またも方針転換……不安だ
がつん、とめちゃくちゃ痛そうな音が館に響く。それと同時に意気揚々と話していた鈴が峰は白目をむいて倒れこんだ。
再び呆気にとられる私たちを前に、彼を気絶させた張本人である伊月は、「失礼しました」と頭を下げた。
「いつも勝手に喋るなと口を酸っぱくして言っているのですが、どうにも学習能力がゼロの猿以下の生き物でして。これ以上勝手に話したり動いたりしないよう、どこかに監禁させてもらいたいのですが、良い場所はありますか」
「あ、えと、監禁……はともかく、傷の手当てをした方がいいと思うので、医務室はどうでしょうか?」
「はい。では申し訳ないですがそこまで案内をお願いします。それと、もしあればでいいのですが、ガムテープと縄もいただけると助かります。この館の現状や、その他詳しい話についてはそれからじっくり聞かせていただけたらと思います」
「あ、はい……」
完全に理解が追い付いていない様子ながら、渡澄さんが医務室へと伊月を案内する。超美少年な見た目と華奢な体つきにそぐわず伊月はかなり力持ちで、軽々と鈴が峰を背負うと渡澄さんの後ろをついていった。
残された私たちはそれぞれ顔を見合わせ――互いの困惑気な表情から誰一人として今の状況を理解できていないことを再確認した。
ここに集められたメンバーも皆個性的で驚いたものだが、今来た二人はそれに輪をかけて個性的だ。というか情報量が多すぎて、何から突っ込んでいけばいいのかすらわからない。
しばらくは皆無言で立ち尽くしていたが、冷静さを取り戻したらしい黒瀬が伊緒ちゃんに尋ねた。
「あの二人、特に鈴が峰とかいう男の方だけど探偵って言うのは本当なの? 確かに見た目は探偵っぽかったし、推理力が高いのも間違いなそうだけど」
伊緒ちゃんは硬い表情のまま、小さく頷いた。
「間違いないと思います。私たちが探偵活動を始める際、参考にと現在探偵活動をしている方の情報を調べてみたことがあります。その中で、ある種都市伝説のように語られていた探偵の名前として拝見しました。容姿に関する記載も見た通りだったので、ほぼ確実かと」
「それで、死神探偵って言うのも調べた時に書いてあったの?」
「はい。小説や漫画の探偵のように、彼が赴く場所では高確率で殺人事件が起きるそうです。ただそれも偶然というわけでなく、きっかけを作るのは毎回探偵自身だと書かれていました」
「ふーん。事実だとしたら本当に厄介な人が来ちゃったわけだ。ただでさえ事件が起きそうな――いや、起きてる館だし、これ以上面倒ごとは勘弁なんだけど。因みに探偵としての腕前はどうなの? 助手の美少年は優秀な探偵だって言ってたけど」
「ネットで見た限りではそれも事実だったと思います。解決率は百パーセントの解けない謎はない名探偵だとか」
「百パーセントは逆に怪しいけど……まあ取り敢えずどんな人かはなんとなく分かったよ。ついでに助手の方は知ってる? 容姿だけなら探偵より遥かに噂になってそうだけど」
「少なくとも私の見たサイトには書いてませんでした。最近助手になったのかもしれませんね」
「そう……」
一通り知りたいことは聞き終えたのか、黒瀬は下を向いて黙り込む。
私としては黒瀬が最初に言った、「鈴が峰の格好が探偵っぽい」という言葉に頭を捻り続け、他のことはあまりよく聞いていなかった。昔の映画で見たことがあると思っていたが、探偵映画だったろうか? やはりよく思い出せない。
頭を悩ませ続ける私を奇妙に思ったのか、「どうしたのかにゃ?」と日車が聞いてくる。しかし彼が知っているような映画とは思えなかったため、軽く首を振って誤魔化した。
「それより、今後の方針はどうする。また扉が閉まった以上、明日ここから出ることもできなくなった。新しい遭難者も加えて、またグループ行動でも続けるのか」
今までずっと黙していた白杉が口を開く。
黒瀬は目線を床にやったまま「そうだね」と小さく呟く。それからすぐに顔を上げ、「一度グループ行動はやめようか」と言ってきた。
「なぜだ。今回の一件から、館を揺らす衝撃と扉の開閉が人為的なものであることは確実となった。むしろ今まで以上に互いを見張り合い、慎重に行動すべきではないのか」
「まあね。でも人為的であることが確定したからこそ、僕としてはこれまでと違う行動をとりたい。というか、取らないとそれこそ何かされる可能性が高そうだから。だって今扉を閉めたってことは、まだ僕たちにこの館から出て欲しくないって証拠でしょ」
「確かにそれもそうだな」
「まあもちろん、これからもグループで行動したい人はすべきだと思うけどね。その方が安全なのは間違いないと思うし」
「いや、結構だ。自由に動いていいというのならそうさせてもらう」
そう言うと、白杉はこの場に興味をなくしたらしくすたすたと階段を上っていってしまった。
こんなあっさりとルールを変えてしまっていいのかと、私は少し不安な気持ちになる。それに単独行動を許容するというのは、最低でも誰か一人が犠牲になることを前提としていないだろうか?
