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迷い子の館の殺人  作者: 天草一樹
殺人連鎖
37/63

そしてまた決まる今後の方針

休み期間終わったので復活

 おそらくこれから、伊月による盛大な反論が始まる。

 鈴が峰に対してかなり辛辣に当たってこそいるものの、実際のところその信頼はかなり厚い。そんな伊月が、本人気絶の中、こうも一方的に犯人扱いされる様を見て黙っていられるはずもない。

 とはいえ状況は鈴が峰にとってあまり有利とは言えないもの。一体どうやって否定するのだろうか。

 私が伊月に対して視線を送っていると、案の定彼は口を開いた。けれど、そこから出た言葉は予想していたものとは大きく異なっていた。


「鈴が峰が怪しいのは認めましょう。しかしまさか、それだけの理由で彼を犯人と決めつけたりはしませんよね」

「それは勿論です。あくまで容疑者候補として、今度こそ徹底的にその行動を制限させていただきたいと考えています。申し訳ないですが、伊月さんと渡澄さん以外で」

「鈴が峰をしっかり監視できなかったのは私の落ち度ですし、それは構いません。ただし、先入観を持たず、しっかりと事件の真相究明を行っていただきたい」

「無論です。探偵としての誇りをかけてお誓いいたします」

「あ、私も誓います!」


 即断した姉に倣い、妹である新菜ちゃんもアピールする。

 伊月はそれで満足してしまったらしく、それ以上鈴が峰をかばう素振りを見せず引き下がってしまった。

 無実であることを信じているため、ここで無理に反論する必要はないと考えたのだろうか? だとしてもかなり違和感が強い。鈴が峰はこれまでいくつもの事件を解決してきた名探偵のはず。その実力を隣で見てきた伊月なら、ここは鈴が峰に事件解決に動いてもらおうとするのが普通ではないだろうか。なのにこのままでは、彼は事件を捜査することもできず監禁されてしまうことになる。

 伊月の対応が理解できず、私は頭を悩ませる。しかし、その間にも話は進んでいき、鈴が峰を最有力容疑者として閉じ込める流れが作られていった。


「行動を制限するっていうけど、どこに閉じ込めるの」

「一応怪我もされていますし、昨日同様医務室でいいかと」

「見張りはどうする。伊月と渡澄を除くとメンバーはかなり絞られるが」

「私たち姉妹は事件の捜査をしたいので、面倒かとは思いますが残りの四人で交代してくださると有難いです」

「アリバイのない者も単独で動いて構わないのかね?」

「構いません。ただ、くれぐれも警戒は怠らないでください。館に仕掛けられたトラップで殺された可能性も十分ありますから」

「私と伊月さんはどうしていたらいいのかしら? やっぱり医務室以外で待機しているのが望ましいの?」

「別に医務室にいてくれても問題ありません。ただ、鈴が峰さんの監視や付き添いとしての人数にはカウントしません」

「それじゃあ――」


 皆からの質問に対しててきぱきと答えていく伊緒ちゃん。

 何だかデジャブな気もするなあと、間の抜けた顔で私はそのさまを眺める。

 今更だけれどここに集められた人は顔がいいだけでなく頭も良い。まあ例外もいるけど――私とか厚木とか――、これが推理小説ならこの中の誰が探偵役をやっても不思議じゃないレベルだ。

 逆に言えばこの中に日車殺しの犯人がいたら、その犯行方法は複雑で精緻なものだろう。日車の仇を、なんて意気込んだはいいものの、私なんかが事件を解決するなんて無理な気がしてきた。大人しく、皆に事件の捜査を任せるのがいいかも……。


「では、鈴が峰探偵を医務室に運びましょう。伊月さんと、白杉さん。申し訳ないですがご協力お願いします。新菜はここで監視役を決めるのの手伝いをしてて」

「りょーかい!」


 ビシッと敬礼する新菜ちゃん。

 そんな彼女に小さく頷いた後、伊緒ちゃんたちは鈴が峰を運んでいく。結局鈴が峰はこの議論中、一度も起きることなく退場してしまった。

 四人が部屋から出ていくと、薄い沈黙が私たちを包んだ。

 てっきり新菜ちゃんがすぐさま話題を提供するかと思ったが、俯いてぶつぶつと何かを呟くだけ。まさかこの状況で伊月のことを考えているとは思わないが、この沈黙はとにかく気まずい。

