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迷い子の館の殺人  作者: 天草一樹
殺人連鎖
42/63

あれからまだ十分程度……

「ここにもいないかー」


 天使の庭の次に見に行ったのは三階右奥の、祭壇が置いてある部屋。

 凄く意味深な場所だし、ここに何かあると考え伊月が見に来ていることを期待したのだが、見事に外れてしまった。

 客室は小鳥遊姉妹と厚木が利用しているから、きっとそこにはいないはず。となると次に何かありそうなのは仮面の間だろうか? でも、これでもしいないようならやっぱり近くの部屋から見て回ったほうがいいかもしれない。


「いやまあ、最初から一室ずつ見て回ったほうが早いに決まってるんだけど」


 リスクを考えての行動だったけど、こうして一人でうろうろしてることの方がリスクが高い気がする。大体昨日までは特に警戒もなくいろんな部屋を移動していたのだ。今更扉を開ける程度のことを躊躇うのも変な話かも。

 ……でもまあ、精神的にビビってしまうのは仕方ないはず。今の私みたいに油断していたから、日車も殺されてしまったのかもしれないのだし。


「まあそんなわけで全部屋確認してくのはここにいなかったらということで。……どうでもいいけどさっきから独り言ヤバいな、私」


 たぶん一人でいることへの恐怖心から来てると思うのだが、取り敢えず今の姿を誰かに見られたら変な誤解をされそうだ。特に私に自傷癖があることを知っている小鳥遊姉妹に見られでもしたら、いよいよヤバい人認定されてしまうかもしれない。


「誰もいないとこなら問題ないとはいえ、ほどほどにしておかないと」

「何をほどほどにするんですか?」

「わっ!」


 ちょうど独り言を呟いた直後に絵画の間の扉が開き、中から伊緒ちゃんが顔を出した。しかもばっちり独り言を聞かれたようで、不思議そうにこちらを見つめてくる。

 何か言い訳をしないとと、慌てて頭を働かせる。けれど言い訳が思い浮かぶより先に、彼女は「あ!」とやや顔を怒らせ近づいてきた。


「どうして深倉さんが一人でここにいるんですか。まさか黒瀬君一人に監視を任せて抜け出してきたわけじゃないですよね」

「えと、その、渡澄さんもいるから黒瀬君一人じゃないよ」

「渡澄さんは監視員としてカウントしないって話してたと思いますが」

「いやあ、まあそうなんだけど……」


 言い訳の余地なくがっつりと約束を破っているため、素直に怒られる以外の選択肢が思い浮かばない。

 とはいえ、どうして館をうろうろしていたかを話すわけにもいかない。伊緒ちゃんは鈴が峰を最も警戒かつ疑っている人物代表。その鈴が峰に推理をしてもらうため伊月を探していたなんて口が裂けても言えるはずがない。

 私は「ごめん!」と頭を下げると、上目遣いに彼女を見上げた。


「どうしても私も日車君を殺した犯人を暴きたくて。渡澄さんのことは、その、かなり信頼してるから、あの二人なら鈴が峰さんの監視を任せてもいいかなって思って」

「深倉さんが渡澄さんのことを信頼したくなる気持ちは分かりますけど、約束は約束です。守ってもらわないと困ります」

「ご、ごめん」

「まあ、動いてしまったものは仕方ありませんし、これからはきちんとしてください」

「ほ、ほんとにごめんなさい……」


 年下ではあるものの、私よりも遥かにしっかりした伊緒ちゃん。初めて会った時のぽわぽわした雰囲気も今はかなり薄れており、探偵としての威厳みたいなものが漂っている。

 これじゃあどっちが年上か分からないなと思っていると、伊緒ちゃんは肩を落として息を吐いた。


「取り敢えず、これからも捜査をしたいのなら厚木さんか白杉さんに監視を変わってもらってください。それと、何か見つけても短慮な行動は慎んでくださいね」

「き、肝に銘じておきます……」

「一応、二人を探すところまでは手伝います。そうだ、新菜に二人の居場所を聞いてみますね」

「あ、それなら……」


 偶然にもここに来るまでに二人には遭遇している。

 そのことを話そうとするも、伊緒ちゃんは無線機を使って新菜ちゃんと会話を始めてしまった。何を話しているかは聞き取れないが、話すごとに伊緒ちゃんの顔に呆れが浮かんでいく。

