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迷い子の館の殺人  作者: 天草一樹
殺人と探偵
20/63

館は再び外と繋がる

「うわ、わ、わ、わ――」


 今日は事件と呼べるようなものが何も起こらず、完全に油断しきっていた。そんな折にやってきた特大の衝撃に、口から変な声が漏れる。

 誰もが必死に手近な家具に摑まり、体が飛んでいかないよう衝撃から身を守る。

 今度の衝撃も長持ちはせず、すぐに収束。

 収束後もしばらくは誰も動けずにいたが、渡澄さんの「皆さん、無事……ですか?」という呼びかけのおかげで正常な思考が戻ってきた。

 私と黒瀬が上ずった声で返事を返す中、ソファの隅っこで丸くなっていた日車が、「もう昨日から一体なんなのにゃ! 早くにゃあをここから出すのにゃ!」と叫んだ。

 癇癪を起して手足をばたつかせる彼をなだめに、渡澄さんが近づいて背中を撫でてあげる。黒瀬がそんな二人を少し羨ましそうにしているのが目に入るが――今はそんなことより大事なことがある。

 私は軽く深呼吸して心を完全に落ち着かせると、三人に疑問を提起した。


「昨日の話し合いではなぜか触れられなかったけど、今の衝撃って何なのかな?」


 黒瀬が普段より真剣な表情でこちらを見た。


「そんなの地震に決まってる――って言いたいけど、二日連続同じ地震って言うのは厳しそうだね。それにこれまでの話し合い的に、扉が開かなくなったのも僕らをここへ連れてきた何者かの可能性が高いし」

「この揺れすら人為的に起こされている……。もしかして、館が変形しているんじゃないでしょうか? 西郷さんはその変形に巻き込まれ、どこかに姿を消してしまった、とか」

「館の変形なんて非現実的、って言いたいけど、これも今更か。とはいえ今日調べた感じじゃあ、昨日と特に差はなかったように思うけど。まあ、僕らは今日一階しか見てないけど」


 日車は元からやる気なし。私と黒瀬は階段を上るのが非常に億劫。そんなメンツだったため、二階と三階は他のグループに完全に任せてしまっていた。

 代わりに一階はかなり隅々まで調べてみたが(トイレの全ての個室に入って、隠し扉的なものがないかなんてことまでやってみた)、昨日西郷たちと見回った時との違いは何も感じなかった。

 まあそんなあからさまな違いがあれば、西郷を探しに館を調べていた際誰かが気付いたはず。だから館が変形した可能性はないと思うけれど。


「なら、館の一部だけが一瞬変形したというのはどうでしょうか?」

「どういうこと?」


 かなり想像力が豊かなのか、渡澄さんからさらなる意見が出てくる。


「例えばですが、天使の庭の床や悪魔の庭の床なんかが一瞬だけ開き、地下に人を落とすような仕組みがあるのではないかと。その際に館全体に強い衝撃が走るんです」

「まあそれなら見た目上、昨日と今日とで何も変化がないことに説明はつくけど。僕としてはどうしてもそんなことありえないだろ、って気分になるなあ」

「そう? 私としては結構ありそうな気もするけど。二階と三階の下に妙な空間がある理由にもなるじゃない」

「そんなバカげた仕掛けのためにこんな構造の館にしたってこと? 信じたくないけど、こんな下らない状況を意図的に作った人物が実在するなら、やりかねないことではありそうか」

「というか、もしそれが事実だとしたらまた誰かいなくなってる、ってことになるよね?」

 私たちは顔を見合わせ、一斉に立ち上がる。

 三人揃って扉を出たところで、私は日車が付いてきていないことに気付く。今衝撃があったばかりだし、このタイミングで新たに事件が起きるとは思えないが――念のため連れていくことにする。

 フードの耳を引っ張って連れて行こうとしたところ、「耳が裂けるのにゃ! 付いていくから止めるのにゃ!」と暴れだした。仕方なく耳を話すと、日車は少し涙目になりつつすたすたと通路へ出て行った。


 ――流石に雑に扱いすぎだただろうか。少し反省しないと。


 脳内で多少自分を戒める。

 それはともかく、改めて私たちは四人揃って、他のメンバーがいるであろう三階を目指した。

 私と黒瀬は息を乱しながら、渡澄さんと日車は一切呼吸を乱すことなく三階に到着する。

 まずは小鳥遊姉妹の無事を確認すべく左の客室(客室A)の扉を叩く。するとすぐさま扉が開き、右側サイドテールの女の子が現れた。

 右側ということは妹の新菜ちゃんのはず。その考えを裏付けるように、彼女は目を見開いて渡澄さんに飛びついた。


「よかった! 皆も無事だったんだね! またあの大きい揺れが来たから、誰か消えちゃったんじゃないかって心配しちゃったよ! あ、私もお姉ちゃんもぴんぴんしてるから心配しないで!」


