核心に迫っていく推理
「交換殺人とは何だ? それに小鳥遊四姉妹? 彼女たちは双子で当然二人しかいないはずだが、ついに頭でも狂ったのか?」
厚木から腹立たしくも的確な疑問が飛ぶ。
問いかけたのが厚木ゆえにあまり気分は良くないが、むしろ馬鹿にしたような発言をしてくれたのは僥倖だった。我慢できずちらりと小鳥遊姉妹を見た感じ、二人とも鈴が峰の推理がどこまで真相に到達しているのか――というより、皆を説得させることのできる証拠を見つけているのか――分からず、次の行動を苦慮しているように見えた。
新菜ちゃんが伊緒ちゃんに対して何か言いたげに視線を向けるが、伊緒ちゃんが小さく首を横に振っている、という感じ。
これならもう少し時間が稼げそうだと安堵していると、他の人からも続々と質問が飛び始めた。
「思い浮かんだトリックが実は小鳥遊さんが四姉妹だったってこと? それは流石にあり得ないでしょ」
「仮に四姉妹だとしたらあとの二人はどこにいるというの? それに事件が起きる前からずっと双子だと公言していたわよ。もし鈴が峰さんの推理が正しいのなら、初めから彼女たちは私たちを殺す気でいたということになるのかしら?」
「そもそもどこから四姉妹なんて発想が出てきたわけ? 鈴が峰さんずっと医務室で寝てて、二人と話したこと自体ほとんどないはずだけど」
まるで鈴が峰の推理を信じていない黒瀬と渡澄さん。
とはいえこの反応自体は予測済みのことであり、鈴が峰は一切動じることなく言い返した。
「確かに突飛な考えではあるよね。でも逆に聞きたいんだけど、彼女たちが四姉妹でないって思う根拠はあるの?」
「根拠って……。だから四姉妹だとしたら事件が起きる前から私たちに嘘をついていたことになるわ。それに西郷さんを探して何度も館の中を調べもしてる。仮に後二人、小鳥遊さんの姉妹がいたとすれば、その時に見つけていたはずだわ」
「そうかなあ? まず、事件を起こす前から嘘をつく理由は一応あると思うんだよね。深倉さんの話では、小鳥遊さんたちはこの館に来てる間も探偵活動を続けてたそうだしさ。だよね、深倉さん」
「あ、はい。渡澄さんも覚えてないかな? 初日に西郷さんと館を回ってる際に新菜ちゃんと会った時、『探偵活動の一環で何をしてたか答えられない!』みたいなこと言われたの」
「そういえば……」
西郷に連れられ館の三階を調べたその帰り、下の階に降りたと思っていたはずの新菜ちゃんがなぜか客室から出てきた時のことだ。どうして客室にいたのか尋ねた私たちに対し、探偵活動の一環だから秘密と、その理由をはぐらかしたことがあった。加えてこの館に来た経緯も、探偵活動の一環だからと教えてくれなかった。
つまり彼女たちが初めから私たちに隠し事をしていたことは間違いない。それが二人の姉妹を隠していたこと、と決めつけることはできないけど。
納得はしないまでも少し戸惑いの色を見せ始めた渡澄さん。そんな彼女に追い打ちをかけるべく、鈴が峰は残りの姉妹の隠れていた場所についても言及した。
「それからどうして今まで見つかっていないかだけど、それも難しいことじゃないんだ。だって小鳥遊さんたち以外、ほとんど入っていないはずの部屋があるんだからね。渡澄さんにも心当たりがあるんじゃないかな?」
「もしかして……二人が使ってた客室……」
「そう。小鳥遊姉妹がこの館の拠点として基本的に身を置いていた場所だね。これは深倉さんの話にはなかったけど、最初に西郷さんを探した時も、二人が使用していた客室には彼女たち以外入らなかったんじゃないかな」
「それは、そうです。そもそも二人が部屋の中にいた時点で、西郷さんがいるとは考えませんでしたし……」