 ほどなくして会話を切り上げると、彼女はため息を吐きながら首を振った。


「今は伊月さんと遊戯室でおしゃべりしているそうです。全く、捜査をさぼって何をしているのやら。面倒ですけど一部屋ずつ見回るしかないですね」

「あ、あのー、二人とはここに来るまでに出会ったので、居場所は知ってたりして……」

「そうなんですか? じゃあ案内お願いします」

「は、はい」


 棚ぼたで伊月の場所が分かってしまった。けれど伊緒ちゃんが付いてくるとなると直行はできない。

 そもそも伊緒ちゃんが付いてくる必要はないのではと思うも、これは疑われているのだと考え直す。彼女が一番怪しんでいる人物が鈴が峰なのは間違いないだろうけど、伊月との約束の手前全員を容疑者として捜査している可能性は高い。白杉同様、約束を守らず館をふらふらとしている私のことを疑うのは当然かもしれない。

 とはいえ、アリバイ的に日車を殺すのは私には絶対できないはず。それは彼女が最も信頼しているであろう新菜ちゃんの証言が元だし、そこは覆らないように思うけれど。

 彼女が今どんな推理をしているのか気にかかる。

 私は白杉のいる天使の庭へ移動中、それとなく推理の進捗を尋ねてみた。


「あの、日車君を殺した犯人は分かりそうですか? 最初に話していた通り、今も鈴が峰さんが一番怪しい感じですか?」


 さっき怒られたこともあり、つい敬語で話しかけてしまう。

 伊緒ちゃんはそのことに気付いた様子もなく、首を横に振った。


「悔しいですけど、さっぱり分かりません。現場を調べた限りでは犯人に繋がりそうな痕跡はなかったので、どこかにトラップを起動させる装置でもないかと考えていたのですが……」

「ああ、だから絵画の間を調べてたのか。絵画の間に何か仕掛けがあれば、白杉さんが犯人の可能性も出てくるから」

「容疑者となるのは私も同じですけどね。でもそういうことです。それで新菜には一階を担当させたんですけど、今はさぼっているようで……はあ」

「た、大変だね。あ、そう言えば、さっき話した感じだと白杉さんは犯人が分かりそうだって言ってたよ」

「本当ですか!?」

「うん、一応。白杉さんは私のことを疑ってるみたいだったから、単に反応を試しただけかもしれないけど」

「でも、もし事実ならぜひ詳しく聞きたいところですね。探偵としては悔しいですが、事件解決に越したことはありませんから」


 探偵としての矜持が彼女の綺麗な瞳に満ちている。

 どうしてこの年で探偵業を始めることにしたのか。探偵としての自覚は妹と姉でかなり違っているように思えるし、どんな経緯があっての今なのか凄く気になる。

 少し尋ねてみようかと思うも、階段を下りて二階に到着してしまった。

 ここから天使の庭までは僅か。ここで聞いても中途半端なところで終わってしまうだろうし、また今度でいいかと思考を切り替えた。


「白杉さん天使の庭にいるはずなので、もうちょっとだよ」

「はい」


 二人並んで扉の前に近づく。

 さっき彼と会ってからまだ十分と経っていないし、たぶん部屋は移動していないはず。

 あの別れの後でまたすぐに尋ねるのはちょっと気まずいので、交渉は伊緒ちゃんに任せてしまおう。

 扉の前に立つ。伊緒ちゃんが隣にいるからか先ほどと違いそこまで緊張はない。

 私は軽く扉を叩くと、僅かに扉を開け声をかけた。


「白杉さーん、まだいますかー?」


 先とは違いすぐに返事が返ってこない。

 もうちょっとだけなら開けても平気かと、扉をさらに押し中を覗き込む。と、途中で扉が何かに突っかかり開かなくなった。


「えと、あれ?」

「どうしましたか?」

「なんか扉が開かなくて」


 部屋の奥に視線が行かないよう気を付けつつ、隙間に首を突っ込む。そして扉の後ろ側を見て――


「……………は?」


 目を見開き倒れている白杉の死体を発見した。


ああ、また……。館もので人を殺さないことの難しさ……

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