 鈴が峰が最有力容疑者という結論にこそなったものの、全員がそれに納得しているわけではない。そもそもそこまで信頼関係があるわけでもないため、今は互いに神経が過敏になっている。

 そんな疑心暗鬼が部屋中を漂っているわけで、静かになれば成る程周りの目が気になってしまう。

 私は小声で何度か発声練習をしてから、おどおどと切り出した。


「あ、あの、そう言えば少し気になってたんですけど、皆さんよくあんなすぐに天使の庭に駆けつけてこれましたね。ここの防音ってかなりのものだと思うんですけど、私の悲鳴ってそんなに大きかったですか?」


 無視されたら辛いなと思いながら見回すと、黒瀬がすぐさま返事を返してくれた。


「まあ尋常じゃないほど大きかったけどね。でもそれだけじゃなくて、少し扉が開いてたのが原因かな。お姉さん、部屋を出た時扉しっかり閉めなかったでしょ」

「えと……どうだったかなあ? あんまり記憶にないけど、でも開いてたならそういうことだろうね」


 黒瀬が寝ていたからそっと部屋を出ようとしたのは覚えている。それで音をたてないように扉を開けたのは間違いないが――扉が閉まる音を恐れて少し開けたままにしたのだったか。

 しっかり記憶を掘り起こすより早く、今度は渡澄さんが口を開いた。


「私たちも同じです。ちょうど鈴が峰さんが部屋に帰ってきて、扉が開いていたの。そのおかげで深倉さんの悲鳴を聞き取り、駆け付けることができました」


 さらに部屋の防音性を示すように、厚木がまた、無意味に胸を張りつつ言った。


「うむ。私はしっかり扉を閉めて寝ていたからな。君の声は特に聞こえてこなかったよ。だが、あの探偵のお嬢さんと白木とかいう男が扉を叩いてきてね。悲鳴が聞こえたから付いてこいと呼び起こすものだから、仕方なく私も付いていったというわけだ」

「だからなんでそこで上から目線なのよ」

「うん、今何か聞こえた気がするが?」

「気のせいですよ。それより、皆さんがどうしてすぐに来れたのかはわかりました」


 私の勘違いでなく、この館の防音性はかなり高いようだ。偶然どの部屋も扉が開いている状況だったから、ああもすぐに全員集まることができたらしい。

 ここでも偶然という言葉がちらつき、それが少し気にかかる。けれど今回は厚木という例外もいることだし、流石に意図されたものではないだろう。

 と、再び会話が途切れてしまった。また何か話題をと考えていると、ついに新菜ちゃんが「パン!」と手を叩き、口を開いた。


「よーし、それではこれから鈴が峰さんの監視役を決めていきたいと思いまーす。で、まずなんですけど、アリバイがあって絶対に犯人じゃない深倉さんと白杉さんのどちらか一人は、常に監視役がいいと思うんです! それで黒瀬君と厚木さんの二人が、このどっちかとペアを組む感じで。さらにさらに個人的な見解からすると深倉さんと黒瀬君、白杉さんと厚木さんのペアがいいと思うんだよね。元々このペアで動いてたのもあるし、一番気楽にやれると思うから! 問題があると思う人は遠慮せず挙手してくださーい!」


 自ら手をまっすぐと上に伸ばし、私たちの顔をぐるりと見まわす。

 白杉がこの場にいない以上勝手に話を進めるのもどうかと思うが、概ね異論はない。私としても厚木と二人で監視と言うのはご免被りたいので、この組み合わせだと有難い。

 黒瀬も厚木も問題を感じなかったようで、静かに頷いて肯定の意を示している。

 一人あぶれる立場となった渡澄さんは、私に顔を近づけると「私も一緒に見張りをしてもいいかしら」と聞いてきた。勿論ダメなことなど何もないので、首を縦に振ってこたえる。

 こうして実にあっさりと、私たちのこれからの行動方針は決まってしまった。


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