けど、抗議をしようにも討論で黒瀬に勝てる気はしない。白杉はとっくに二階へと上がってしまったし、他の人たちも気にしていないようだ。
この状況で意見できるほど私の精神は強くない。もどかしく思いつつも、成り行きを見守ることにした。
白杉が二階に上がったのを見届けた後、新菜ちゃんが大きく手を上げた。
「はい! 自由に行動していいなら、私は探偵さんたちの様子を見に行きたいです! 本当に凄い探偵ならこの状況もシュビッと解決してくれるかもしれないし! それに伊月君ともお話してみたいから……ね、お姉ちゃんもそれでいいよね!」
「え、あ、うん……」
頷きこそしたものの、明らかに伊緒ちゃんの表情は冴えない。館からまた出られなくなったことに怯えて――とかではなく、鈴が峰が来たことに対して恐れを抱いているように見える。噂のことを気にしているのか、それとも――
気になって伊緒ちゃんの顔を見つめていると、厚木が口を開いた。
「では私は部屋に戻らせてもらうとしよう。君子危うきに近寄らずと云うからね。噂とは言え死神と呼ばれるような男と話すのは避けさせてもらおうか。では、三階の客室にいるからまた何かあったら呼んでくれ」
どの口が君子などとのたまうのか。単にビビッてるだけだろうに。
私はジトーっとした視線を彼に向けるが、厚木は気づかぬ様子で階段を上っていく。
軽く息を吐いてこのもやもやを追い出すと、私は黒瀬に視線を移した。
「黒瀬君はこれからどうするの? やっぱり医務室に行って様子を見てくる感じ?」
「いや、僕はしばらくここにいるよ。人為的に扉が開かなくなったのなら、扉の周りに何かヒントがあるかもしれないしね」
「そっか。まああんまり無理はしないでね」
黒瀬は返事をせずに頷きだけ返すと、早速扉に近づき調べ始めた。
扉の調査自体は昨日も今日もやっており、今更新しい発見があるとは思えない。しかしよく思い返すと、これまで黒瀬自身が扉を調べていたことはなかった気がする。ここは気のすむまでやらせてあげようと考え直した。
私は最後に日車を見ると、
「にゃあは深倉に着いていくにゃよ」
聞く前に即答された。
結果私と小鳥遊姉妹、日車の四人で医務室にいる探偵たちに話を聞きに行くことになった。
毎日投稿だとこれまでの文章を読み返している時間がない……。もし口調が明らかに変になってるキャラとかいたら教えてくださると助かります。あと読みにくい部分とかも遠慮せずに突っ込んでいただけると、作品のクオリティアップにつながると思いますので嬉しいです。
余計な会話挟み込み過ぎているせいでなかなかテンポが悪いですが(自覚あり。しかし直せぬ)、まだまだ続きますので今後とも読んでくださると幸いです。