺される前に殺してしまうべきだって考えに憑りつかれた」

「幸い皆にばれてない二人の姉妹もいる」

「数でも圧倒的に有利だし、これなら不意を突いて人を殺すのも難しくない」

「懸念材料は探偵の存在だけど」

「双子が実は四つ子だなんていくらなんでも推理できないと思ってた」

「そこからはもう行動に移すだけ」

「無線機で連絡を取りながら、それぞれが散らばって他の遭難者の動きを見張り」

「殺せそうな人がいたら、二人にアリバイを作らせ残りの二人で殺害に及ぶ」

「日車も白杉も、偶然殺害のチャンスに恵まれたから殺しただけ」

「勿論恨みなんてないし、特別な理由があったわけでもない」

「単純に怖かったから」

「純粋に恐ろしかったから」

「ひたすらに怯えていたから」

「ただただ心が弱かったから」


「「「「私たちは彼らを殺したの」」」」


 声を揃えて、小鳥遊姉妹はじっとこちらを見つめてくる。

 私は口を開こうとするも、思考がまとまらず結局何も言えずに俯いた。

 彼女たちを責めることは簡単だ。ただ怖かったからという身勝手な理由で、全く罪のない二人を手にかけた。どれだけ罵詈雑言を浴びせかけられても反論できないことだ。

 けれど、実際にこの館に閉じ込められていた一人として、彼女たちの不安は決して他人事ではなかった。私には幸運にも、この状況でも常に気遣ってくれる渡澄さんがいた。そして彼女たちとは違い、特に皆に隠している秘密もなかったし、鈴が峰に対する恐れもなかった。そもそも、誰かを殺そうと思っても殺せるような方法が思い浮かばなかっただろう。

 では仮に、これらの条件が全て逆だったのなら――ちょっとしたきっかけ次第で、この手を血に染めていたかもしれない。それぐらいに、この状況は精神に過大なストレスを与えてきていた。

 だから、だけど、やっぱり……分からない。

 自分の気持ちが分からない。

 小鳥遊姉妹に恨みをぶつけたいのか。それとも、彼女たちのことを許したいのか。

 分からないから、何も言葉が出てこなかった。

 誰一人として彼女たちの言葉に否定も肯定もできず、沈黙の時間がしばらく続く。

 結局その考えに対する正答を誰も思い浮かべることはできなかったようで、黒瀬が声を上擦らせながら話題を変えた。


「と、ところでさ。二人を殺したのが小鳥遊姉妹なのは分かったけど、じゃあ結局この館は何だったわけ? 謎の揺れとか開かなくなる扉とか、それに西郷さんの消失も。鈴が峰さんの推理からすると、ここら辺と彼女たちは関係ないわけでしょ?」

「そうだね。それじゃあ今度はそっちの方の謎解きもしちゃおうか」


 黒瀬の投げかけた無茶ぶりに近い問いかけに対し、鈴が峰はあっさりと頷いて見せる。

 そう、この探偵。殺人事件だけでなく、館の秘密についても既に導いている。ただ、こっちの推理に関しては小鳥遊姉妹が四姉妹であったこと以上に非現実的なもの。正直私もまだ疑っていたりする。

 それに、館の秘密に迫るためには、その前に皆に聞かなければならないことがある。その答え次第では、披露するまでもなく推理の間違いが判明してしまう。

 本当に鈴が峰の推理が真実だったのか。私はしばし聞き役に徹することにした――まあ実際は、心が揺らいだままでまともに会話に混じれる気がしないからだけど。


「また随分とあっさり言うけれど、本当に解けてるのかしら? というより、解いても大丈夫な謎なの?」

「うむ。ここの館の所有者はもしかしたら御財閥の方々かもしれないわけだからな。不用意な発言は謹み給えよ」

「心配しなくてもたぶん大丈夫です。すでに彼らの目的は十分に、いえ、十二分に果たせていると思いますから」


 不安げな渡澄さんと厚木の問いかけに対しても、穏やかな笑みを浮かべ応じる。自分の推理が外れているかもしれないという恐れはないのかと不思議に感じるが、先の話しぶりからすると、これは彼なりのパフォーマンスなのかもしれない。探偵自身が推理内容に自信を持てず、おたおたと話しては聞く側も安心して推理を聞くことができない。そうならないよう、敢えて自信満々で話しているのだろう。

 皆が半信半疑の目で鈴が峰を見つめる中、彼は「それじゃあちょっと聞きたいんだけど」と前置きしてから一人一人の顔を見つめ、ある人物で視線を止めた。


「黒瀬君、僕たちに隠してることあるよね。君は本当は何をしにこの館に来たのかな?」


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