館の中をくまなく探すとは言え、当然分担して行われていた。そして三階を担当していたのは基本的に小鳥遊姉妹。自分たちの客室を奪われたくないというのと、そもそも館のクソ長い階段を上って三階まで行きたい人が少なかったため、彼女たち以外が三階を調べること自体あまりなかった。
まして二人の使用している客室に勝手に入る不届き者などいるはずもなく、結果として完全な盲点になっていた。
これに関して本人たちから何か言い訳があるかとチラ見するが、伊緒ちゃんは硬い表情で、新菜ちゃんはそわそわ体を前後させるだけで口を開く様子はなかった。
反論を二つとも潰されてしまい、渡澄さんは困った様子で口を噤む。代わりに黒瀬が声を上げた。
「確かに可能性だけならあり得なくはないのかもね。でもほぼゼロに近いことに変わりはないでしょ。双子が実は四つ子で館に潜んでいましたとか、僕からしたら僕以外の全員がグルでしたって可能性と同程度なんだけど。どうしても四つ子説を通したいんなら、可能性を挙げるんじゃなくて何か証拠を見せてよ。できるものならね」
「うむ。確かに四つ子だと決めつけるのは気になるな。なぜ三つ子でも五つ子でもなく四つ子なのかも聞いてみたいところだな」
黒瀬の追及に便乗して厚木も質問を追加する。
立っていることに疲れたのか鈴が峰はドアに寄りかかり、ぼさぼさの髪を掻いた。
「これは深倉さんから聞いた話で、たぶん二人は知らないと思うんだけど、小鳥遊姉妹が持ってる無線機。探偵になるときに買った特注品で、四つあるらしいんだよ。二人だけで活動するのに四つも買う必要はないし、まずこれが四姉妹だと考えた理由かな」
「ちょ、ちょっと待ってよ! それは深倉さんたちには説明したけど、いつか新しい仲間ができたことを考えて買っただけだもん! 私たちが四つ子だからじゃないし!」
「ていうかそれも可能性であって、四つ子であることを証明するものじゃないよね」
とうとう我慢できなくなった新菜ちゃんが否定の声を上げる。さらに黒瀬も冷めた口調で彼女に肩入れした。
だけどこれも想定通りの反応。次なる一手こそが、彼女たちの牙城を大きく崩すことになる、はずだ。
鈴が峰は二人の言葉に黙って何度か頷くと、「それじゃあ少し話を変えようか」と言って小鳥遊姉妹にある質問を投げかけた。
「日車君が亡くなった後、小鳥遊さんたちはお風呂場に行ったんだよね。そしてそこに深倉さんと渡澄さんが後からやってきた。間違いないよね」
「間違いありません」
「うん、あってるよ」
二人はすぐに頷く。
「その時、深倉さんの隣でシャワーを浴びてたのはどっち?」
「それは、私ですけど」
伊緒ちゃんが小さく手を上げる。
それを確認すると、鈴が峰は今度は黒瀬の方に顔を向けた。
「じゃあ今度は黒瀬君に聞きたいんだけど、日車君の殺害現場を調べた時、確か小鳥遊姉妹も一緒にいたはずだよね」
「ああ、まあ、いたけど」
「その時に、二人が何してたかは覚えてる?」
「別に二人のことを監視してたわけじゃないから詳しくは覚えてないよ。……確か、小鳥遊新菜さんが僕と一緒に死体の調査をしてて、小鳥遊伊緒さんが天使の庭自体を調べて歩き回ってたと思うけど」
「うんうん有難う。因みに小鳥遊さんたちも、これに関して異論はないよね」
「……はい」
「……うん」
なぜか今度は即答でなく、少し間をおいてから返事が返ってくる。
それを見た鈴が峰は私に向け合図を飛ばしてから、「ならおかしいんだよね」と口を開いた。
「深倉さんから聞いた話だと、シャワーを浴びる際、隣にいた人の首元に血がついてたらしいんだけど――」
そこまで言ったところで、急に伊緒ちゃんと新菜ちゃんがソファから立ち上がり――