 これだけ元気なら確かに問題ないだろうと安堵していると、後ろから左側サイドテールの伊緒ちゃんが顔をのぞかせた。


「皆さん、わざわざ心配して見に来てくれたんですね。有難うございます。白杉さんと厚木さんの姿はないようですが、確認はこれからですか?」

「あ、はい。おそらく隣の客室にいると思うので、今から安否を確かめに行くところです」

「では、私たちもお供しますね」

「小鳥遊探偵団シュッパーツ!」


 新菜ちゃんは勢いよく拳を天高く上げると、その勢いのまま隣の客室に突撃していった。

 相も変わらず元気が弾けた疲れ知らずな女の子である。私とは見事なまでに対照的。

 眩しいものでも見るように目を細めながら彼女の後ろをついていく。

 白杉たちがいるはずの客室Bに辿り着くと、新菜ちゃんは遠慮という言葉を置き去りにした、全力のノックを披露してくれた。


「白杉さん! 厚木さん! ご無事ですか! お二人以外は全員無事に集まってますよ!」


 すると騒音に堪えかねたのか、すぐさま扉が開き、眉間にしわを寄せた白杉が出てきた。


「そんなに強く叩かなくとも聞こえている。幸いにもこちらも無事だ。まあ多少傷を負った者もいるが」


 白杉が言い終わらないうちに、彼の後ろから鼻を手で押さえた厚木が姿を現す。彼の手は赤く塗れており、表情も忌々し気に歪んでいる。

 彼は赤く塗れていない方の手で私たちを指さすと、「誰かティッシュかハンカチをくれ」と言ってきた。

 まあ見たままであるが、先の衝撃に驚いて鼻から床に落ち、鼻血を出してしまったらしい。

 「ティッシュならあるからちょっと待ってて!」と言って新菜ちゃんが客室Aに駆け足で戻っていく。流石に探偵七つ道具の一つではないだろうが、探偵としてティッシュぐらいは常備しているようだ。

 というかティッシュの一つや二つぐらい、いい大人なら常備してそうなものだが――まあ厚木にそんな期待はしてはいけないか。

 私は勝手に彼を哀れんだ目で見つめる。しかし厚木は鼻血にかかりっきりの様で、まるでこちらの視線に気づかなかった。

 新菜ちゃんがティッシュを持って戻ってきたところで、渡澄さんが口を開いた。


「取り敢えず、誰一人大きな怪我をすることなく、こうして集まれたことを嬉しく思います。そこで早速なのですが、皆さん一緒にあそこを確認しに行きませんか?」

「あそことはどこだね」


 鼻にティッシュを詰めた厚木が、早くも普段の偉そうな態度を取り戻し聞いてくる。なんて切り替えの早い奴だと私は呆れた目で見るが、渡澄さんにそのような思考回路はない。澄んだ瞳で階段の下を指さした。


「勿論館の玄関扉です。昨日はこの衝撃の前後で、西郷さんの失踪と扉の閉鎖という二つの事件が起こりました。今回は誰も失踪しませんでしたが、扉の方はもしかしたら変化が起きているかもしれません。万が一開いた場合、中にはすぐさまこの館を出たいと考える方もいらっしゃるでしょうし、少なからず話し合いが必要だと思います。なのでここは、全員で見に行くのがいいと思うのです。無駄足になる可能性もありますが」


 当然というべきか、渡澄さんの意見に反対する者は誰もいなかった。実際提案されずとも、それぞれ見に行くつもりだったろうし。

 新菜ちゃんを先頭に、私たちは固まって階段を下りていく。道中ちらちらと館内を眺めてみたが、特に変わった様子はなかった。

 何事もなく一階までたどり着いた私たちは早速扉に近づく。先頭を歩いていた新菜ちゃんがそのままドアノブに手をかけ、扉が開くか試してみる。

 すると、驚くほどあっさりと。玄関扉は開かれ、館は外界との往来を取り戻した。


今更ですが、文章へたくそで申し訳ない。毎日更新(仮)だとやっぱりそこまで気を使っていられず……まあ普段の文章も下手ですけど。取り敢えずもう少ししたら、この物語もようやく事件パートに突入しますので、お付き合いいただけると幸いです(まだ事件パートじゃないという事実……震えてくるぜ)。

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